いいわけ

異端者

『いいわけ』本文

「ぐああぁ! どうしたらいいんだあああぁ!?」

 俺は頭を抱えて叫んだ。

 ドン! ドン!

 壁の向こうから音がした。

「あ、すいません。今後気を付けます」

 安アパートで壁が薄いので、隣の部屋の音が丸聞こえなのだ。

 ――しかし、どうすればいいんだよ……コレ……。

 俺はPCの画面をのぞき込んで思った。

 インターネット上の小説投稿サイトのイベント、KAC2023の新しいお題が発表されたのだ。

 その7回目のお題は「いいわけ」。これをテーマに777字以上の短編小説を書くのだが――これを見て俺はうなった。

 ……駄目だ! ネタがない! というか、使えそうなネタはもうほとんど使い切ってしまった気がする……どうすりゃいいんだ?

 待て待て……ここは落ち着こう。深呼吸、深呼吸。スーハ―……スーハ―……駄目だ! 全然落ち着かない!

 仕方がない。コーヒーでも飲もう。確か賞味期限切れだったが、冷蔵庫にアイスコーヒーのボトルがあったはずだ。

 ……チャポ。

 コップを置いて妙に軽いボトルを傾けると、わずかばかりのコーヒーが注がれた。だいたいコップの5分の1ぐらいだろうか。それを一気にあおる。

 なんということだ! 貧乏人はわずかばかりのコーヒーをすすってろというのか!?

 俺は怒りのあまり、空になったボトルを壁に叩きつけた。

 ドン! ドン! ドン!

「……す、すいません。事故です」

 壁の向こうからの抗議にいちいち謝ってしまう自分が情けない。

 畜生……俺は将来、小説家として成功してこんなボロアパート出て行ってやるんだ。未だに成功していないのは、世間に見る目がないだけなんだ。

 そうだ。全部世の中が悪い。俺のような将来有望な者は、国が責任を持って生活の面倒を見るべきだ。以前役所に行った時にそう言ってやったが、無知で低能な下っ端役人共は聞く耳を持たなかった。

 あ、これでもう777字超えそう。良かった良かった……って、あるかぁ!?

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いいわけ 異端者 @itansya

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