プロローグ2

 いつも通り、自分を殴ってくる貴族を見ながら、何かが切れたような気がした。


 自分の身体から“黒い何か”が湧き出てきた。黒い何かは、自分を飲み込むように、包んでいく。

 ー痛みはない。苦しくもない。不快感もない。視界が少し暗いくらい?


 子供の叫び声がする。前を見ると貴族の子供が尻餅をつきながら何か喚いている。悪魔かなんかだって。

 ー悪魔? 誰が?

 少しすると落ち着いたのか、護衛の男二人に「こいつを殺せ」と叫び始めた。

 左側にいた護衛の男が剣を抜いた。

 ー殺される!?

 男は少年に斬りかかった。

 少年は腕を前に出し頭を守るように丸くなり目を瞑った。


 鈍い音がする。少年が頭を上げるとそこには自分を包んでいた“黒い何か”が腕に連動するように動いていた。


 “黒い何か”は少年の腕より二回りも太く、2倍の長さがあった。そして、その“黒い腕”は剣を弾き返していた。

 「えっ?」

 少年は状況を掴めずにいた。それは貴族の護衛も同じだった。

 “黒い腕”は少年の腕と同じよう指の動きまで動いていた。少年は“黒い腕”を前に突き出し、斬りかかってきた男を掴んだ。


 男は腕が目の前まで来てやっと気付いたため逃げることが出来なかった。

 少年は男を頭から地面に叩きつけた。少年は知っていた。生き物は頭に強い刺激が加わると気絶することを。


 スラム街で生きてきた少年にとって、それを知ることは自然な流れだった。スラム街ではよく喧嘩や殺し合いが起こっていた。

 その際に頭を殴られた者が気絶する様を横目でじっと見てきたのだから。

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