第12話 助けてあげたくなるよなぁ?
ザッザッ。
槙島達とダンジョン内を歩く。
「ったく、こんなところに2人で放り出すなんて学校も酷いよなぁ」
「ははっ。まったくですよ」
そう返してくる槙島も気持ち元気がないように見えた。
「ピッ」
そのときだった。
リーナが手で俺たちを制してきた。
「なんだ?なにかあるのか?」
「ピッ」
リーナが手で前を指さした。
その指の先には
「ウルフ、か」
ウルフが丸まって寝ていた。
んで、その周りには。
「取られたっていう荷物か?あれは」
アイテムポーチのようなものが散乱しているようだ。
コクリと頷いた槙島。
奪ったアイテムポーチをあぁやって傍に置いてるってワケか。
「どうする?回収するか?」
「できればしたいですけど」
それはそうだよな。
「ただ相手が変異種なんだよな」
普通のウルフとなるとこのまま突っ込んでもいいかもしれないけど、変異種は戦闘能力が上がることがある。
行動パターンも変わるし。
正直相手にしたくないんだが。
あと知能も上がるため、厄介な動きをすることもあるし。
ただまぁ。
俺の顔を見て頷いてくる槙島。
その表情からある程度何を言いたいかは理解出来る。
「回収するってことね」
「ご迷惑かけますが」
「気にしないでよ」
困ってるやつがいたら助けてやれ。
ギルドから耳にタコができるくらい聞かされてきた。
そういえば、と気になったことを聞いてみる。
「変異種に襲われた割には怪我してないんだね」
「はい。荷物を奪われただけですので」
んー?
それってどういうことなんだろうか?
モンスターが荷物だけを奪った、か。
普通少しばかり戦闘くらいはありそうだけど。
そう思いながらコソコソとウルフに近寄っていく。
物音を立てないように慎重に。
変異種と戦ってもなにもいいことはない。
気付かれずに荷物だけ奪い返せばいい。
そうして
「着いたね」
小声で槙島に声をかける。
そうしながら俺はある事に気付いた。
(なんのために荷物を奪ったのかと不思議だったけど腹でも減ってたのか?)
ウルフの周りには開封された食料の残骸が散乱していた。
「じゃ、回収します」
コソコソ、ソローっと自分の荷物に手を伸ばそうとする槙島。
そして。
ガッ。
自分の荷物の回収に成功したようだ。
「やりました」
小声でそう報告してくる槙島。
そのとき
「グルゥ……」
変異種が体を起こした。
気付かれた?!
「ピッ」
すぐに戦闘態勢を取るリーナ。
それから
「このっ!」
槙島も剣を抜く。
流石だな。
未来を担う冒険者として訓練されているようだ。
と、思ったが。
「グルゥ……」
ピタッ。
上半身だけを起こして動こうとしない変異種。
よく見ると
「怪我してるのか」
「グルゥ……」
左の後ろ足を怪我しているように見えた。
(まさか食事をして傷を治そうとしていた?)
