第9話 配信の効果が出ました
次の日。
俺は土曜日を迎えていた。
土曜日は稼ぎ時だ。
平日はしょっぱい俺の店だが土曜日や日曜日は違う。
いつもより客が入ってくるからだ!
カラーン。
カラーン。
カラーン。
ずっと扉が閉まらない。
客が出たり入ったりしている。
「いらっしゃいませ!」
なんと初見の客がこれでもかというくらい店に入ってきていたのだ。
俺の店は狭い。
フルで座席を使っても10人入るかどうかくらいだが、普段この席が満席になることは無い。
それが例え土日でも、だ。
だけど……。
(これが配信効果なのか?まさか)
今日は珍しく満席になっていた。
原因は、昨日の配信の効果、としか思いようがない。
俺の店の近くにはいつも混雑してるチェーンの店がある。
その店の前を通る度に羨ましいと思っていたけど。
今は自分の店が近い状態にある。
その結果俺とリーナはずっと動き回っていたし。
それで
「すいませーん。注文したいんですけど」
「後でこっちもお願いしまーす」
俺を呼んで注文したいという客の声も止まらなかった。
その注文を聞いて俺はリーナに料理を作らせているが、ずーっとリーナも忙しそうに動き回っていた。
とは言え動かしてるのは手だけだけど。
そしてそのうち
「ピピピ……」
ズニューッ。
手が足りないと思ったのか両手の下から更に手が1本ずつ生えてきた。
ちゃんと手袋をして合計4本の腕で作業を進めていく。
傍から見たらホラーにしか見えない光景だが。
「あの子ほんとにスライムなんだ!」
それを見てお客さんたちは盛り上がっていた。
パシャッ。
パシャッ。
リーナの姿をスマホで撮影する人が多かった。
「うおーっ!すげぇ!手が生えてきた!」
「めっちゃ伸びてるぞ!」
めっちゃ写真を撮られてるリーナだけど。
手を動かしてどんどん料理を作って
「ピッ!」
お客さんの前に出していく。
たまに出すものを間違えてるから謝って取り替えるけど
「気にしないでくださいよ。誰にでもミスはありますから」
とお客さんは笑って許してくれていた。
「それよりもスライムがいる店なんて初めてです!これからも頑張ってくださいね!」
そんな応援するような声も貰えた。
そんなこんなで俺にとって初めての本当に忙しいピークという時間は終わっていく。
・
・
・
「はぁ……」
ドカッ。
営業を終えてソファに座る。
「ピィ……」
リーナも疲れたのか俺の膝の上でヌルーンと溶けてスライム状態になる。
「本当にお疲れ様だよリーナ」
そんなリーナの頭を撫でる。
「ピィ♩」
嬉しそうに鳴き声を上げた。
そんな声を聞きながら俺は今日の売上を確認していた。
ピークが終わってもチラホラと人が入ってきていた。
「こんなに客が入ったことなんてほんとにないよなぁ……」
生まれて初めての多忙というものだった。
マジで死ぬかと思うくらい忙しかったけど。
みんな俺の店に来てよかったって感じの顔で食事してくれてたから嬉しかった。
お世辞だろうけど料理もおいしいって言ってくれ人が多かったし。
「さて、売上の方は……14万?!」
初めて見る額に驚いた。
そんなに売れてたのか?!
