【KAC20237】言い訳したって、良いわけないでしょ♬

ぬまちゃん

ふぅーん、君はそんなこと言うんだ

 幼馴染がドカドカと大きな足音をたててやって来たかと思うと、ドスンと音がしそうな勢いで彼の横に座った。そこは噂好きの級友がいつも座る場所だった。

 彼女は、焼きそばパンを食べている彼の横顔をじーっと見つめると、両足を揃えて背筋をピンと伸ばしてから、一言一言噛んで含むように言い放った。


「ねえ君。どうして私には教えてくれなかったの? 事前にちゃんと言ってくれれば、私だってそれなりに配慮というか、考慮というか、分別を持って対応したのに」


「なんだ、なんだ。3月14日のあの件か? おまえ、彼女に言ってなかったのかよ。そりゃ、だめだよ。いくら幼馴染だからって、そりゃ許されないぜ」


 噂好きの級友は、いつもの定位置を彼女に占拠された上に、彼女から放たれる凄まじいオーラに怖気づいたのか、机二つ分は離れた安全地帯から、少しおどけるように会話に加わる。 


「結局、俺が悪者なのか? でも原因を作ったのはお前だろう。お前が遊びに誘うから、買い物に行く時間も金も無くなっちまったんだぞ」

「う、ちょっと待て。その話は今は無しだ。そもそも、直前にプレゼント用意するなんて常識じゃ考えられないぞ。俺はだな、お前がもう既に準備万端だから俺の誘いに乗って来たと思ったんだ。俺は善意の第三者なんだ」


 級友は、風向きが変わって来たのを肌で感じたのか、さらに机一つ分後ろに下がってから、血の気の失せた顔でむりやり笑顔を作った。


「いいよ、本気でお前を責める気は無いからな。結局は、直前に何とかしようとした俺が悪いんだ」


 彼はこれ以上の言い訳を諦めて、幼馴染に申し訳なさそうにする。


 ── 違うのよ、君達。

 私が怒ってるのは、お返しを渡してくれなかったことじゃないの。


 お金と時間が無くなった君が、私が学習塾に行ってる間に私の家に来て、私の母親と共謀して、自宅の台所で、事もあろうかクッキーを焼いてたなんて。

 そんなとんでもないことをやってたなんて。


 自分の母親から、事件の一部始終を聞かされる娘の身になってよね!

 恥ずかしくて、はずかしくて、大変だったんだから。


 来年も一緒に台所でクッキーを焼こうね。

 こんどは、お母さんとじゃなくて、私とね。


(了)

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