第6話 宣伝目的

「ピィピィ」


ん?

先程から俺を呼んでいるような気がして目を覚ました。


随分寝ていたようだな。


それはまぁいいとして。


完全に目を覚ますとリーナ以外にも俺を呼ぶ声があることに気づいた。


「店長?いるのか?」


ガンガンガン。

店の扉をノックする音が聞こえた。


「あー、解体屋か」


そう呟いて立ち上がった俺は扉の方へ。

ガチャっ。


扉を開けると中に入ってくる解体屋。


「頼まれていた分の解体が終わってな」


ほら。

と俺に豚を渡してくる。


「助かるよ」


そう言って用も終わったので帰るだろうと見ていると俺の腕に目を向けてくる解体屋。


「ん?それ、スライムか?」


どうやらリーナに気がついたらしい。


「そうだけど?」

「へー。こんなに懐くんだなスライムって」


そう言って俺の腕に手を伸ばそうとする解体屋だったけど。

シュルン。


素早い動きで逃げて俺の頭に巻きついてくる。


「嫌われてんのかな?俺」

「そんなことないと思うけど」


一応フォローはしておく。


やっぱり俺以外には気を許すとかはないのか?


「まぁいいさ。昔から動物とかには嫌われてるし」


そう言って俺に目を向けてくる。


「ついでだしなんか作ってくれねぇか?店も閉めてきたし後はこのまま帰るだけなんだよ」


とのことらしい。


解体屋のおっさんとは割と付き合いは長い方だ。

今日は店を開けるつもりはなかったが、おっさんの頼みとあれば、なにか作ろうか。


「いいよ。何がいい?」


そう聴きながら俺はグルっと店内を見回した。


「見ての通り今日は開けるつもりなかったからおかずだけになるけど」


それで構わないと頷く解体屋。


「持ってきた豚で生姜焼きでも作ってくれよ。持ち帰りでな」


頷いて頭の上に乗っていたリーナを客席に下ろす。


「生姜焼きだってさ。持ち帰りで」


解体屋が首を傾げた。


「誰に話してるんだ?店長バイトなんて雇ってないだろ?」


解体屋に頷いてスライムに目を向けると。


「ピィ」


ぐにょーん。

姿を変えて人型になった。


「おぉ?!おぉ?!」


それを見て驚く解体屋。


「え?な、なんだ?これ?!」


俺も初めてこの姿を見た時は驚いたのを思い出す。

他の人もやはり初見は驚くらしい。


「ひ、人になったぞ?!」

「まぁ、見てなよ。すげぇのはこっからだから」


そのままリーナは厨房に入っていくと俺が教えた材料を手に取り料理の準備をしていく。


「おぉぉぉ?!!おぉぉぉぉ?!!!なんだこれ?!」


ついに驚きが限界突破したのかほんとに簡単な言葉しか出てこなくなった解体屋。


「スライムが料理してる?!」

「ピィ♪」


解体屋に見られている中リーナはどんどんと調理を進める。


「スライムじゃないのか?!人?!」


ついに自分の見ていたものが信じられなかったらしい。


「おいおい、どういうことだよ?これ?!」


俺の目をのぞきこんでそう聞いてくる解体屋に答える。


「スライムだよ」


ポカーンと口を開けて俺を見てくる解体屋。

その前に料理を完成させたリーナがやってきた。


「ピィ」


ゴトッ。

近くの机に皿を置いたリーナ。


「え?え?え????」


リーナと料理を交互に見る解体屋。


「俺は夢でも見てるのか?」


頬を抓っているけど


「いや、現実だ」


そんでリーナを見て


「はぁぁぁあぁぁぁあぁあ?!!!!」


叫んだ。


「す、スライムが料理?!聞いたことねぇよ?!!!!」


かなり興奮している様子だったが。

俺はリーナにやり方が違うことを指導した。


「持ち帰りだから皿じゃなくていいんだ」


厨房の中に入って持ち帰り用のパックを取ってくると生姜焼きを詰め直す。


「ほら、代金はいらないよ」


