第18話:警視庁特別公務課

 昼ごはんを終えたところで、俺と柊さんは別れることになった。

 俺は自宅へ帰ると『メタ・アース』の世界にログインをすることにした。これから『警視庁特別公務課』へ赴く予定だ。


 柊さんは午後に用事があるとのことだった。そのため、特訓は明日へとお預けになった。

 彼女が留守のうちに特別公務課への申請を済ませておいた方が、色々と楽だと思い、俺はカプセルの中へと入った。


 ログイン場所の選択で検索バーに『警視庁』と打つと『警視庁正面玄関前』が引っかかった。それを押下し、ソファーに体を預ける。いつものごとく拘束され、麻酔により意識を失ったところで視界に『Login』の文字が現れた。


 視界が開けると街の景色が露わになる。

 目の前の看板を見ると『警視庁本部庁舎』と書かれた看板が立っている。その文字の隣には『東京都公安委員会』や『警視庁』の文字が見える。


 場所はここで大丈夫そうだ。だが……

 俺は左右を確認し、一人訝しげな表情を浮かべる。警視庁に着いたのは良いが、ここからどのように行けば良いのだろうか。車が走りそうな道はあるが、端に歩道らしきものはない。


 入り口の付近に警官がいるが、彼に特別公務課と言ってわかるのだろうか。警察官は皆、霊力と言った能力についての知識は備わっているのだろうか。

 まあ、俺の元に届けられたメッセージに何か書いてあるか。そう思い、俺はもう一度メッセージを確認することにした。


「あなた、ひょっとして再生者かしら?」


『再生者』という単語を聞いて、反射的に声のする方を覗いた。自意識過剰かもしれないが、おそらく俺のことだろう。


 見ると、一人の女性が俺の方を見ていた。

 茶色のポニーテールにまん丸とした目。Tシャツに長ズボンとラフな格好をしている。気になるのは、片方の肩に吊るされたバットをしまうような細長い袋だ。


「よく気がつきましたね。あなたも俺と同じ感じですか?」


 一応、識力の力で若緑色の霊気を白色へと変化させていたのだが、よく気がついたと感心してしまう。


「まあね。挙動不審な動きをしていたから、もしかして新人の再生者かと思って。私、目利きはいいから」


 彼女はウィンクしながら開いた片方の目を指さす。

 どうやら霊気ではなく、俺の行動から再生者だと推測したようだった。一眼につくくらい挙動不審な行動をしていたのか。なんだか恥ずかしくなってしまうな。


「それで。今から申請でもしようって感じかな?」

「はい。ただ、どこから入ればいいのかわからなくて右往左往していた感じです」

「広いし、警官が多くて動きにくいよね。私も最初に来た時は結構さまよったな。入り口はこっちよ。私について来て」


 そう言って、彼女は歩き出す。俺は彼女の真横を並行して歩いた。同じ立場の親切な人に出会えてよかった。これで安心していくことができそうだ。


「自己紹介がまだだったわね。私の名前は清瀬 誇善愛(きよせ こよめ)。誇る、誉める、愛でるで誇誉愛ね」

「俺は結城 柃です。よろしくお願いします。清瀬さん」

「誇誉愛でいいよ。私は柃くんって呼ぶね」

「では、誇誉愛さんで」


「それにしても、柃くんも災難ね。せっかくの平和な世界でこんな面倒くさい力に巻き込まれちゃうなんて。世の中知らない方がいいこともあるって聞いたけど、典型的なそのパターンよ」

「確かにそうですね。ただ、知ることで得することもあるから、俺は後悔してないです」


 再生者に慣れたことで、俺は柊さんと親睦を深めることができたんだ。そう考えれば、これくらいのハンデはなんてことない。


「へー、素敵な考え方ね。若さゆえかな」

「誇誉愛さんだって、十分若いでしょ?」

「まあね。まだピッチピチの18歳だから!」


「一つ上なんですね。だったら、誇誉愛先輩の方が良さそうですね」

「先輩か。いい響きだね。それでお願い」

「後輩とかに呼ばれたりしないんですか?」

「そうねー、学校じゃ、あまり話すタイプじゃないから。一つ上、一つ下どころか同級生にも名前で呼ばれたことはないな」


 これだけ人懐っこい性格なのに、一匹狼なのか。輝かしすぎるあまり、誰も近寄らないタイプか。陰極まって陽とは聞くが、逆もまた然りという感じなのだろうか。


 誇誉愛先輩の案内によって、警視庁の中へと入ることができた。俺たちはそのまま館内でも行動を共にした。再び、誇誉愛先輩の案内のもと地下の方へと歩いていく。秘密裏に動いている組織だけに、場所も隠れたところにあるみたいだ。


 フラッと案内図に目を通したが、地下1階についての記述は一切なかった。

 階段で言っているあたり、もしかするとエレベータの階にも表示されていないのかもしれない。


 階段を降り、地下一階へと行くと最初に狭い部屋があった。真正面に扉があり、そこを開けると奥に入れるようになっている。扉の右側に受付と書かれたカウンターが一つある。

 ここで登録を行うのだろうか。


「美希ちゃん、新人の再生者さん連れてきたよ」

 

 カウンターの前に立つと、誇誉愛先輩が奥にいる大人の女性に話をかける。黒髪ショートヘアに赤い眼鏡をかけた女性が。華奢な体でスーツをうまく着こなしている。


「美希ちゃんじゃなくて、美希さんな。年上を揶揄うとろくなことにならないぞ」

「はーい、すみません」

「ったく。それで、君が新しい再生者さんか」

「は、はいっ。結城 柃と申します」


 高圧的な態度を取る彼女に萎縮しつつも、自分の名前をいう。眼鏡越しに見る彼女の目つきは鋭いものだった。下手な真似をすれば殺されかねないほどの殺意にあふれているような気がした。


「結城くんね。よく来てくれたわ。では、まずはこの書類に記入お願い。そしたら、扉入ってもらって、色々と身体検査を行わせてもらうからよろしくね」


 美希と名乗る女性はパブリックレイヤーを開くと、俺へと向ける。

 名前や住所など、個人の情報を入力する箇所がいくつか見られた。登録するために必要な情報ということか。


 俺は美希さんに言われた通り、情報を入力し、受付を済ませることにした。

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