弱小飲食の店長の俺バイトが来ないしスライムを拾ったので店でタダで働かせることにした。売上は8000倍になった。

にこん

第1話 スライムの手も借りたい

「おいおいおい!飯まだかよ?!注文してから10分だぞ?!」

「すいやせぇ〜ん……」


飲食店を経営する俺は今日も客に怒鳴られていた。

んでもって金髪の男が注文した料理の着手にかかる。


夜ピークの最後な客なせいで遅れてしまっていた。


たしかチャーハンだったよな?

卵割って……


「あーわり。もう帰らせてもらうわ。待ち時間長すぎ」


ポカーン。

俺は口を開けることしか出来ないまま客は帰って行った。


時刻は夜のピークラスト。

バイトはいない。


俺一人でオーダーを受けて料理を作って客のとこに持っていく。


聖徳太子じゃないんだからそんなことを素早くとかって無能な俺に出来るはずもない。


「おいおい……どうすんだよこれ……」


卵割っちゃったよ……。


ご飯混ぜちゃったよ……。


「廃棄か……」


と思ったけど。

勿体ない。


そこらにあった具材を鍋にぶち込んでご飯と卵と混ぜ合わせる。


「今の客で最後だし。今日の晩飯にでもするか」


ピークを過ぎれば客はもうこなくなる。

こうやってサボってもバレないし。


とか思ってたら、カラーン。


乱暴に店の扉が開いた。


珍しいな。

この時間に今から客か?


「いらっしゃいませ!」


俺が言うのと客が口を開くのはほぼ同じだった。


「おい!お前!」


乱暴な口調には聞き覚えがあった。

顔を見るとさっきの金髪の男だった。


「店の前にスライムがいるぞ!料理も遅い店は衛生面も最悪なんだな?!」


ガタン!

乱暴に扉を閉めて出ていった。


どうやらわざわざクレームを入れに来たらしい。


「はぁ……」


ため息を吐く。

こんなクソ忙しいのに余計な仕事を増やさないで欲しいもんだ。


料理したチャーハンを適当な皿に移し替えて俺は閉店の作業とスライム対処に取り掛かることにした。


厨房を出て扉の方へ。

ザーザーザー。


「うわっ。雨かよ」


傘を手に取り表に出て店のオープン表示をクローズにして先程クレームのあったスライムとやらの対処に入ることにした。


とりあえず周囲を少し探してみるかぁ。


「ピィ……」


って探すまでもなかったわ。

俺が今閉めた扉の横に真ん丸なものがいた。


こいつか……。


隣にこうやって生物がいるとそいつに傘を譲りたくなるのが俺という人間だった。

無意識にスライムに雨が当たらないように傘をさしていた。


「はぁ……ったく。腹でも減って倒れたのか?」

「ピィ……」

「ピィじゃ分かんねぇんだよ」


スマホを取りだした。

とにかく警察だっけ?


「はぁ……さっぶ」


雨にプラスして冷たい風が吹く中俺は110を押そうとしたが、ふといろいろと考えが過ぎるものである。


(俺が通報したら多分こいつはどっか連れていかれてどうなるんだろう?)


街でモンスターを見かけた場合通報するのが一般的だ。

しかしその後のことは知らない。


だがまぁ……。


「問題は1つずつ解決しないとな」


プルルルル。



「通報を受けて駆けつけました。スライムがいるとの事ですが」


俺はちょいちょいと自分の横にいるスライムを人差し指で指さした。


「ピィ……」


ズルズル〜。


俺の足の後ろに隠れてしまった。

どうやら警察に怯えているようだが?


「珍しいスライムですね。逃げずに人の後ろに隠れるなんて」


警察もそんなことを言っていた。


「スライムに大人しいもクソもあるんですねぇ」


知らなかったことを聞いて思わず呟いていた。


スライムに個体差があるなんてことは考えたこともなかった。


「はい。この個体はかなり大人しいみたいです。こんなに無害そうな個体は初めて見ましたね」

「……ちなみにこれ連れ帰ったあとってどうなるんですか?」

「基本的には討伐処理ですね」

「うへぇ……」


あんま聞きたくないことを聞いてしまったな。


俺に襲いかかってくるようなスライムだとなんにも思わないけど。


「ピィ」


ただ寒そうに震えているスライムを見ていると同情したくもなってくるものである。


「これだけ大人しい個体なら保護という選択肢もありだと思いますが」

「保護?」

「はい。あなたの家で保護という選択肢です。餌代などはほぼかかりません。彼らは水道水だけで生活できますし。飲食店を経営されてるみたいですし、残飯とかも処理してくれますよ」


悩むな。

スライム。

可愛いよな。

見た目は。


ムニムニしててぷにぷにで。


あと俺猫、いや。

スライムの手も借りたいくらい忙しいんだよな。


こいつ鍛えたら料理できるようにならないかな?


