第11話 噂の高校生

今日の目当てはメラメラ火山でしか取れない鉱石だ。


メラメラ石という鉱石。


「ふぅ」


冒険なんてもう何年もやってきてない。

一歩一歩歩く度に正直


「しんどい!」


って思う。


「ピィ?」


大丈夫かって聞いてるんだろう。

リーナに首を縦に振ってそのまま歩き続ける。


てかあちぃんだよなぁここ。


「ふぃー、うぇぇ……」


汗がダラダラだ。

でも歩かないと。


そうして歩いていると


「あった」


壁に近寄る。

溶岩が流れるみたいにトローッとしている壁から生えている鉱石。


「メラメラ石だ」


中には火が閉じ込められている。

すごくファンタジーなアイテムだ。


俺はそれを採取する。

熱そうな見た目だけど。

実際は意外と熱くないんだよなぁ、これ。


アイテムポーチにしまって、次を探す。


ちなみにこの鉱石は炭みたいになにかを焼くために使うんだけど、これで肉焼くとうめぇんだ。


思い出すと


「じゅるり……」


おっと。ヨダレが出てきそうだ。

思い出さないようにしよう。


特にやることもないからダンジョンに入る前に配信をスタートさせていたのだが、誰か見てるだろうか?

コメントを見る。


"メラメラ火山かー。この前行ったなー。暑いよねーここ"


リスナーの中で行ったことがある人がいた。

そう。熱いんだよなここ。


「ピィ……」


リーナも熱いのかグダーっとしている様子だ。

ところでスライムって暑さとか大丈夫なんだろうか?


特に気にすることなく連れてきたけど。


「ほら、喉乾いたら飲みな」


一応持ってきたペットボトルをリーナに渡しておく。


そうしながら俺は呟く。


「にしても研修場所がここって高校生たちも大変だなぁ、おい」


ここに来る前にギルドの職員に聞いたことを思い出す。

今日ここには高校生が研修に来ているらしいが。


「俺なら泣くわ。こんなところに行けとか言われたらなぁ」


だって、クソあちぃんだもんなぁ。


「ピィ」


リーナも同意なようだ。

頷いていた。


そうして歩いていたときだった。


「す、すいませぇ〜ん」


声をかけられた。

振り向くと


(噂の学生か?)


そこに立っていたのは成人してないだろうと思われる少女。


俺は配信を止めた。

一応そのプライバシーの問題とかもあるし?


その子が口を引く。


「私たち近くの高校の者なんですけど。その迷ってしまって、同行をお願いできませんか?」

「ゴール地点は?」


こういう研修では一応ダンジョンをクリアしてこい、ということを言われることは基本的にない。

どこか別の場所がゴールとして指定されていてそこまでたどり着け、というのが一般的だけど。


「5階層みたいですね」


と言ってマップを見せてきて教えてくれる。

5階層なら丁度いいかもしれない。


「俺たちもそこくらいまで行く予定だからいいよ。同行するよ」


そう言うと少女の顔に笑顔が浮かんだ。


「もう1人いるんです。こっちに来てください」


そう言って女の子はどこかへと歩いていく。

その道中で女の子が自己紹介してきた。


槙島まきしまです」

「分かった。槙島さんだね」


確認を取ってしばらく歩くと槙島は近くにあった横穴の中へと入っていく。

着いてこい、ということらしいので俺も中に入ると


「だれ?」


中に1人いた。

目が結構怪しい感じになっている。


「大丈夫?」


槙島が女の子に聞いているが、大丈夫じゃなさそうだな。


「軽い脱水症状が出てるな」

「ど、どうしたらいいんでしょう?」


そう聞いてきた槙島に答える。


「とりあえず水分取らせないとな。なにかもってる?」

「そ、それがないんです」


はぁ、準備が甘かったパターンか。

ゴソゴソ。


アイテムポーチからペットボトルを取り出すと


「ほら」

「あ、ありがとうございます!」


槙島に渡した。

学生とか駆け出し冒険者にありがちなんだよなぁ。


準備不足。


普段ダンジョンに潜らないからどの程度アイテムが必要なのか、が分からず足りなくなるパターン。


とは言え学校側もそんなこと分かっているから緊急連絡先みたいなのを教えてあるだろうし、それに電話したら助けてくれるはずだが。


槙島達の実力を考えてとりあえずそれをオススメしたいが。


「緊急連絡先、知らされてるだろ?電話しなよ。明らかに準備不足。俺もこのまま同行する気にはなれない」


そう言ってみたがフルフルと首を横に振る槙島。


「そうしようと思ったんです。でも、荷物を奪われちゃって」

「荷物を奪われた?」

「スマホとかも全部奪われちゃったんです。飲み物とかも」

「だれに?」


このダンジョン。

暑いだけで人間の荷物を奪うようなモンスターは出ないはずだけどな。


俺も学生の頃も来たし、卒業してからも何度かきた。

それから考えて荷物を奪うなんてモンスター出現するはずないと思うけど。


だから、そのこのダンジョンは生徒たちに準備の大切さを教える。

それ以上のダンジョンじゃないはずなんだけどな。


「その話ほんと?」

「ほ、ほんとです」


スマホを取り出して画面のロックを解除。


自体は一刻を争うかもしれない。


(この近くだとあの学校だよな?多分)


んで、電話番号を調べて電話しようと思ったけど。


エラー。

エラー。

何度調べものをしようとしてもエラーが出る。

不振に思って電波を確認。


「圏外?」


なんで。

最近のスマホはダンジョンでの使用も考えられていて、回線をばっちり掴むようになっているのにな。


各キャリアもそれを考えて回線を強くしているはずなんだが。


「はぁ……通信障害かよ?最悪だ」


たまにあるんだよな。これ。


ため息を吐いてスマホをしまう。

なるほど。言われた通り厄介なことが起きているようだ。


盗みの件に関してだけの話だけど。考えられるパターンとして一番可能性が高いのは


「変異種か」

「変異種?」


そう聞いてくる槙島に説明する。


「モンスターの中には特殊な進化を遂げる奴がいてな。その特殊な進化をしたヤツらを変異種と呼ぶ」


荷物を奪ったモンスターが何かは分からないがそういう行動をしたのであれば、なんらかのモンスターが変異種になった、それが一番可能性としては高いだろうけど。


それと、もう1つ。


「先に言っておくよ。俺は冒険者でもなんでもない。ただの飲食店のてんちょー。だから期待しないでくれよ?」


んで、とりあえずの選択肢を提示する。


「このままここで救援を待つか、覚悟を決めて前に進む。とりあえずのところはこの2つかな」


俺としては出来るならば1つ目で進めたいが、問題もある。


「救援がいつになるかが分からないのは問題。学校側だって生徒を信じている以上ギリギリまでは救援に来ないだろうし。んで、これを待つ場合だが一番遅いパターンで来た場合こちらの飲料が先に底を突く可能性がある」


これに関してだけど学校側に文句を言っても仕方ないかな。

イレギュラーが今回は重なりすぎてる。


「2つ目はまんま。自分たちの力を信じてこのまま踏破して帰る。どこにあるか分からないし、スマホはどのみち諦めた方がいい」


ダンジョン内で落とすことも考え最近のスマホは格安のものがメインになっている。

だから諦めもつくだろう。


「どうする?そもそもの話。俺が信じられないなら、ここで手を切ってもいいしそこは自由さ」


って聞いて思った。


俺、冒険者みたいだなって。


冒険をやめて長いけど意外といろいろ考えられてるようだ。


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