第4話 またあの日のように

昼ピークを終え、そんで夜のピークも終えた俺は静かにカランとクローズ表示にした。


「上々だな」

「ピッ!」


いつだかの警察のように敬礼してくるリーナ。


「初日にしては出来すぎているくらいだ」

「ピィ」


いや、すごいよ。ほんとに。


いつもは俺がトロくさくてもういい!って出ていくクソ客が出てくることもあるんだが今日はそんなこともなく、入ってきた客を全員食わせて返すことができた。


「えらいぞ」


わしゃわしゃ。

またリーナの頭を撫でてやると


「ピィ〜♪」


ムニュニュニュ。

またスライムの形状に戻る。


スライムとそんなスキンシップを取っていた時だった。


プルルルル。


(電話?誰だ?)


俺に電話をかけてくる奴なんてそういないから取る前から大体分かるが。

親かな。


着信元も見ずに出た。


「もしもし」

「久しぶり」


声でわかる。

母親だ。


「なに、どしたの?」

「店の方順調に行ってるかなぁって思って」

「聞いて驚け。軌道に乗りそうだ」


俺はリーナをちらっと見た。


「ピッ?」


この子のお陰で俺の店はこっから盛り返せると思う。


今は給料を払うつもりは無いが、売上出たり慣れたりしたら払ってもいいし。

でも払ってもスライムってお金使えるのか?


「またいつもの妄想かい?」

「いやいや違うって」

「まぁいいや。今度いつ家に帰って来れる?」


どうやら信じていなそうだな。声音がそんな感じだ。


カレンダーに目をやった。


「あー。分かんないなぁ。帰れそうになったら連絡するから」

「そうかい。なら待ってるから」


プープー。

電話が切れた。


ピッ。

電源を切りスマホをポケットに戻す。


正直親や親戚とは不仲だ。

だから俺はあんまり家に帰りたくないが、なにか用事でもあるんだろう。


この店の経営も若干助けてもらった過去もあるし顔は一応出すしかないか。


「はぁ」


若干憂鬱になりながらも俺は次の課題に取り掛かることにした。


「なぁ、リーナって狩りはできるか?」


俺はそう聞いてみながらモーションを見せる。


例えば……。

キョロキョロ。


俺は近くにあった防犯用に買った模造刀を手に取り。

踏み込みながら軽く振ってみた。


「はっ!」


ツルっ。

ズテッ。


しかし床に染み付いた油のせいで転けてしまった。


「うわぁ〜……」


ダサすぎだろ俺。

とか思いながらリーナに目をやると。


「ピィ〜」


自分の手を見ていた。

握り方が分からないんだろうか?とか思ってたら。


ニュルン。

手の形状が変化したのだ。


「ピィ!」


リーナの右手が剣になった。


(どっかで見たことあるな。そうだ、思い出したター〇ネー〇ーだ!)


その剣を


「ピィ!」


ズバッ。

俺の目の前で下から上に切り上げたリーナ。


「うおっ!なんだなんだ?!」


急なことで驚いたが。

パラッ。

トサッ。


「ん?なんか落ちたか?」

「ピィ」


リーナは俺の前の床を指さした。

そこでは真っ二つになったゴキブリーヌ8世が半分になってお亡くなりになっていた。


「おぉ……すげぇ……」

「ピィ」


ドヤァ。

すごい誇らしい顔をしてらっしゃる。


「ピピピ」


そう言いながら手を元の人っぽいものに帰るリーナ。

その後近くの洗い場で手を洗っていた。


「よし、これならいけそうだな」

「ピィ?」


リーナの実力は確認できた。


今の俺に足りないものは分かってるんだ。

それは圧倒的に金。


それは食材調達にかける分だ。

でもその食材が直接手にはいるなら?

金はそこまで必要じゃなくなる。


それから導き出される答えは


「ダンジョンに行かないか?」

「ピィ!」

「よし」


パン!