スライムが働くなんて光景見たことも聞いたこともないけど。そんなことに挑戦したくなるくらい人手が足りてない。


「どうしますか?こちらで処理しましょうか?」

「いや、保護するよ」


悩んだけどとりあえず保護することにした。


「何かあったら悪いけどまた押し付けることにするよ」

「はい。この個体を処理というのは気が引けますしね。御協力ありがとうございます」


ビシッ!

敬礼した警察は俺の後ろにいるスライムを見てしゃがんだ。


「ここからは個人としての話なのですが、触らせていただいても?」


スーっ。

手を伸ばそうとした警察。


「ピィッ!」


それを威嚇するようにスライムが叫んだ。


「わっ!」


どてっ。

驚いて尻もちをつく警察。


驚いたな。

吠えると思わなかった。


「な、なはは……私には厳しいようですね」

「でも、なんで俺だけ敵意向けないのかな」


そうやって聞くと立ち上がりながら答える警察。


「犬や猫と同じですよ。動物が人間の本性を見抜くようにモンスターも見抜けるのでしょう。あなたが心優しい人間、そう見抜いてるのだと思います」


では、と立ち去る警察。


俺が優しい、か。

そんなことは無いと思うけど。


チラッ。

スライムに目を向けた。


「よう。言葉は分かるのか?」


俺はしゃがみこんでスライムに声をかけてみた。


「ピィ」

「ピィじゃ分かんねぇんだって」


そう言いながらとりあえずゆっくりと敵意がないことを伝えるように俺は右手を差し出してみた。

すると。


グルン!

スライムは形状を変えて俺の腕に巻きついてきた。


「なんだ?これは?」

「ピィ」


よく分からないがこいつも俺にやはり敵意のようなものはないらしい。


とりあえず店の中に入る。


ガチャっ。

内側から鍵をかけると俺は客用の椅子に手を近付けた。


「とりあえず降りてくんねぇか?閉店作業があるんだよ」

「ピィ」


俺の手から降りるスライムそのままポツンと客席に座った。


「よし、いい子だ。待ってろ」


そのまま閉店作業を続けようとしたが。

さっき作り置きしたチャーハンのことを思い出した。


それを手に取り。


ゴトッ。

スライムの席の前に置いた。


「ピィ?」

「食えるか?」


伝わるか分からないけど俺はモーションで口の中に入れることを伝えた。


「ピィ」


するとぐにょーん。

スライムがまた形を変えた!


椅子の下と上に伸びて。

それは人型になったのだ!


しかも目とか鼻とか口とかもある!

俺を真似たのだろうか?

見た目だけは男の人間みたいになっていた。


「おぉ、すげぇ」

「ピィ!ピィ!」


そのままレンゲを手に取りチャーハンを食べていく。


「ピィ〜」


味覚があるのかどうかは分からないが俺のチャーハンを食べてトロけそうな感じだった。

こんな反応を貰えると作った身としては非常に嬉しいものである。


「じゃあ食っとけよ」


とりあえずチャーハンのことは終わったし俺は閉店作業を続けることにした。

それが終わるとまたスライムに近寄った。


「ピィ」


俺が近寄ると直ぐに鳴く。


敵意は持たれていない、ということで良さそうだが。


「んじゃま。今日は店仕舞いってわけで」


一応移動するという意思表示も込めて先程のように手を差し出すと


「ピィ」


また腕に絡みついてきた。


そのまま俺は店の奥に向かってそこにある階段を上る。

俺の家はこの上だ。


店舗が下で出勤時間は数十秒くらいか。


超快適だ。

後は客が来てくれると言うことは無いんだが。


客足はもう考えないようにしてる。


「ふぅ……」


家に帰って1番最初に目につくのは俺がもう何十年も愛して病まない。2次元キャラのリーナちゃんのタペストリー。


ガシッ!

壁に突撃!


「おぉぉぉぉ!!!お仕事疲れたよぉぉぉぉぉ!!!!ママァァァァァァァ!!!!」


ドサッ。

余りにも疲れてしばらくして玄関に突っ伏した。


でも寝れない。

このまま玄関で寝たいのに寝れない感じ。


「はぁ」


ため息を吐いていると


「ピィ」


うにゅにゅにゅにゅ。


またスライムが形を変えようとしていた。


「なんだなんだ?また姿変えるのか?便利だな」


なんて呑気に思っていると


「ピィ!」


なんということだろう。


「お、おぉ……まじかよ……」


これは奇跡なのか?

スライムは俺が先程ママと呼んだリーナちゃんになった。


「ピィ!」

「おぉぉぉぉ!!!リーナちゃぁぁぁぁん!!!!うぎゃぁぁあぁあ!!!おはぁぁぁぁ!!!!」


訳が分からなくなった俺はドタバタと走ってそのまま風呂に突撃したのであった。

これが俺とこのスライムの出会いだった。

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