解体屋には世話になってるし、今日は米の準備が出来ていないのでオカズだけだ。

そういうこともあってプレゼント。


「……」


ポツーンと無言で立ち尽くす解体屋。


「どうした?」

「いや、そのスライムが」


不思議そうな顔をしているリーナに指を向ける解体屋。


「スライムって料理できるのかよ……知らなかった」


そんなことを言いながら解体屋はやっと我に帰ってきた。


「とにかくサンキューな店長。後は家でご飯チンして夕飯にするわ」


カラン。

扉を開けて外に出ていく解体屋。

それを見送ってから俺は前から考えていたことを行動に移す事にした。


「リーナ。夕飯にしようか」

「ピィ」


俺はリーナに食べたいものを聞くことにした。


メニュー表を持ってリーナに見せる。


「どれがいい?」

「ピィ!」


ビシッ。


指さしたのは唐揚げ定食。


俺の店の一番の人気メニュー。

人間もスライムも唐揚げが好きなのだろうか?


「よし。じゃあ今日はこれにするか」

「ピィ!」


リーナが戦力になることは初日に確認しているがそれでもやはり不安はあるし、料理なんて回数こなした方がいいに決まっている。


特に定食辺りのセットものはやっぱり不安定だし。

覚えてもらうという意味合いもある。


「よし、じゃあリーナ。唐揚げ定食2つだ」


俺は右手の人差し指と中指を立て2つということをリーナに伝える。


「ピィ!」


タッタッタッ。


返事をしてさっさと厨房に入っていくリーナ。

随分サマになってきたことを確認しながら俺はスマホを取り出すと。


「撮影するねリーナ」


解体屋が驚いていたようにやっぱりスライムが人型になって料理をするというのは一般的ではないのだろう。


浅ましいかもしれないけどさ。

思ってたことがある。


(スライムが厨房に立つ店!ってことでアピールすれば店に客がたくさんきて売上も伸びるんじゃないかって)


そのために俺はリーナの料理シーンをスマホで撮影したいと思っていた。


そしてそれをヨンチューブにアップするのだ。

ピッ。

ポン。


スマホがそんな音を鳴らしてリーナの撮影を始める。


「ピィ!」


鶏肉を冷蔵庫から取り出してリーナは料理を始める。

仕込み分で足りなくなる可能性を見越して実は予備があるのだがこういう形で役に立ったな。


料理が終わったらリーナの頭を撫でる。


「よくやったぞー」

「ピィ〜」


撫でてやるとにゅるーんと解けるように小さくなるリーナ。

これでスライムであることの証明はできる。


そのまま小さくなったリーナに手を伸ばすと


「ピィ!」


にゅるーん。

俺の腕に飛びついてきたので。


俺はそんなリーナを巻き付けて2人分のオカズを客席に運んだ。

そしてご飯はレンチン。


これで唐揚げ定食の完成だ。

リーナを机の上に置くとスライム状態のまま食べ始める。


こっちの方が食べやすいのかな?


「いただきます」


俺も俺でリーナの作ってくれた料理を食べ始めることにした。


「うめぇ……」


久々だなぁ。

誰かの作ったご飯を食べるなんて。


自然と俺の顔も崩れてくる。


「ピィ!」


俺の顔を見て嬉しいのかその場でクルクルと回るリーナ。


「ふふふ、かわいいヤツめ」


俺の日常はこうして一匹のスライムとの出会いで大きく変わっていく。

こうやって出会っていなければスライムと飯を食うこともなかっただろう。


「ごちそうさま」

「ピィ!」


どういたしましてと言いたそうな態度のリーナを腕にまきつけて俺は家の方に帰っていく。

その道中ヨンチューブを起動して。


「今までの分もいろいろ動画アップロードしとこー」


スライムが料理する光景をより多くの人に目にして欲しい。

んで、俺の店に来い!


いいな?!


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