第8話 配信してみる

厨房でいろいろとしていると。

カラーン。


客が入ってきたようだった。


「しゃーせー」

「よーっす店長」


入ってきたのはいつもの常連だった。


「お?今日もリーナちゃんいるんだな」


頷きながら常連は椅子へ座る。

そして


「いつもの」

「いつものが何かを覚えてるか?リーナ」


まだ客は常連しかいないし、余裕はある。

リーナに確認を取ってみると。


「ピッ!」


すぐさまリーナは冷蔵庫から鶏肉を取り出す。

そしていつものように調理を初めて


「ピッ……ピッ……」


茶碗に慎重にご飯を盛っていく。

それから味噌汁も。


それで、盆に全部載せて定食の出来上がり。


「ピィ!」


急いで客の前に持っていくとそのまま置いた。


「おっ。覚えてくれてたんだな。嬉しいよ」

「ピィ!」


常連は静かに微笑んでリーナに目を向けた。

いずれバレる事だろうしそろそろ伝えておこうか。


「実はさリーナはスライムなんだよ」

「ぶふぉっ!」


唐揚げを口に入れようとしたところ吹き出す常連。


「す、スライムだって?!」


頷く。


「どーりで日本語を話さないわけだ」


ずーっとピッとかピィとか言ってることにようやく納得したらしい常連。


「俺は店長のこと信頼してるし気にしないけどさ。衛生面とか大丈夫なの?」

「ちゃんと手袋させてるよ」

「ピィ!」


自分の手の手袋を見せつけるリーナ。

それを見て頷く常連。


「そういえば表でライブ配信中って張り紙見たけどどういう意図?」

「宣伝しようと思ってさ。店のこと」


俺は今の状況を伝える。


「あんまり売上出てなくてさ。ピンチだ!やべぇ!って程じゃないけどさ。やっぱ余裕が欲しくて。ってなると客足の問題だよなぁってことでさ」


俺は今ヨンチューブでバズっていることを伝えた。


「へぇ。じゃあこの配信も見てくれる可能性が高いってことか。それで店にも来てくれる、ってわけね」

「うん」

「まぁ、俺ら常連しか来ないもんなぁここ」


ガラーんとした店内を見る常連。


そう。

もう古い付き合いの人しか来てくれないのだここには。


俺が何とかやっていけてるのはこうやって知り合いがお情けで来てくれるから。

ほぼほぼそれが理由だった。


でもいつまでもそれじゃだめって。俺も思うわけよ。


「ってわけで、スライムがいる店!ってことで営業していきたいと思うのよ」

「でも、スライムって働かせていいのか?」

「そこはあらかじめ法律に詳しい人に確認とったよ。スライムを働かせてはいけない決まりはないってさ」

「まじかよ」

「うん」


だから特にその辺は問題ないと思うんだが。


まぁ、そもそもスライムを働かせるなんて馬鹿げたこと考えるやつなんていないと思って決まりがないだけかもしれないけどさ。


「てんちょーはいつも面白いこと考えるよなぁ」


そう言ってふっと立ち上がる常連。

そのまま出口の方に向かう。


「会計頼むよ」


俺は厨房を出てカウンターに。

そして常連から金を受け取ると。


「まいどー」

「またくるよ」


常連を見送る。

そうして厨房に戻って、ライブ配信の反応を見ることにした。


すると


「同接1万人?!」


驚いた。

まさかそんなに見てくれる人がいると思っていなかったからだ。


んでコメントを見てみると。


"ここまでスライム要素見れてないんだけど"

"本当にスライムなのか?"

"スライム愛好家の人が合成って言ってたしな。マジでそうかも"


スライム要素がないことに不満を持っているようだった。

たしかに、ここまでリーナのスライム要素はなかったな。


「リーナ。手は伸ばせるよな?」

「ピィ」


返事をすると早速手を伸ばしてくれるリーナ。

にゅるーんと。右手は1メートルくらい伸びた。


すると


"うお!伸びたぞ?!"

"やば"

"マジでスライムじゃん"


反応が変わった。

リーナの腕が伸びたことでスライムだと信じてくれているようだ。


そのとき


カラーン。

新たな客が入ってくる。


「よっ。店長」


入ってきたのは下田だった。


「今から出勤なんだ。その前に食いに来たぜ」


よっ。

そう呟いてカウンター席に座る下田。


「チャーハンで」

「ピッ!」


返事をするリーナ。

そのままチャーハンを作っていく。


俺はそんなリーナを見ながらチャットにも目をやる。


"おーすげぇ、あのスライム本気出してきたなw"

"厨房の奥から動かずに手だけ伸ばして材料取ったりしてる?!スライムすげぇw"

"スライムってこんなに頭良かったの?!まじですごいわ"


そんなチャットが流れていき


「ピィ!」


リーナはチャーハンを作り上げると。

またその場から動かずに手だけを伸ばして皿を取ると


「ピッ」


そのままチャーハンを移し替えて。


「ピィ!」


手だけを伸ばして下田の前に皿を置く。

それにコメント欄は盛り上がっていた。


"この店長いらなくね?"

