第24話:手がかりからの道筋
俺たちは美希さんから柊さんに関して二つの情報を聞かせてもらった。
一つは位置情報。現在の柊さんのメタ・アース内での位置は残念ながら特定はできなかった。彼女のいる場所で通信傍受システムが働いているとのことらしい。
しかし、過去の彼女のリープの履歴から探ることによって、おおよその場所の特定はできた。場所はここから少し離れた未開発地帯。森林に囲まれており、人が滅多に入らない場所だ。俺が最初に柊さんと訪れた廃墟もそこにあった。
もう一つは彼女を手駒にとった組織について。彼らと柊さんの主なやりとりはあまりなかった。最初に彼らの施設で身体解析を行ってからは「特別公務課に入り、普段の生活を送ること。必要に応じて、命令をする」と言った内容を聞いただけだった。
その後の命令も特にはなく、柊さんが加害者となった事件は『俺の殺害』くらいなものだった。美希さん曰く、最初に身体解析を行い、柊さんに監視装置をつけることが彼らの1番の目的だったのだと言う。
特別公務課には、今いるスペースなど、課に入らないと得られない重要な情報が眠っていたりするらしい。特別公務課に入らずに、その情報を得るために一般の人間を再生者に仕立て上げ、その人物を通して、情報を得ていると美希さんは推察していた。
以上二つが俺の聞いた柊さんに関する情報だった。ここからさらに、柊さんと黄色い仮面の男との会話を解析することで黄色い仮面の正体にあたることができるとのことらしいが、それには少々の時間がかかるとのことだった。
「そう言うわけで、彼女を探すとしたら、未開発地帯を調べると言うことになりそうだが。どうする?」
美希さんは俺たち4人にそう問いかける。
「どうするもこうするも俺は行きます。正確な場所は分からなくとも、そこを探せば柊さんの手がかりがわかるんですよね」
「ああ、ただ未開発地帯は非常に大規模だ。それに情報傍受システムが働いている。行くのはいいが、かなりの危険が伴うのは覚悟した方がいい」
「それでも、俺は行きます」
柊さんは自らの危険を覚悟の上で、勇気ある行動に出たのだ。ならば俺も多少の危険は覚悟の上で、行動をする必要がある。
「誇誉愛以外の2人はどうする?」
「あはは、私は確定なんだね。まあ、柃くんのそばにいないといけないから、仕方ないか」
「でも、いいんですか? 危険地帯なんですよね?」
「まあ、美希ちゃんとの約束だからね。それに、これは特別公務課としてほっとけない自体だからね。2人はどうする?」
「他の特別公務課も未開発地帯には赴くんですか。私たち2人が承諾したとしても、4人じゃ心許ないですよね?」
「ああ。後ほど、依頼を出して、メンバーを募るつもりで入る。誇誉愛の言うとおり、この件に関しては、特別公務課も看過できない自体だからな」
「なら、危険度はそこまで高くないか。私も行くわ。湊(みなと)は強制ね」
「まあ、冬樹(ふゆき)が行くのなら、そうなるよね」
「二人とも、ありがとうございます」
湊、冬樹と呼ばれた彼らたちに深々と頭を下げる。
「別にあんたのために行くわけじゃないよ。ただ、危険度と報酬の関係を加味して、判断しただけ。私は、特別公務課であるとともに、メタ・アースにおけるプレイヤーみたいなものだからね」
冬樹さんは腰につけたものを手に取ると、洒落たように回転させる。取手の部分を取り、先を天へと向けた。彼女は両腰に拳銃をつけていた。拳銃とは言っても、本物ではなくエアガンといった玩具だ。おそらく、誇誉愛先輩と同じく拳銃を通して、霊気を放つのだろう。
「決まりだな。お前たちは先に未開発地帯へと行き、彼らのアジトの調査にあたれ、私は前特別公務課所属のメンバーにメッセージを送り、協力できる人物を探す」
話が決まったところで俺たちは動くこととなった。
「誇誉愛先輩!」
俺は目の前にいた誇誉愛先輩に声をかける。誇誉愛先輩はこちらに顔を向けると、眉を上げ、ぼんやりとした表情を見せた。
「その……ありがとうございます」
「いいってことよ。その代わり、もし私に何かあった際は、助けてよね」
「……はい、もちろん」
誇誉愛先輩は俺に笑顔を向ける。美希さんとの約束とはいえ、俺にここまでしてくれる彼女には本当に頭が上がらない。
『緊急事態発令、緊急事態発令』
意志が固まった俺たちをよそに、不意に響き渡るサイレン音。展開していないはずのレイヤーが忽然と開き、『緊急事態発令』の文字が映る。やがて、画面が切り替わり、ビルの一室が爆破されている映像が映し出される。
そのビルは先ほどいた『警視庁本部庁舎』のものだった。
警視庁が爆破された。そんな異常事態に場が凍りつく。
「どうやら、彼らも我々の動きを推測し、行動に当たったみたいだな。残念ながら、特別公務課のメンバーは二つに分かれそうだ」
しかし、美希さんは落ち着いて状況を分析していた。他のメンバーも畏怖した様子は見せていない。
「まじかー、まさかここまで早いとは予想外だったな。美希さん、報酬は多くもらうからね」
冬樹さんはがっかりした様子を見せながら、美希さんと報酬の交渉をする。こんな事態であっても、プレイヤーにこだわる冬樹さんはさすがとしか言いようがなかった。
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