第21話:鬼面の実力

 赤い鬼面の男と戦闘することになった俺と誇誉愛先輩。


「展開っ……」


 後ろの誇誉愛先輩が呟くと鬼面の男の奥の方に灰色の霊気が浮かび上がる。彼女が何をしたのか俺には理解できない。何かの作戦だろうか。

 

 鬼面の男は前を覆ったマントを広げると俺の元へとかけてきた。拳を握り、俺へと攻撃を仕掛ける。敵の動作は早く、避ける暇はないと直感で理解した。腕をクロスし、敵の攻撃に身構える。


 放たれた拳は俺の霊気へとぶち当たる。その瞬間、当たった部分が渦のように旋回し、若緑色の霊気が放出された。鬼面の男は、その衝撃に耐えきれず、後ろへと吹き飛ぶ。

 地面へ倒れそうになるのを片手でうまくバランスを取り、体制を整える。


 すると今度は、もう一方の手を俺へと向けた。指を広げ手のひらを見せると、黒色の霊気が俺へと放出する。追撃速度は早く、一度目の攻撃を受け切ったと理解できたタイミングで

黒い霊気は俺の方へと飛んでいた。


 だが、その黒い霊気も俺の霊気にぶち当たったところで、綺麗に消え去る。

 霊気が消滅し、再び鬼面の男があらわになる。同時に、彼の目の前には誇誉愛先輩の姿があった。


 肩にかけていた彼女の筒の袋がなくなっており、手には『竹刀』を持っていた。竹刀には灰色の霊気を纏っている。


「ふっ」


 誇誉愛先輩は鬼面の目の前につくと、すかさず竹刀を下から上へと振り上げる。鬼面の男は避けることはせず、右胸から左腹にかけて切り傷ができる。誇誉愛先輩の元へと降る敵の血。俺から見える彼女はそれをものともせず、敵を鋭い眼差しで見据えていた。


 鬼面の男は攻撃を受けつつも、右足を上げると、誇誉愛先輩に向かって振り払う。彼女は竹刀を盾に蹴りを受け止めるが、反動で横へと飛んでいく。


「柃くん、今っ!」


 誇誉愛先輩の声が俺に轟く。それに反応するように、右手を前に出し、親指を天へと向け、人差し指と中指を敵へと向ける。

 霊気を先に溜め込み、レーザー光線を鬼面へとぶつける。


 攻撃の反動で避ける暇のない鬼面の男は俺のレーザー光線へと飲み込まれる。

 吹き飛んだ先には誇誉愛先輩が展開した灰色の霊気があった。俺と彼女の霊気に挟まれた鬼面の男。


 すると、彼は黒い霊気を大外へと放出する。それによって、俺たちの霊気の攻撃が中和反応を起こし、消えていった。誇誉愛先輩が展開した灰色の霊気にぽっかりと穴が開くが、その穴を塞ぐように霊気が侵食し、壁は再び灰色の霊気に包まれる。


 鬼面の男の体はボロボロだ。誇誉愛先輩の竹刀によって切られた部分がぽたぽたと血が垂れている。面の所々が壊れ、肌色があらわになっていた。だが、顔を特定することはまだできない。マントの部分も所々が破れている。


 満身創痍な相手に比べ、こちらは二人とも特に傷は受けていない。誇誉愛先輩もしないでうまく受け切ったようでピンピンしていた。


「この状態であなたに勝機はないように思えるけど、まだやる?」


 誇誉愛先輩は立ち上がり、竹刀を肩に乗せて敵を見る。

 

「ふっふっふ」


 鬼面の男は、勝ち目のないこの状況を目の当たりにして頭がおかしくなったのか不気味な笑い声を漏らす。何を考えているのか。表情が読み取れないため全くわからない。誇誉愛先輩も同じようで肩に乗っけていた竹刀を前へと出す。


「あなたが危害を加えない限り、私はあなたを攻撃することはない。このまま引き下がってくれれば、何もしないわ」

「ふっふっふ。まさか、ターゲットの付き添い人に強力な再生者がいたとは。少し厄介なことになった。どうやら、近いうちに計画を遂行する必要がありそうだ」


 そう言うと、男は黒い霊気に包まれる。まだ何かを仕掛けるのかと思ったが、黒い霊気は男を見えないように包み込むと、次の瞬間、男は姿を消してしまった。


「怖気づいたみたいね」


 鬼面の男が消えて少し経ったところで、警戒を解いたのか、誇誉愛先輩は展開した灰色の霊気を消した。


「あの展開した灰色の霊気って何か意味があるんですか?」

「建物破壊を防ぐための冷気展開よ。霊力を使ったりする際は、建物が崩れないようにバリアを張ったりするの。一応、建物自体は夜中にバックアップされるから、壊れてもなんとかなるんだけど。ニュースとかになったりするのが嫌だから私は展開して戦うことにしてるんだ」

「展開で余計な霊気を消費しないんですか」

「もちろんするよ。でも、それで支障が出ないように日頃鍛えているの」

「流石ですね」


「それはこっちのセリフよ。戦闘経験が不足しているからまだ霊気に頼りっぱなしの防御プレイだけど、あなたが成長して、攻撃的なプレイをし始めたら、かなり強い存在になりそうね。あの鬼面、なかなかの霊気を発していたのに、それをもろともせずに受け切っていたからね。早くからあなたの味方で良かったわ」

「ありがとうございます。でも、鬼面の男が言っていた感じだと誇誉愛先輩の方が彼に取っては、面倒臭い存在のように思えましたけどね」

「かもね。にしても、あなたは彼のことを知っているの? ターゲットなんて言われていたけど」

「顔がわからないんで断定はできないですけど、初対面な感じはありましたね」


 再生者になってから見たことない霊気だったので、その前に会っていたか、識力で色を抑えていたのかしていない限りは全くわからない。


「ふーん、なんだか面倒くさいことに巻き込まれちゃったね」

「ごめんなさい。誇誉愛先輩まで巻き添えにしてしまって」

「いいってことよ。美希ちゃんから守ってって言われてるしね。まあ、ひとまず一件落着ということで、今日のところはこれで終わりにしましょう。また明日、メタ・アースにログインする際は教えてね」


 誇誉愛先輩はレイヤーを展開すると、ログアウトボタンを押したのかその場から消えていった。彼女の去る姿を見て、俺もまたログアウトすることにした。依頼のターゲットとなったスーツ姿の男たちは後日、人物特定され、逮捕されることとなった。

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