言い訳をしていいわけあるか!

伊崎夢玖

第1話

僕には彼女がいる。

生まれて初めての彼女。

それはもう周りが羨むような美人の彼女だ。

そんな子がなぜ僕と付き合っているのか、未だによく分からない。

でも、彼女から真摯に向けられる気持ちは紛れもない本物。

だから、僕からも彼女へ好きの気持ちを真摯に向けていた。


付き合って半年が経った。

僕たちの間のラブラブは健在……のはずだ。

歯切れの悪い感じなのは、最近なんとなく歯車が噛み合わなくなり始めたように感じることが増えたからだった。

付き合った当初、僕からの連絡には即レスが当たり前だったのに、今では数時間後にレスが来る。

まぁ、急ぎの用ってわけでもないから、大して気にはしてない。

が、なんとなく胸騒ぎを覚えていたのはこの頃からだった。


それからしばらく経った今日。

事態は一変した。

彼女が見ず知らずの男と腕を組んで歩いているのを見かけたのだ。

現行犯なのだから、言い訳のしようもない。

僕は仲良さそうに歩く二人に突撃した。


「やぁ、久しぶり」


僕がこの場にいると思ってなかったのか、彼女の驚きぶりと言ったらなかった。


「誰?こいつ」

「ちょっとした知り合い…」


愛想笑いで隣の男に答える彼女。

僕の中で何かがプツンと音を立てて切れた。


「そうだね。れっきとした彼氏だから」

「えっ…ちょっと待って…。こいつが彼氏?俺が彼氏じゃないの?」

「いや…その……」


言い淀む彼女。

そりゃそうだ。

こんなところで修羅場に突入するなんて誰が想像しただろうか。

ドギマギする彼女を冷ややかな目で見つめながら、僕は続けた。


「最近やけに冷たいと思ったら、こういうことだったんだね」

「違うのっ!」

「何が違うの?これが事実でしょ?」

「ちょっとした気まぐれで…」


このセリフをほんとに言う奴がこの世にいるなんて…。

ある意味感動だった。


「言い訳なんかいらない」

「言い訳じゃないよ」

「じゃぁ聞くけど、言い訳せずに適当な言葉で誤魔化して、この場を丸く収めればそれでいいわけ?」


この時僕は気付かなかったが、『言い訳』と『いいわけ』が言葉遊びみたいになっていた。

そのことに気付いたのは、浮気相手の男。

プフッと吹き出し、「ごめん。笑うとこじゃなかったよな」とすぐさま謝罪する。

案外、こいつとはきちんとした友人としてなら馬が合いそうだと感じた。

そんなことも分からず、ただ僕と浮気相手のやり取りをひやひやしながら見つめるだけの彼女。

どんどん顔色が悪くなっている。

今にも倒れてしまいそうなほどに。

もう潮時だと感じた僕は最終通告を彼女に告げることにした。

絶対自分からは言うまいと決意していたのに、呆気なく霧散してしまった。


「今、この時をもって、僕たちの関係は終わりにしよう」

「待って…違うの…」


この期に及んでもまだ言い訳をしようとする彼女。

そんな彼女をよそに浮気相手の男に僕は向き合った。


「僕たちの関係はたった今切れた。こんな女だけど、これからよろしく頼むよ」

「いや、俺もいらない。まさか二股されてたなんてな…」

「だから、違うんだって…」


弱々しい声で僕たちを引き止めようとする彼女。

本当に見てて吐き気がする。

よくもまぁこんな女と付き合えたと喜んだものだ。

もし過去に戻れるなら、この女と付き合うのだけはやめろと自分に言うだろう。

そして、僕は駅の方へ、浮気相手の男は駅とは逆の方へ歩きだした。

彼女一人を残して。


『もし、次の恋愛をする機会があるなら、言い訳をしない女と付き合おう。言い訳をする女にいい女がいるわけがないんだから』と自分自身で慰めつつ、固く誓いを立てて帰路についた。

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言い訳をしていいわけあるか! 伊崎夢玖 @mkmk_69

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