メガネをバカにされたので博士に復讐を依頼しました
さいぼう
第1話 出会い
「どうしてボクがそんなこと言われなきゃいけないんだ」
大学構内を早足で進む。男の目には少し涙がたまっていた。
「どうして…どうして…」
男は5年間の博士課程の集大成である口頭試問を終えたばかりだが、その栄光にひたることさえできなかった。5年間研究のことだけを考えて生きてきた。毎日14時間を超える長時間研究。研究しか目に映らない男に、恋人はずいぶん前に愛想をつかした。補助金や給付金を受け取ることもできずに膨らみ続ける奨学金とは名ばかりの学生ローン。就職先は見つからず、2か月後から無職になることが決まっている。極めつけは口頭試問を終えて挨拶をしにいったときに指導教員にかけられた言葉。
――博士課程修了おめでとう。あぁ。人生終了の間違いか。高学歴ニートの人生に幸あれ。
口頭試問はほとんど形式だけの審査だ。男が今ここで指導教員とけんかしても博士号に傷はつかないのだが、長年の関係性を今さらひっくり返す気力もわかない。男はこらえて自分のデスクの荷物をまとめて研究室を後にした。
「ボクの何がいけないんだ。ボクが何か間違っていたのか…?」
最後に出席した学会。男の同期である博士学生が若手奨励賞を受賞した。隣の研究室に通う同期だった。一方このみじめな男は学会賞とはとんと縁がなかった。ポスター賞も、ベストプレゼンテーション賞も受賞した経験がない。
「一体何が間違っていいたというんだ…ボクの何が…」
「待てよ…そうか…」
「ボク以外が間違っているんだ」
「こんな世界…」
~~~~~~~~~~~~
「もう!ありえないわ!あの全身サイコ野郎」
女はかかとをガツガツ鳴らしながら早足で歩いている。どんなに容姿端麗な女性を見かけても、明らかに怒っている女性に声をかけるのは相当な勇気を必要とする。女の足音に、キャンパスを徘徊しているだけの学生も道を開ける。女の歩く先で、今日は誰もが道を開けた。1人の男を除いては。
「どうしてあんなことが平気で言えるのかしら!」
女の怒りの矛先はつい先ほどまで話をしていた教授へと向かう。
――いつもおしゃれだとは思うけど、そのメガネはないんじゃないかな。
このメガネは先週購入したばかりのお気に入り。
「あんなクズに何がわかるっていうのよ!」
実際にその教授はクズであった。男子学生には長時間研究を強いて、暴言を吐くのがあたりまえ。一方女子学生にはめっぽう甘く、お気に入りの学生を見つけては教授室に呼びつけてディスカッションと称したくだらない会話を長時間押しつけてくる。この女も例にもれずこの”介護”をこなしていたのだが限界だった。
「あのサイコ野郎…」
「ころしてやる!」
女がそう言うが先か、耳に似たような言葉が入ってきた。
「こんな世界…こわしてやる!」
女が声の主を見ると、その男も女を見ていた。
これが、教授への殺意あふれる女、
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