この後に原価とか色々引かれるわけだけど。
でも
「すごいぞ……これ。こんなに売れてると思わなかった」
今までは1万ちょいから2万いかないかくらいだったのが一気に跳ね上がった。
リーナの頭を撫でながら口を開く。
「リーナのおかげだな。足向けて寝れないよ」
「ピィ〜」
と、リーナとスキンシップを撮っていた時だった。
からーん。
また営業時間が終わってから扉が開いた。
誰かと思ったら
「はぁ」
思わずため息。
あの金髪だ。
「おっす。また食いに来たぜ」
ドカッ。
椅子に座る。
「今日払ってもらえないなら出禁にしますから」
「払いくなるような味で出してくれよ?チャーハン」
そう言ってくる金髪に頷いて俺は厨房に入る。
リーナは疲れたようなのでソファで休ませる。
昨日の今日でこのクソ客のために働かせたくない。
いつも通り調理に取り掛かると。
カラーン。
また扉が開いて。
そこには
「夜分遅くにすみません。まだ開いてますか?」
追加で客が入ってきたらしい。
そちらを見るとかわいい女の子が立っていた。
営業時間は終わっている訳だが……。
礼儀正しい子だし特に追い払う意味もないか。
「お好きな席へどうぞ」
彼女はリーナが休んでいる近くの席に座った。
そんな彼女に聞く。
「注文は?」
「チャーハンがオスメスと聞きましたのでそれを」
どこかで話を聞いてきたらしい。
俺は頷いて
そしてゴトッ。
「お待たせしました」
一応そう言って金髪の前に置いて。
それから女の子の前にも置いた。
「おいしそー」
女の子はそう言って
「いただきまーす」
食事を進めていく。
そんな女の子を見て金髪が口を開く。
「優しい嬢ちゃんでよかったな?」
そんな男を無視して俺は今日も配信中なのでスマホに目を移すと
"あれ?あの女の子……"
"あれ、あの子だよね?"
と何人かが少女を知ってそうなコメントを残してた。
俺は知らないけど。
それよりも目立つコメントがある。
"あの金髪また来てるんだ"
"店長さんも優しいよね。あんなのをまた店に入れるなんて"
たくさんの人があの金髪についてコメントしていた。
そして、金髪が口を開く。
「相変わらずうまくねぇなぁ?これ」
笑いながらそう口にした金髪。
またか、と思ったその時。
「あら、私はとてもおいしいと思いますけどね」
と少女が口を開いた。
そっちを見る金髪。
「あぁん?」
「品性のない方は舌も悪いのですね。この味が分からないなんてかわいそうな人」
ガタッ。立ち上がる金髪。
「ケンカ売ってる?」
やばそうな空気だ。
俺は下田に連絡をしておくことにする。
一方で少女は続ける。
「はい。そうですけど」
「へぇ、度胸あるなぁ?!ちなみに嬢ちゃんはなに?料理評論家とかってやつ?!」
「そんなに大層なものではないですけど、私はこれでもお店の料理を食べるのが仕事ですので」
ニッコリ笑って少女は机の上に置いてあったスマホを取って俺たちに見せてきた。
その画面は配信中で。
「料理レビュー系ヨンチューバーの佐野と言います」
その名前には聞き覚えがあった。
動画は見たことないけど、かなり辛口のレビューをするということで有名なレビュワー。
「お、お前?!あ、あの佐野?!」
驚きの顔を見せる金髪。
どうやら知っていたようで。
「私の事ご存知なんですね。ならば私がおいしいと言った理由分かりますよね?」
俺には分からないが金髪には分かったようで。
「ぐっ……」
「昨日の配信は見ていました。今日も言いがかりをつけて無銭飲食をしようと思っていたのでしょう?」
そのときだった。
「おい、今の話は本当か?」
下田が入ってきた。
早かったな。
「し、下田?」
驚く金髪に下田は口を開く。
「無銭飲食、か。前から他の店でもしているという報告を聞いている。約束したよな?もうやらない、と。なのにやったのか」
「ち、ちげぇ……」
「冒険者登録を解除する」
「ま、待ってくれ!それじゃ仕事が!」
問答無用に下田は金髪の腕を掴んだ。
「店長だって仕事なんだぞ?」
「ぐぅ……」
俺を見てきた下田。
「悪かったな店長。これで勘弁してくれよ」
千円渡してくる下田。
そんなにしないんだが。
気持ちということだろう。
受け取ると金髪を連れて外に出る下田。
その後佐野と名乗った少女が俺に近寄ってきた。
「店長さんこんばんは。営業時間外に来てしまいすみませんでした。道に迷ってしまって」
とまず、謝ってきた。
「いや、気にしてないけど」
それよりこの人ヨンチューバーだったのか。
なんてことを思っていたら。
少女はニッコリ笑って聞いてくる。
「このお店のこと、正式に動画化してよろしいでしょうか?私のチャンネルで紹介したいと思っていますが。スライムだけではありません。料理も大変おいしかったです」
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