"草"

"楽な商売だなまじでw"

"スライムガチで優秀じゃん"


リーナの活躍を見てチャットの流れは本当に早くなる。


そんな中コメント欄の中でひとつ目立つものが表れだした。


"あのスライムかわい〜。明日土曜だよな?駅ひとつだし休みだし行ってみようかなぁ?"

"裏山。俺も近かったら行ってみてぇ"

"地元だけどこんな店あったんだ。知らなかったな。俺も明日行ってみるわ。てかもう飯が全部美味そうなんだよなぁ。腹減るわ〜"


そんなチャットが流れてきた。

俺の考えていた通りの流れになりつつある。


そんなコメントを見て俺は口を開く。


「いつでもお待ちしてます!」



「ふぅ……」


ドカッ。

俺は今日の営業時間を終えてソファに腰を下ろす。

あの後もコメントの流れは申し分のない流れになっていた。


やはりスライムが働く飲食店というのは珍しいようで物珍しさに来たいと言ってくれる人が後を絶たなかった。


「これで……売上アガるといいよなぁ」

「ピィ!」


隣に座るリーナも今日ばかしは疲れているようだった。


「お疲れ様だリーナ」

「ピィ……」


そう労った時だった。

カラーン。


音がなり扉が開いたようだった。

そちらに目を向けると


「よう」


げっ。

数日前に見た金髪のあのDQNだ。


配信でも見て来たのか?と思ったけど違うようで。


「下田から聞いて来たぜ。味は美味いらしいじゃないか?」


どうやら飯を食いに来たらしいが……。


そのままカウンター席に座る。

営業時間過ぎてるんだがな……。


まぁいいや。


「注文は?」

「チャーハン。この前のブールー豚使ってるんだろ?」


俺は頷いてリーナに目をやる。


「これでラストだから頼むよ」

「ピィ」


あまり乗り気でないのは伝わってくる。

スライムも人間も残業となると露骨にテンションが下がるのは共通らしい。


それでも料理を初めて行くリーナ。

このまま何も無く食って出ていけばいいのにと思うが。

この男に関してはそれが期待できないんだろうなぁ……。


そういう悪い意味での信頼がこの男にはある。

まぁ俺も悪いんだろうけどさ。


「店長お前は何もしないのか?」


男が聞いてきたので頷く。

やることないし。


「男の俺が作るより女の子に作ってもらった方がいいでしょ?」


スライムに性別があるのかどうかは知らないが今のリーナの見た目は女なのでそう口にした。


閉店作業とかするわけにもいかないので男が出ていくまで黙って突っ立っておくことにした。


リーナが料理を完成させて男の前に運んできた。


「見た目は普通のチャーハンだな?」


街の中にある飯屋なんて普通でいいだろ。

そう思いながら食べるのを待どうとしたがその前に


「注文はこれで終わりですか?」

「あぁ。もういいよ」


言質は取ったのでリーナに片付けをさせていく。


まったく店の扉の表示はクローズにしてあるんだがな。

この男はそんなこと見もせずに気にもせずこうして入ってきた。


パクっ。

男がチャーハンを口に運ぶ。


「あんまおいしくねぇな」


半分くらい食べて。

レンゲを置いた。


何事だよ?

そう思ってみていると


「期待して損したわもう帰るわ」

「会計しますわ」


そう言ってカウンターに向かうと


「マズいんだから払わなくていいだろ?」


とんでもない理屈を出してくる男。


「はぁ?」

「お前こんな不味い飯で金とんのかよ?マジで言ってる?」


ガハハ。

そう笑って男は無言で店を出て言った。

堂々と無銭飲食だ。


信じられるかよ?


「はぁ……次は出禁だな。まぁもう来ないだろうが」


そう呟いて俺は男の残したチャーハンの皿を手に取る。


「ピィ……」


食べてもらえなかったことを悲しがっているらしいリーナ。


「気にするなって。あんな奴もいるさ。嫌な奴くらいいるさ」


そう言いながらチャーハンを廃棄しようとしたが。


「あーそういえば。近くにペットショップあったよな」


なんでも話を聞くとなんでも食べる雑食性のものも取り扱ってるって話だ。

もし廃棄が出たら持ってきてくれたら食わせたいみたいな話をしていたな。


たまに食べに来てくれるし。

そういう付き合いもあるし。


「持ってくか」


リーナに食わせる訳にも行かないし。


あの男が変な病気持ってて移っても困るしな。


そう思って俺は今日の閉店作業をして店を閉めることにした。

その時に気付いた。


「そういえばまだライブ配信中だったな」


んで、コメント欄が目に入った。


"今の男許せなくない?"

"初めから無銭飲食目的だったよね?!あれ!"

"店長さんもスライムちゃんも悪くない!"


と俺たちの肩を持つようなコメントをしてくれている人達がいた。

そのコメントを見て俺の心は少し救われるのだった。



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