第19話:異常な身体

 自分の情報の入力を終え、身体情報の解析も無事完了した。

 身体情報は俺の周りにある霊気の解析を行うようだ。霊気量・霊気質を測定、及びなぜ再生者にこんな力が宿るのか調査の一端として、図っているらしい。


 俺は身体情報の解析結果が出るまで待機室で待っていた。

 誇誉愛先輩が自販機で買ってくれたオレンジサイダーを飲みながら、ゆっくりと休息をとった。誇誉愛先輩は大人らしくコーヒーを飲んでいる。


「にがっ……」

「コーヒー苦手なのに買ったんですか?」

「後輩に格好いいところを見せようと思ってね。ただ、裏目に出ちゃったね。我慢できるかと思ったけど、できなかったわ」

「そこで格好いいところ見せようと思わなくても……」


 誇誉愛先輩はとても話しやすい。雰囲気は先輩のようなかっこよさを持ち合わせているのに、言動は可愛らしい後輩のような感じのため親しみやすい。学校で一匹狼なのが、本当に信じられない。


「受付の人とは仲良いんですね?」

「美希ちゃんのこと? まあね。色々とお世話になっている人だから。私、結構やらかしちゃうタイプだから。突っ走って色々な人に迷惑かけてるんだ」

「迷惑かけてるのに、そんな馴れ馴れしくしてていいんですか。『ちゃん』付けして怒られてましたし」


「いいのよ。美希ちゃんの怒る姿好きなんだ、私」

「マゾですか?」

「ふふっ。そうかも。私、攻めるよりも攻められる方が好きなタイプなのよね?」


 誇誉愛先輩は組んだ腕を少し上にあげる。それによって、彼女の乳が盛り上がる。その様子を見て見ぬ振りをするようにオレンジサイダーを飲んだ。やっぱ、炭酸はうまいな。


 すると、不意に待合室の扉が開いた。

 美希さんが解析を終え、結果を俺に教えに来てくれたみたいだ。

 美希さんはオレンジサイダーを飲んだ俺に視線を向けると、怪訝な表情を浮かべる。俺、何かやってしまったのだろうか。


「結城 柃くんと言ったね。君、メタ・アースにおける死因は殺人で良かったかな?」

「えっと、はい」

「そうか……こんなことは言いたくないが、誇誉愛がいてくれて良かった」

「ええー、言ってくれて全然いいのに。で、どうしたの?」

「柃くんの霊気量・霊気質を計測したけれども、とんでもない結果だった。ここに来て、数年は経つけれど、こんな結果は初めてよ」

「一体どんな結果だったんですか」


「そうね。まずは霊気量から。多分わからないと思うから説明しながら、結果を言おう。霊気量はその人物が醸し出す気の強さを表す。霊気量が高いほど、飛ばした霊気の強さは増す。普通の再生者ならば、150が平均といったところかしら。私が今まで見た中で最高値は1800。これも常人じゃ考えられないほどの力よ」

「ちなみに現在の私の霊気量は1500」

「普通の10倍なんですね。それでも、十分すごいですね」

「君がそれをいうのは、ただの煽りにしか聞こえないよ。柃くん。君の霊気量は3300だ」

「嘘っ! めちゃくちゃ高いじゃん」


 誇誉愛先輩は俺の数値を聞いて、頭を抱える。確かに、最高値の約2倍なんて馬鹿げた数値なのだろう。自分としては全く実感がない。


「それだけじゃない。次に霊気質、これは霊気の集約率を表すものだ。高いほど霊気の色は濃くなり、強さが増す。たとえ霊気量が高くても、霊気質が低いと全体としての力は落ちる。ちなみに努力次第であげることができるが、初期値は大体20%くらいだ」

「ちなみに今の私は95%。とはいっても、初期値は40%くらいだったけど」

「それで、俺は……」

「80%。全く、君は再生者としては才能の塊だよ。それにしても、話はこれだけじゃない。3300の君の霊気量なのだが、少しだけ違和感があるんだ」


「違和感って何ですか?」

「君の霊気の色は若緑色だ。だが、その若緑色の周りを紺色の霊気が薄く覆っている」

「つまり、俺の霊気の色は2色あるってことですか」


「そう捉えることもできる。私が今まで見てきた中で2色の人間は見たことがない。だから、そんなことはないと言いたいところだが、君の力が規格外であるが故に、2色ある可能性は否定できそうにない。しかし、もう一つの可能性も考えられる。君の霊気を誰かが押さえつけているんだ」

「俺の霊気を、ですか。でも、一体なんのために?」

「さあ。私に聞かれても困る。でも、確かなことは、君の本来の霊気量は3300よりも上かもしれないということだ」

「3300より上って、柃くん一体何もの?」


 さっきまで冷静だった誇誉愛先輩は額に汗を流していた。

 俺に言われても分かるはずがない。ただ、柊さんに殺されて再生者となっただけなのだ。特別なことは何も起こっていないはずだ。


「そういうわけで、君は再生者としては異質の存在だ。まだ再生者として、右も左も分からない状態で振りかざす力にしては甚大すぎる。だからこそ、誇誉愛。彼がある程度の成長をするまではそばにいてあげて。どの程度かはあなたの感覚に任せるわ」

「美希ちゃんの頼みであれば仕方ないか。私も今の情報を聞いて、柃くんに興味が湧いてきたし」


 誇誉愛先輩はニヤニヤした表情で俺を見る。かわいい先輩と一緒にいることは嬉しいことだが、柊さんと過ごす時間も彼女がずっといるのかと考えると、なんだか心に靄がかかるな。


「そういえば、さっき俺の死因を『殺人』かどうか聞いていましたよね。それは何だったんですか?」

「ああ。そのことだが、霊力量というのは高い数値を示すほど、耐久力に優れている。おそらく今の君に対して、霊力による攻撃を成功させられるのはかなりの手練れのはずだ」


 美希さんの話を聞いて、俺はあることを思い出す。

 昨日戦った赤い髪の男。彼が俺へと攻撃を仕掛けた際、俺は全く手を施していなかったにも関わらず、彼は俺の霊力の返り討ちに遭い、潰えた。その原因は霊力量の高さ故だったのか。


 高値の霊力量を持った俺に対して、柊さんは死に至らせるほどの霊力をぶつけることができた。柊さんもまた再生者としてはかなりの上位に位置しているということなのだろうか。


「その手練れが先の通り魔事件のように、無作為に君を殺していたとすれば、君自身に関しての問題はないだろう。ただ、もし意図的な殺人であったとすれば、君はかなりの危険に晒されている可能性がある。そこは注意しておくように」

「はい。わかりました」


 その点に関しては問題ないだろう。殺されたとはいえ、今はもう和解した相手であり、俺の味方となってくれている存在だ。むしろより心強い存在になってくれた。


「というわけで、君の特別公務課への登録は完了した。この後の詳しい説明は誇誉愛から聞いてくれ。これから君がお世話になる相手だと思うからな。じゃあ、私はこれで」


 美希さんは向きを変え、後ろ向きのままこちらへと手を挙げると部屋を出て行った。


「さて、私たちも行きますか。美希ちゃんの言ったとおり、特別公務課の仕事については私から説明しようかな。今日取り組む依頼を一つ請け負っていたから、実践形式で説明した方が良さそうね」

「すみません、色々とご迷惑をおかけします」

「良いってことよ。それに私としてはラッキーかな。こんなに可愛くて、強い子と誰よりも早く知り合えたからね。じゃあ、以来の場所へと行きましょ」


 こうして、俺は誇誉愛先輩という再生者とともに行動をすることになった。

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