第14話 今、あの森とは別の森で、妖精さんを食べてます。

 逮捕されて、無期懲役になって一年。

 無味乾燥な仕事を、たらい回しにされる日々を過ごしてたボクに、転機が訪れた。


「お前、私の直属部隊に入れ」

「直属、部隊……?」


 それで、その直属部隊に入ると決めたボクは、キャサティーさんに連れられて、

 キャサティーさん直属部隊、通称KX部隊がいるテント群に移動する。

 で、ボクは昼食を終えた他の部隊の人達に自己紹介する。


 それが済んで早々、キャサティーさんは、ボクや部隊の皆に午後の任務を通達する。

「ロビン、ならびに魔力を持つ隊員諸君に、一つ悲報がある。

 ずばり、雌のフェアリーミルクが底をつく寸前だ」


 ボクらは魔法を使うと魔力が減る。

 充電式の機械を使うとバッテリーの充電量が減る、みたいな減るね。


 寝る以外に魔力回復手段としてあげられるのが、フェアリーミルクやフェアリーシロップ。

 ミルクやシロップってなにかって?

 まあ、ざっくり言えば妖精さんの体液だね。雄と雌、どっちからも出るんだけど……。


 シロップは雄雌どっちも出る場所が場所だし、野生のシロップだけあって、

 一定の殺菌とかしても、いろんな理由で敬遠する人が多くて、

 雄のミルクも同じ理由で敬遠されがちで、雌のミルクが品薄になりがちなんだって。


 戦場なんだから、ある程度我慢できないの? いや、些細なことが生死に直結する戦場だからこそ、我慢できないのかな?



 で、そのミルク採取班の一人に、ボクが採用されて、今、森にいるよ。

 あ、前に集落があった、あの森とは別の森ね。

 そもそも、出撃先があの森とは反対方向だし。


 野生のミルクが出る雌を探す方法は、割と簡単。

 ずばり、おっぱいの大きい妖精さんが、野生のミルクが出る雌!

 で、その雌さんに話しかけて、分けてもらう……のが通常らしいけど。


 ……妖精さんは人を、魔力量と業で判断するのは、知ってるよね?

 ……妖精さんから見ると、黒くて大きな化け物にしか見えないボクはもちろん、

 隊の中では業が薄い方らしいキャサティーさん含め、妖精さんの警戒対象になるレベルの業の持ち主しかいない、

 うちの部隊が、妖精さんと正面切って交渉できるはずもなく……。


 実際にやることをテンポよく言うと、拉致! 拘束! 窃取!

 細かく正確に言うと、電気銃や電撃魔法で妖精さんを撃って気絶させ、

 他のメンバーが妖精さんの服を上だけ脱がせて、胸を下にした豚の丸焼き状、もしくは駿河問い状に拘束し、そのまま拉致。

 で、妖精さんの生おっぱいに専用の搾乳機を当てて窃取。



 搾乳機がフェアリーミルクを搾乳してる最中、隣のヒャッハー感ない人が、ガンぎまった目で、やたら唾を飲んでるので、

 「そんなに雌のフェアリーミルクが好きなの?」と聞いてみた。


「いやあ、自分は、フェアリーミルクどころか、妖精の雌の全てが好きとすら言ってもいいっすよ?

 ミルクやシロップは言わずもがな、毛も皮も、血も肉も脂も、腹わたや骨すらも、この世にこれ以上の美味はないとすら思ってるっす」


 ……想像以上の奴だった。

 一般的に、ひとカウントされてる妖精さんをそこそこ食べて、投獄されて、キャサティーさんに拾われて、今ここってとこかな?



「……そんなにおいしいのかな?」

「ロビンさんも食べるっすか?

 どうせあとで殺すんだし、食べたほうが敵の魔法戦力の弱体化とか図れるし、業が増える以外はいいことづくめっすよ?」


 なんとなくの呟きが、倍になって返ってきた……。

 まあでも、妖精さんの味がどんなものなのかは、ちょっと気になるし……「食べてみよっかな」とボクは答える。


「じゃあ、まずは半分こっすね。

 自分も話してたら食べたくなってきたし。

 この妖精右利きみたいだし、右半分の肉はロビンさんに譲るっす」


 すっごい手慣れた様子で妖精さんを解体するなぁ……と感心してると、

 ボクの分の、皮と肉と脂と骨と内臓だけになった妖精さんを取り分けてくれた。

 調理法は、生でも焼くでも茹でるでも、なんでもありだって。



 生食オーケーって言うなら、まずは生で、はむっ……鯨のお刺身とか好きなら好きになるかもだけど、

 ボク的には、あんまり……美味しいっちゃ美味しいけども。


 やっぱお肉は焼かないとね。

 解体の過程で妖精さんから流れた血を、魔法で鉄板――まあ、妖精って、構造上おおむね脊椎動物だろうし――にして、

 土属性魔法でを作って鉄板を置き、その下で火をたく。


 鉄板が温まったところで、脂を熱すると牛脂焼いてる匂いが漂う。

 この匂いとジュ~って音だけで、ご飯三杯食べれそう……。

 ウェルダンに焼けたので、早速フーフーして実食。


 牛肉だ……! それも、お高い牛肉の味がする!

 今食べてるの妖精さんなのに!

 歯ごたえも、ちょうどいい!

 ミルクが出る妖精さんだから?

 そもそも乳牛って食べても美味しいんだっけ?

 うーん……思い出せないけど、目の前のお肉が美味しいからいっか!

 とにかく妖精さん食べてるってよりは、牛焼き肉フルコース食べてるみたいな感じだった……。


 加熱すれば牛肉の味がするってことは、牛肉料理大体全部、妖精さんにも応用可能ってコト?!

 ご馳走様をそこそこに、早速、実証実験だー! と妖精さん狩りに向かおうとしたら「ダメっす!」って電気銃撃たれて止められた……。


 容赦なく撃ってはきたものの、気を失わない程度に加減してくれたらしく、

 ボクは全身ビリビリしながらも、なんとか向こうの顔を見て、止めた理由を尋ねることができた。


「妖精が大量に死んだら浄化が必須ってのを、知らないロビンさんじゃないっすよね?

 その浄化作業とかは一朝一夕で済むもんじゃないし、金もいっぱいかかるらしいんす。

 以前自分も、フェアリーミルク採取で頼まれた一帯にいた妖精をたらふく食べて、

 三時間近く正座で説教とか、給金カットとか、もうひどい目にあって……。

 以来、食べる量をセーブしてるんす。

 あと、ロビンさんって、確か無期で、この部隊にいるんすよね?

 なら、また今度、別の場所で食べればいいだけっす!」


「……それもそっか」と痺れが抜けたので椅子に向かって座って、

とかにした魔法を解除して、諸々を自然に還したボク。

 ……面倒だな、軍属って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る