舞妓の言い訳

神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ)

第1話

「だって、あんまりお義母かあさんが可哀想なんだもの」

 そう知り合いの舞妓は言い訳した。

 少女から、相談された。数年以内に子供を産む必要があるのだと。私は、端的に返した。

「養子縁組までした娘が、舞妓デビューしてすぐに妊娠したら花街で問題にならないはずがない」と。

 少女は、哀しそうな顔をして先の言葉を返したのだ。義母は、おそらく子供が産めない身体で、だからこそ不憫な娘と親子になったのだろうと。

「あの、私、坂木さかきさんだからこそ言いますけれど」と前置きして。「夢を見るのです。それが原因で、実の親にも捨てられました。気持ち悪いと」

 少女の言う数年後、確実に子宮は失われる運命にある。

「坂木さん、考えても見て下さい。手術の承諾書って、親がサインするものでしょう。もし、私に子供がいなくて、お義母さんが…」

 後から後から、涙が溢れ出す。私は、額に手を当て、俯いた。溜息を吐く。

「その未来に比べれば、今、花街で母親が後ろ指を指されるくらい、どうということはないと」

 少女は、深く頷いた。ポロポロと涙がこぼれる。

 少女が落ち着くのを待って、会話を再開する。

「それで、恋人はいるの」

「いません」

 かぶりを振る。

「それでは、成人のお客さんに頼むのかい」

「出来ません。皆さん、立場のあるお方ですから、逮捕されるようなことは」

「うーん」私は、うなる。足を組み、頭を指でつつく。「あっ…」

 法律には、抵触しない相手。

京終蜜きょうばてみつか…」

 まだほんの中学生である。少女は、顔を赤らめて、問い質す。

「どうですか。抱いてくれと頼んだら、そうしてくれると思います?」

 自分の場合に当てはめて、思い出してみる。

「うん。私は、抱いた」

 病気の恋人に頼まれたのだ。エビデンスに、パッチ・アダムスの書いた本まで持ち出して。愛し合っている時だけは、苦痛から逃れられるからと。

「まあ、あの子がどうかは解らないけれどね」

 苦笑に、無理に笑って見せる。

「それで無理なら仕方ありません。ただ、出来るだけのことはやってみようと思います。義母ははのために」

 上手くいくといい。私は、ただ祈った。


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舞妓の言い訳 神逢坂鞠帆(かみをさか・まりほ) @kamiwosakamariho

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