【KAC20237】いいわけ
かみきほりと
01 それでもオレは本音を隠す
もう、このパーティ、ダメかもしれない……
そう思うのも無理はない。
困った人たちを助けるために冒険者をやってます……なんてことを言ってはいるが、結局は生活費を稼ぐためだ。だけどそれは、今さらすぎていいわけにもならないだろう。
パーティは、アーチャーのオレ、ファイターくん、メイジくん、シーフちゃん、ヒーラーちゃんの五名。
前衛が薄いものの、大群や大物と戦う事はないし、ピンチになってもオレとメイジくんの火力で押し切るスタイルだ。
魔王を倒すだの勇者になるだのといった高尚な目的なんてないから、集まった連中もそこそこの能力を持った若者ばかりで、仲良し集団って感じだった。
これで一年以上も続いていたのだから、優秀なほうだとは思うんだけど……
予兆は少し前からあった。
突然ヒーラーちゃんが「恋人のふりをして下さい」なんてことを、よりにもよってオレに頼んできたのだ。
これで舞い上がるオレではない。彼女がオレに気が無いことは普段の言動で十分に理解している。だから詳しい説明を求めた。
すると、近ごろ、ファイターくんとメイジくんが競い合うように、ヒーラーちゃんにちょっかいをかけているらしい。
オレも薄々勘付いていたが、どうやら無視できるレベルを越えつつあるようだ。
ちなみに、シーフちゃんはファイターくんを一途に思い続けている。……本人は隠しているつもりだろうが、バレバレだ。
恋愛のもつれが集団を瓦解させる……。よくある話だ。
そんなことに巻き込まれるのはゴメンだが、これ以上エスカレートする前に冷や水を浴びせて冷静になってもらいたいと頼まれたら、断れなかった。
心配しなくても、すぐにネタばらしをして、誰とも付き合うつもりはないとハッキリ断るつもりだから……ってことらしい。
「……で、なんでこんなことになってんの?」
オレはそう言わずにはいられなかった。
シーフちゃんが大ケガをして、ヒーラーちゃんが面倒を見ている。
そんな状況で、俺はメイジくんに呼び出され、その先ではファイターくんが待ち構えていた。
さらに、二人が温厚な態度をかなぐり捨てて、俺に八つ当たりしてきた。
「全部、キサマのせいだろが!」
「まさか、アナタに横取りされるとは思いませんでしたよ」
オレは大きくため息を吐く。
なるほど、ヒーラーちゃんが作戦を実行したのだろう。
冷や水を浴びせた結果、やりきれない思いがオレに向けられたってわけだ。
「シーフちゃんが怪我をしたのは、ファイターくんが無謀な突撃をしたからだろ? いつもならメイジくんがフォローするはずなのに、いきなりオレに行けって指示するし……。今日は二人とも変だったぞ」
そう忠告……っていうか、事実を指摘したんだけど、聞く耳はないらしい。
「だから、それも全部、キサマのせいなんだよ!」
「アナタの実力を確かめたかったのですが、失望ですよ」
会話にならない。
……っていうか、二人に釘を刺すには絶好のタイミングなんだから、そろそろヒーラーちゃんの出番じゃないのか?
ここでネタばらしをすればパーティ解散という最悪の自体は避けられるはず。
そう思ったんだけど、ヒーラーちゃんは現れなかった……
メイジくんが呪文を唱え始めたのを見て、オレはもう一度、今度は声に出して呟く。
「もう、このパーティ、ダメかもしれない……」
そしてアーチャーのオレは、体術で二人を完膚なきまでに叩きのめした。
「どうせオレには、幸せな家庭なんて似合わないよ……」
オレはそう、自分自身にいいわけをする。
あれから三年が経った……
もちろんパーティは解散し、それぞれ別の道を歩んでいる。
久々の再会だが、やはりファイターくんは現れなかった。
奴は最後まで俺を罵っていたから、合わす顔がないのだろう。
どうやらオレが、ヒーラーちゃんを脅迫していると思い込んでいたらしい。
その点、メイジくんはクレバーだ。
全てをファイターくんのせいにして、自分は分かってましたよって感じで、何事もなかったかのように振る舞っていた。
それに、あの後、魔術学院の先生になり、どういうわけか、信じられないことにシーフちゃんと結婚した。
もちろんその時、オレも祝福に駆け付けたのだが、照れ隠しだろうか「私たちの間に愛はない。ただの共同生活の延長だよ」と、メイジくんは寂しそうに笑っていた。
オレはというと、未だに冒険者を続けている。
そして今日、ヒーラーちゃんと結婚をする。
もちろん、ヒーラーちゃんがオレのことを何とも思っていないことは理解している。
だって、彼女が愛しているのはシーフちゃんなのだから……
【KAC20237】いいわけ かみきほりと @kamikihorito
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