なんとなくそう思った。
となると、荷物を奪った理由も分かるというものだ。
食料を目当てにしていたのだろう。
ヨロヨロ。
起こしてる上半身にも力が入っていないのかフラついてる。
その弱々しい感じに見ていられなくなった。
ウルフと言えば気高い生き物。
そんなイメージがあるし弱い姿なんて見せないと思うけど、今のこの目の前の変異種は弱っているところを見せている。
あぁ、もう。
調子狂うよな。
助けてやりたくなる。
「リーナ手を戻して」
「ピッ」
ニュルーン。
剣の形にしていたリーナの手は元に戻る。
「な、モンスターに近付いて何をするつもりですか?」
槙島がそう聞いてくるので答える。
「治療するんだよ」
アイテムポーチから包帯を取り出した。
応急処置だけど、しないよりはマシだろう。
「治療?モンスターを?き、危険ですよ」
そう言っているが俺既にスライムのこと助けたしなぁ。
でも一般的にやはりモンスターというのは危険と言われているわけだし。
「荷物の回収は済んだよね?ここで別れるのもいいと思うけど。俺は助けてやりたいんだ」
「むっー」
悩んでいるらしい槙島を見つつ俺はウルフに近寄ると敵意がないようにアピールするが。
「グルゥ……」
警戒が解けていないのか俺が向かう方向に首を動かしてくる。
ま、当然か。
なんとか警戒を解かないとな。
「待ってろよ」
本当はここで使うつもりじゃなかったけどさ。
先程回収したメラメラ石を取り出す。
「リーナ。たしかフライパン持ってきてたよね」
そう聞くと。
ゴソゴソ。
「ピィ」
アイテムポーチからフライパンを取りだしてきた。
「よし、いい子だ」
なんて会話をしていると槙島が驚いたような顔で俺を見てくる。
「フライパン持ち歩いてるんですか?」
「うん。俺ギルドの食料が合わなくてさ。毎回こういうとこ来るなら自分で作るよ」
ダンジョン内での食事は基本的にサクッと取れる手軽なものが主流になっている。
ゼリー状のものを飲んだり、ね。
でも、味気ないんだよなぁあれ。
「さてと」
メラメラ石を地面に置いた。
後は、ファイアだな。
ファイアなんて使うの何年ぶりだろう?
高校で習ったきりほとんど使ってこなかったからな。
出るかな?
緊張しながら
「ファイア」
呟くと、ボウっ!
とメラメラ石に火がつく。
(なまってなかったな)
その上にフライパンを置いて、アイテムポーチから取り出した食材を出して調理に入る。
数分後。
「ほら」
後始末をしてから俺は調理した肉をウルフの前に投げた。
「グルゥ……」
クンクン。
火を通したものなんて普段口にすることは無いだろう。
しかし本能で食べ物だと分かっているようで。
「グルゥ……」
ヨダレが垂れていた。
「食べなよ」
そう言うと。
ガツガツッ。
ハッハッと息を荒くしながら目の前の肉に食いつく。
ガツッ!
ムシャッ!
よっぽど腹が減ってたんだろう。
「いい食いっぷりだな」
人間もモンスターも腹が減っていたら目の前の食べ物のことしか見えなくなるらしい。
「グルゥ」
頷きながら食事を進めていくウルフ。
やがて食べ終わると顔を上げた。
「グルッ」
満足そうな顔をしていた。
もう一度近寄ってみると
「……」
俺を見つめてくるけど威嚇するような態度は見せない。
どうやら敵意は少し解れたようだな。
んで、ウルフの後ろ足まで回るとしゃがみこむ。
「見せてもらうよ」
スっ。
足に手を伸ばす。
「ガルッ」
吠えるかなとか思ったけどそんなことも無く、割とすんなりと傷口を見せてくれる。
「あー、ダンジョンビルだな、これ」
足を見るとヒルが付いていた。
種類までは分からないけどダンジョンに生息すると思われるヒルに寄生されているようだ。
「えーっと。ヒルに効くのは」
アイテムポーチを開いて俺はとある薬草を取りだした。
少し香りの強い草だ。
それを傷口から血を吸っているヒルに近付けると。
ボトッ。
香りが苦手なのか傷口から離れて地面に落ちた。
ダンジョンビルは普通のヒルとは違い吸血量も半端ない。
だから寄生された時のことを考えて、義務教育で外し方は絶対に習う。
ヒルがどうするのかを見ていたらそのままひょこひょことナメクジみたいにモゾモゾと移動を始めようとしていた。
今トドメを刺さなくてもあんな格好で歩いているとどこかで捕食者に食われるだろうな。
さてと。
「次に止血をして」
ヒルに寄生されると血が止まりにくくなるので。そのケアのために軽く薬を塗って包帯を巻き付ける。
これで終わりだ。
スっ。
立ち上がって。
「じゃ、俺達も行こっか」
槙島達に目を戻してダンジョンを進むことを提案。
俺は最後にウルフを振り返る。
「じゃあね。頑張って生きなよ」
「ガルッ」
ウルフはそう返事をして俺たちの姿が見えなくなるまで見送ってくれていた。
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