手を叩いて俺は立ち上がった。


「善は急げだ!行こう!」

「ピィ!」


ダンジョンやモンスターが出現してからの日本は本格的に武器の扱いやモンスターとの戦闘を教えるようになった。

そして冒険者と呼ばれる存在になる人も多かったが。


俺はならなかった……いや、なれなかった。

でも


(まさかこの年でまた冒険者の真似事ができるなんてな。昔を思い出すな。まさかまた狩りにいけるなんて)


俺は物置の前に立つ。


ガラッ。


物置を開けるとホコリっぽかった。


「げほっげほっ。ホコリ被ってるってこういう事だよなぁ」


全然使い込まれていない装備が眠っていた。


「んぐぐぐ〜」


それを引っ張り出す。


「ピィッピィッ」


リーナも咳をしながらも手伝ってくれたが。


「手伝わなくても大丈夫だぞ?体に悪かったら困るしな」

「ピィ」


首を横に振るリーナ。

人間ほどヤワじゃないってことかな。


「さてと」


引っ張り出したそれを磨き上げていく。

キュッキュッキュ。


「ピィ〜」


それを見たリーナはスライム状態に戻った。

何をするのかと思えば。


ヌメ〜。


「うおっ?!」


スライムの体はベトベトしていたりヌメヌメしていたりする。

その特性を活かしてるのか装備の上を這いずり回ってホコリを取っているようだ。


「すげぇ、そんなこともできるのか。でも、ナメクジじゃん」

「ピィ〜」


ヌメ〜。

そうやってリーナが何周か回ると綺麗に汚れが取れてピカピカになった。


でも逆にリーナがホコリで汚れていた。


「そんな芸人みたいに体貼らなくていいのに」


俺が呟くとリーナは体をモゴモゴと動かせた。

そして汚れは体の内側に。


そして


「ピッ」


唾を吐くように口から何かを吐き出した。

それは汚れだった。


どうやら自分の体の中から汚れを吐き出したようだ。


「スライムスゴすぎんか?」

「ピィ〜♪」


あまりの凄さに俺はポカーンと口を開けていたが。

ハッと我に返る。


「動画撮ろ〜♪」


俺はスマホを取り出すとカメラを起動してリーナの撮影をする。

こんなこと出来るの俺のスライムだけだろ?!


「嫌ならいいけど次腰の装備頼める?」

「ピッ!」


快諾してくれた。

ヌメ〜。


また汚れを取っていくリーナ。

そして同じように吐き出した。


そこまでを動画として収めることができた!


ポチポチ。

スマホを弄っていると


「ピィ」


スマホに嫉妬したのか俺の腕に巻きついてくる。


「ははっ。ほんと可愛いやつだなぁお前は」


サワサワ。

首の当たりを指で擦るように撫でてやると


「プギュ〜」


気持ちよさそうにナマケモノのように俺の腕でぶら下がった。


「きもちーかー?」

「プギュ〜」


ぐでーっ。

今にも溶けそうになっているリーナ。


ほんとに可愛いものである。


「さてと」


動画の投稿も終えて立ち上がる。


「んじゃ、行こっか。ギルドに」

「ピギュッ」


ニュルン。

人型に戻ってくれるリーナ。

俺は装備をリーナに渡した。


「着といて」

「ピィ」


俺は別の装備があるからとりあえず譲ることにした。


そうして準備も終わり歩き始めて俺はリーナの顔を見ながら今更のことを口にする。


「あー。そういえば俺の名前知らないんだっけ?【てんちょー】って呼んでくれたらいいよ。カバー入って欲しい時とかはそうやって呼んでくれたらいい」

「ピュィ」


んー。どうやらてんちょーとは呼んでくれなさそうだな。

仕方ない。


「それ以外の言葉は発声できないかな?まぁ、俺もノリでその辺は対応するよ」


俺だって一応義務教育を終えたのだ。

最低限周りの判断はできる。


リーナが危なそうならカバーに入るだけ。

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