第25話:共同戦線

 俺たち4人はリープ機能を使って、柊さんのリープした場所へと赴いていた。

 美希さんがメンバーを募ると言ってくれたが、警視庁本部庁舎が爆破された事件の鎮圧の方が重要事項であるため、最悪の場合は俺たち4人で探索することになりそうだった。


 柊さんのリープした『未開発地帯』は森林に覆われており、歩くのも一苦労な場所だった。目の前は草が茂っており、歩く度に手でかき分けなければいけないほどだった。


「うわ……手を切っちまった。まじ最悪なんですけど」


 前にいた冬樹さんが自分の手を見ながら怪訝な表情を浮かべる。血のついた指を手で舐めると再び草を掻き分けていく。

 

「本当に選択ミスったわ。警視庁の事件の鎮圧に参加しておけばよかった。こんな草木の中で敵のアジトを見つけるなんて、かなり難題でしょ。見つけられなければ、報酬なしとかだったら溜まったもんじゃない。この森林、燃やしちゃっていいかしら」

「冬樹、流石にそれは危ないよ。未開発地帯を燃やすとなると、地帯に面する都市もどうなるか分からないからね。巻き添えを喰らって、燃えてなくなる可能性もあるから。そうなった場合、賠償金取られるかもしれないよ」

「バックアップが機能すれば、何の問題もないでしょ。そのための仮想空間なんだし」

「問題は都市に住む人間を巻き込んで、再生者へと仕立ててしまうことなんだけど……」


 前を行く二人は仲睦まじいやりとりをしながら、進んでいく。


「お二人はいつから特別公務課に?」


 俺は後ろから、彼らに話しかける。湊さんが俺の方へと振り返ると答えてくれた。冬樹さんは顔の向きを変えることなく、草をかき分ける。


「2年前かな。僕も冬樹も、同じ事件に巻き込まれて再生者となった。再生者となった際に、誇誉愛先輩にお世話になったんだ」

「そうだったんですね。そういえば、誇誉愛先輩っていつから再生者になったんですか」

「秘密。過去はあまり振り返らない主義だからね。それにしても、このまま歩いたとしても、見つかりそうにはないわね」


 誇誉愛先輩は一度歩くのをやめ、その場に立ち止まる。

 俺もまた草をかき分けるのをやめ、彼女の方を覗いた。一体何をやるつもりだろうか。


「これから少し危険な行為を犯すけど、みんなの強さに免じて許してね」


 誇誉愛先輩は俺たちにウィンクをする。謝罪をする割には、とても軽いような態度だ。

 だが、それもすぐに終わる。姿勢を正すとまぶたをゆっくりと閉じた。

 彼女から発される霊気の色が濃くなっていく。彼女の周辺に茂る草木が揺れ始める。


「展開っ」


 閉じたまぶたを開くと、彼女の周りに漂う霊気が一気に外へと放出していく。彼女の霊気が自分の元へと来た瞬間、大きな反動が俺を襲う。無意識に俺の霊気は反応し、誇誉愛先輩の霊気に張り合う。


 誇誉愛先輩が発した霊気は俺を通り過ぎるとさらに外に侵食していく。霊気の触れた草木は大きく揺れた。やがて、俺の視界外まで霊気は走っていく。

 誇誉愛先輩は遠くを見据えたままジッとしていた。集中している様子で、うかつに声をかけることはできない。


 少し時間が経ったところで、誇誉愛先輩はいつものような穏やかな表情へと戻った。


「なるほどね。居場所が分かったわ。こっちよ」


 誇誉愛先輩はそういうと、右斜めへと足を運んでいた。


「今、何をしたんですか?」

「霊気を外へと放出して、反発する箇所を観測したのよ。君がよくやるように相手の霊気が自分にあたる際に、無意識に自分の霊気が反発しようとするの。それをうまく活用して、広範囲に霊気を放って、反発する箇所を見ようとしたわけ。ここにいる3人以外で反発するものがいれば、そこに敵が潜んでいる可能性があるからね」

「誇誉愛先輩。それ、最初にできなかったんですか。であれば、わざわざ無駄足踏む必要なかったし」


 誇誉愛先輩の横についた冬樹さんが彼女にツッコミを入れる。冬樹さんのいうとおり、初めから展開していれば、すぐに見つけられた可能性がある。それなのに、誇誉愛先輩はなぜしなかったのだろう。


「いやー、この技には欠点があってね。冬樹ちゃんも感じたと思うけど、霊気を反発させるってことは相手に自分の存在を知らせることになるの。だから、悪いんだけど、私たちの存在を敵に知らせちゃったと思う。ただ、ヒットしたのは一人だったのが気になるところだけど」

「なるほど。別に気にしませんよ。相手が何をしてこようと倒すまでですから」

「冬樹ちゃんは頼もしいな」


 誇誉愛先輩を先頭に俺たちは草木をかき分け、歩いていく。

 しばらく歩いていくと何やら大きな建物が聳え立っているのが見えた。薄茶と濃茶のレンガで作られた壁。横に目を向けるが、全体像が見えないほど建物は大きいことがわかった。


「ようやく到着したようね。入り口はどこかしら?」


 建物周辺は草木が削られ、黄土色の土が見えている状態である。試しに蹴ってみるが、土は硬く砂が飛び散るくらいだった。


「入り口はわからないですけど、この建物は空からは見えないようになっているみたいですね」


 湊さんは見上げながら3人に向かって言った。彼と同じく上を見上げると、スクリーンが展開されている。スクリーンには森を上から見た画面が映し出されていた。カモフラージュ用のスクリーンのようだ。


 実際に未開発地帯に入ることでしか観測できない仕組みになっているようだ。 


「誇誉愛先輩、もう敵には私たちの存在はバレているんですよね?」

「ええ、バレてると思うわ。よっぽど鈍感じゃない限りね」

「そうですか、なら……」


 冬樹さんは俺たちよりも前へと歩みを進める。

 腰につけていた二丁のエアガンを手に持つと、銃口を建物の方へと向けた。

 銃口からは赤色の霊気が溢れ出す。赤色の霊気は徐々に色を濃くすると、燃え滾る炎のように黄色に発光していく。


 まさか……俺の頭に浮かぶ一つのイメージ。


 銃口から注がれた霊気がレーザー光線のようにまっすぐ鉄の壁へと突き刺さる。霊気は壁の固さをもろともせず、突き抜け、崩壊させていく。

 人はおろか大型トラックが入れるくらいの大きさの穴が壁にできた。


 俺のイメージとほぼ同じ状況が、気がつけば現実のものとなっていた。


「入り口を無理やり作っても問題なし」


 冬樹さんは得意げに不敵な笑みを浮かべてこちらを見た。

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