第23話:柊 刹那の行方
メタ・アースへと降り立った俺は誇誉愛先輩へと連絡した。連絡すると、彼女はすぐに応答してくれた。まだメタ・アースには降り立っていなかったようなので、警視庁本部庁舎の扉前で待ち合わせることにした。
待っている間、いまだに落ち着かない気持ちを必死に励ましていた。
柊さんは今どこにいるのだろうか。彼女の行方を探る方法について、誇誉愛先輩の助言を受けようと考えた。特別公務課ならば、情報を探索する方法について知っているだろうと思ったのだ。
待っていると、青色に包まれた人が目の前に現れる。これは誰かがメタ・アースにログインした際に流れるエフェクトだ。青色は外に放出すると、光の粒となり散開した。その中から誇誉愛先輩が姿を表す。
「柃くん、お待たせ。何かあったの?」
「急にお呼びしてすみません。実は、誇誉愛先輩に相談したいことがありました」
「いいってことよ。君の様子を見る限り、ただ事じゃなさそうだからね」
誇誉愛先輩は嫌な顔一つせず、俺の相談に応じてくれた。昨日のうちに柊さん以外の特別公務課の人と出会えていて、本当によかった。
「その、今朝のニュースは見ましたか。柊 刹那という女子高校生が昨日からメタ・アースから現実世界に帰ってきていないというニュースです」
「ごめん。実は柃くんからの連絡があるまで、家でぐっすり寝ていたの。だから、そのニュースは見ていないかな。それで、柊 刹那さんっていう人はあなたの友達?」
「はい。友達です。昨日も朝だけではありますが、現実世界で一緒にいました。きっとそれから彼女はメタ・アースにログインして、何者かに拉致されたんだと思います」
おそらく、柊さんの言っていた組織が彼女を拉致したのだろう。柊さんはメタ・アースでの行動を監視されているため、俺を殺して、法的措置を受けるように仕向けたことは奴らにバレていたはずだ。それで、お昼にメタ・アースに行った際に彼らと遭遇したのだろう。
「それで、柊さんは特別公務課の人間なんです。なので、彼女の情報を得られないかと思い、誇誉愛先輩に相談させていただきました」
「なるほど。特別公務課の人間であれば、情報の探索は容易よ。一般だったら、色々と許可を取らないといけないのだけれど、私たちは事前に情報の開示を承認しているから、許可はいらない。であれば、特別公務課専用スペースに行って、その辺を調べましょうか」
「特別公務課専用スペース?」
「まだ説明していなかったわね。特別公務課専用スペースは、その名の通り私たち特別公務課のみがリープを許された特別な仮想空間よ。そこでは依頼や情報探索など、特別公務課の業務に必要なことがなんでもできるわ。一度行ってみれば、わかるでしょう。リープ機能で地図を表示させたら、右端の『メタバース』『VRMMO』の欄に『特別公務課』って書かれた部分があると思うから、そこを押してみて」
誇誉愛先輩に言われた通り、リープ機能を使用し、目的の場所を選択する画面を覗く。右端の別の仮想空間の欄を見ると『特別公務課』の欄があった。これを押せば、特別公務課専用スペースへと行けるのだろう。
「確認できたようだね。では、向こうで落ち合いましょう」
そう言って、誇誉愛先輩は姿を消した。それをみて、俺も『特別公務課』のボタンをタッチしてリープを行った。
先ほどまで照りついた太陽の光は消え、代わりに電球の光が俺を明るく照らす。開放的だった外の空間はなくなり、閉鎖的な空間である施設の中へと場所が映った。
「無事、着いたみたいね。ここが特別公務課専用スペース。さっきも言った通り、特別公務課の業務に関わることは全てここでできるわ。情報収集や依頼の閲覧とかね。詳しく説明したいのは山々だけど、まずは柃くんからの依頼を片付けましょうか。こっちに来て」
誇誉愛先輩が歩いていった方向へと俺も歩き出す。歩いている際に周りの雰囲気を確認する。ここは細長い廊下のようで部屋につながる扉がいくつかあった。壁や床などは鉄製の硬い素材で作られているような感じだ。まるで特殊部隊の秘密基地だなと言った感想だ。
その中の一つの部屋へと入っていく。部屋は薄暗く、大量のモニターが周りに展開されていた。最奥には大きなモニターがあり、その前に一人が椅子に座っている。そして、彼女の後ろに二人の男女がいた。
彼らは扉の音に反応すると、こちらを見る。
最奥の人物は昨日もあった『美希』と名乗る女性だった。
「誇誉愛さん、おはようございます」
名前の知らない男女の男の方が誇誉愛先輩の名前を呼ぶ。
薄いピンク色の髪に穏やかなエメラルド色の瞳が輝く男性。誇誉愛先輩のように大人っぽさが際立つ彼だが、実際は俺と変わらなさそうな年齢だろうと思われる。
「誇誉愛先輩、ウィッス!」
もう一人の女性。背もたれの部分を前にして椅子に腰をかけている。
薄水色のポニーテールにチャラいオレンジの瞳が特徴的な彼女。俺と同じく誇誉愛先輩のことを先輩呼びしているため、年齢は同い年、あるいは下と言ったところか。
「言いつけはちゃんと守ってくれているみたいだな。それで何かあったのか?」
最奥にいた美希さんがこちらを向くと、誇誉愛先輩に声をかける。口には飴玉を含んでいるようで右の頬が膨らんでいる。
「美希ちゃんにお願いしたいことがあってね。今は何しているの?」
「美希さんだ。『ちゃん』呼びは止めろと何度も言っているだろ。たくっ、昨日行方不明となった『柊 刹那』と呼ばれる少女の居場所を探っている最中だ」
俺は美希さんの言葉に耳を大きくした。ちょうど俺たちがやりたいと思っていたことを先にやっていてくれていたみたいだ。
「美希ちゃん、ビンゴ! 私たちも彼女について調べたかったのよ。柃くんのお友達みたいなんだって」
「だから『ちゃん』呼びはやめろと言っただろ。へえ、そいつは意外だな。この少女が君を殺害したというのに」
俺は美希さんのいう言葉に思わず息を呑んだ。きっと、柊さんの情報を調べ上げている際に俺を殺す場面を目撃したのだろう。
美希さんは俺の目を凝視する。視線を外すと、加えていた棒をもち、飴玉を外にやった。
「どうやら、訳ありみたいだな。まあいい。彼女のことだが、残念ながら行方は未だ分からない状態だ」
「何か手がかりになる情報はないんですか?」
「いくつかはある。今ちょうど表示されている画面がその一つだ。これは最後に彼女の視界がとらえた映像だ」
俺は美希さんの奥にある一番大きなモニターへと目を向けた。
そこには黒いマントを着飾った人間の姿が写っていた。
「柃くん、これって……」
誇誉愛先輩の言葉に俺は何もいうこともなく、ただ頷いた。
黒いマントを着飾った人物は、既視感のある鬼の仮面を被っていた。
唯一違うのは、その仮面は『赤色』ではなく『黄色』に塗られていることだった。
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