第2話 スライムに仕事を覚えさせる(狂気)

スライムを拾った翌日店は休みにした。

平日だし客足もそう多くない日だから気軽に休みにした。


「リーナちゃん」

「ピィ」


俺は拾ったスライムにリーナという名前をつけた。

見てまんまこいつはリーナちゃんの姿をしているからだ。


ちなみに昨日変身したきり今もリーナちゃんの見た目をしている。


早くも俺の好みを熟知しているらしい。

やりおる。


「俺はお前をただ働きさせようと思う。いいな?」

「ピィ」

「よし。いい返事だ」


こいつの言葉が分からないので俺は自分に都合のいい解釈をする。


「当店で働くに当たってスライムに休みは与えられません。よろしいですね?」

「ピィ」

「スライムに人権はありません。人間じゃないから」

「ピィ」

「退職届は受け取りません。スライムだからいいよね?」

「ピィ」


よし。

これでOKだ。


んじゃまぁ。業務内容の説明からしていくか。


ちなみに昨日スライムについてはいろいろと調べたがスライムが料理をする動画とか記事は出なかった。


それもそうか。

スライムに料理をさせる狂気的な奴なんて世界を探しても俺くらいのもんだろう。


「さてとこれがフライパン」

「ピィ」


分かってるのか分かってないのかまったく分からないけど俺はフライパンをリーナに渡してみた。


「ピィピィ」

「分かったか?」

「ピィ」


ピィじゃ分かんねぇんだよぉぉぉぉ。


まぁいいや。

フライパンを返してもらって今度はコンロの上にセット。


んでチャーハンの作り方を教える。


「いいか?これとこれとこれ入れてフライパンを振るんだ」


思えばまだ朝食がまだだった。


ついでだしとりあえず見本として俺はチャーハンを作った。


パラパラチャーハンができる。


「ほら」


ゴトッ。

昨日のように俺はそれをリーナの前に置く。


「ピィ」


じーっ。

自分が食べるものと思っているのか見つめるリーナ。


「食べる前に客共の前に持っていくのを教えるよ」


そう言って俺はチャーハンを持つと厨房を出て客席のある方へ。


「ここが注文した客の席だとする。お待たせしましたーと言って置くんだ」


ごとっ。

俺は皿を置いた。


「やってみ?」


モーションも込でリーナにやってみるように伝える。


「ピィ?」


手で皿を持つ。


んで、それから。


ごとっ。

ちゃんと置いた。


「ピィ?」

「えらいぞ!よくやった!」

「ピィ!」


嬉しそうに表情を崩すリーナちゃん。

その姿にリーナちゃんに恋をしたあの日の自分を思い出した。


「おぉぉぉ……神よ……」


1人で呟いて俺はその後もリーナにいろいろと教えこんで行った。



「とまぁ、こんなこんな感じで一日が終わります」

「ピィ」


一日の流れをひたすらリーナちゃんに教え込む。


「ふぅ……」


ドカッ。

客席に座ってあらかじめ入れておいたコーヒーを飲む。


「ふひぃっ……ブラックに限りますなぁ」

「ピィ」


俺がコーヒーを飲んでいると気になったのか指さしてくるリーナ。


「飲む?」


スライムがコーヒー飲めるのかどうか分からないけど聞いてみた。


「ピィ」


相変わらず何言ってるのか分からないけどリーナの前にコーヒーの入ったカップを置いてみた。

コーヒーを飲んでその瞬間


「ピィ〜」


人の形を維持できなくなったのか元々の真ん丸な姿に戻った。


「苦手?」

「ピッピッ」


頑張ってコーヒーの苦みを吐き出そうとしているのか口らしきところから、ぶっぶっと残った苦みを吐き出そうとしている。


「待ってな」


厨房に戻り水を入れて戻ってきた。


「はい」

「ピィ」


ぐにょぐにょとまた形状を変えて手のようにしてカップを掴むと水を飲み始めた。


相変わらず器用なものである。


「ピィ」


その後俺の右腕に絡みついてくる。

何も言わずにこうやって懐いてくる。


「かわえぇ〜」


昔ペットを飼ってたことあるけどそれと似ている。


彼らは何も言わずに俺に愛情表現をしてくれる。


人間と違ってさ。


はぁ、スライム最高!

ぷにぷにしてて最高だわ!


「そうだ。この可愛さ。動画投稿してみたら誰か再生してくれるんじゃないか?」


俺はこのリーナの可愛さを世界中の人に見てもらいたいと思った。

というよりうちの子可愛すぎ!

世界中が見ろ!という気分になっていた。


「ピィ?」


俺がスマホを持っていることを不思議がっている様子だが俺は気にせずこの超可愛いスライムを撮影していく。


んで、そうだ。

ボイスもあった方がいいよな?


「うちのスライムです。拾って一日しか経ってないですけどもうこんなに懐いてます!人懐っこい子ですね」


なんてことをこの動画を見てくれる人に向けて話していく。


「ピィピィ♪」


俺の気持ちが分かるのか俺の腕をグルグル這いずり回るリーナ。


「おぉ……」


ゾワゾワする。

何だこの感触は!


やだ。

気持ちいい。


「うへぇ……」


なんだか新しい世界が見えそうになったけど頭をブンブンと横に振って現実に帰ってきた。


「よし、じゃあ閉店作業いきますか」


動画撮影をやめた俺は、まだやっていなかった閉店作業をリーナに教えこんでいく。


ちなみにもうこの時には人型に戻っていた。

とりあえずフライヤーについいて説明だ。


「ここはこうしてこう。で電源が切れるから」

「ピィ」

「それで、全部終わったら」


2人で並んで外に出ると店のオープン表示をクローズにした。


「こう、ね。これで店が閉まってるってことを客に伝えるのさ」

「ピィ」

「やってみ」


俺はオープン表示に戻して、さっきやったことをリーナにやらせると


「ピィ」


きちっと看板をクローズにしてくれた。


「そうそう!これで終わり」


わしゃわしゃ。

ぷにぷにのリーナの頭を撫でると


「ぴぃ〜」


その場に溶けるようにしてスライムの形に戻った。

傍から見たらなかなかホラーな光景かもしれない。


「よし」


誰かに見られてないことを祈りつつ俺は店の中に戻った。


それで今日も店仕舞いということで階段をのぼり家の中へ。


「ふぅ、今日も疲れた〜」


仕事したわけじゃないけど人に物を教えるのは大変だ。

そんなことを思いながら俺は風呂の湯を沸かすことにする。


昨日はシャワーだけにしといたからなぁ。

ふぅ……疲れを取れるといいんだけど。


なんてことをしていたらジーッと風呂を見つめているリーナ。


「ピィ」

「お前も風呂に入るのか?」

「ピィ」


スライムなんて風呂に入れていいんだろうか?


「まぁ試してみるしかないか」


今はスライムの形態なのが心惜しい。

人型になってくれないかなぁ?


まぁそれはそれでいろいろとまずいか。


そんなことを思いながら湯はりが終わるまで別のことをすることにした。


風呂場を離れて俺はパソコンの前に座ると食材の発注をすることにした。


「うげぇ……今日も高いなぁ」


ダンジョン産の素材を使うと料理もすごく美味しくなる。

だが俺は冒険者ではない。


そのためこうやって買いつけないといけないのだが、それがまた高いのだ。


「はぁ……今月もやべぇなぁ」


正直言うとバイトを募集出来るだけの売上もないのが現状。

だからこうやってスライムにタダ働きさせるか、なんて思考になってるわけだし。


ダンジョンに行ければな……。


そんなことを思っていたら


「湯はりが終わりました」


と湯はりが終わったことを機械が知らせてくれた。


課題とかは山積みだけど。


「とりあえず今日の疲れを取りますか」


目先の事をやっていこう。

俺に出来ることなんてそれくらいなんだからさ。


そうして俺はスライムを頭に乗せながら風呂に入るのだった。


そんで寝る前に今日撮った動画を無編集で動画サイトにアップしておいた。


編集する時間なんてないからな。

でもスライムをみんなに見てほしくてアップはする。

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