山形のラーメンについて考えてみた。

ぴとん

第1話 山形のラーメンについて

 先日、山形市が総務省の発表するひと世帯あたりのラーメン消費額1位を新潟市から奪還しました。


 奪還、というのも実は前年度の調査で新潟市に1位の座を譲るまで、山形市は8年連続このランキングで1位を取り続けていたのです。


 そのため前回の王者陥落は県民の間で大きな衝撃が走りました。この一年は首位を取り戻すため様々な活動が行われたと聞いております。


 さて、ここでみなさんはこう思ったのではないでしょうか?


「山形ラーメン……?聞いたことない」


 ご当地ラーメンというのは日本全国各地にあります。


 札幌味噌ラーメン、喜多方ラーメン、博多豚骨ラーメン、横浜家系ラーメン、尾道ラーメン……エトセトラ。


 しかし「山形ラーメン」という言葉は、多くの人が耳にしたことがないフレーズなのではないでしょうか。


 ラーメン消費1位を毎年のようにとっていたというのに、なぜ「山形ラーメン」が全国に広まっていないのか。今回はそれについて私見を交えて述べていこうと思います。


 なお、これは個人的な趣味を兼ねたエッセイです。実在する店名がいくつか出てきますが、営利的な目的のある宣伝行為ではないことを申し上げておきます。




 まず前提として、上述したランキングでは山形市がラーメン消費額1位を取りましたが、山形県は県内各地でラーメンを食べる文化が強く根付いています。山形市だけでなく、山形県全体がラーメン王国なのです。


 そのため、県内だけでも複数のご当地ラーメンがあります。


 さきほどあげた札幌ラーメンや喜多方ラーメンを例にとっても、県名ではなく市町村単位の地名がついています。


 北海道には札幌のほかに函館や旭川ラーメンがありますし、福島には喜多方のほかに白河ラーメンというのもあります。


 県名を冠するご当地ラーメンというのは実は案外少ないものなのかもしれませんね。(和歌山ラーメンや熊本ラーメンというのもありますが)


 山形県も、県内各地域ごとのご当地ラーメンが存在する、群雄割拠の地となっています。


 県名を冠した「山形ラーメン」というのをひとつ代表を決めて押し出すには、あまりにも県内のご当地ラーメンが多すぎる。


 しかし、市町村ごとでご当地ラーメンを押し出そうとすると、市町村名のネームバリューに欠けるため、全国には広がらない……。

そんなジレンマも存在するのかもしれませんね……。



 それでは、ここからはさっそく県内各地のご当地ラーメンを紹介していこうと思います。


 

1、米沢ラーメン


 米沢市というと、米沢牛が全国的に有名なので地名として聞いたことがあるひともいるのではないでしょうか。

 

 ここ米沢市で食べられている米沢ラーメンは、鶏ガラと煮干しのあっさり醤油スープが基本です。麺は多加水で、細めのちぢれ麺を使用しているところが多いです。


 また、米沢牛の牛脂を使用したこってりとしたスープに仕上げている店もあり、ここへ米沢牛のチャーシューをも乗せたものは、まんぎりラーメン(※まんぎりとは、米沢の方言で完璧なという意味)と呼びます。



2、馬肉ラーメン


 これは長井市で提供されているラーメンです。長井市では馬肉を食べる文化が根付いており、昔から馬肉のチャーシューが乗せられたラーメンも食べられてきました。


 スープにも馬肉出汁が使われており、醤油味が基本となっています。




3、赤湯辛味噌ラーメン


 赤湯温泉のある南陽市のラーメンです。南陽市は県内でもとくにラーメンのPRに力を入れていれており、市役所にはラーメン課があるほどです。


 さて、こちらの辛味噌ラーメンは「龍上海」というお店が提供しており、おそらく山形でトップクラスに全国的な知名度のあるラーメンです。カップラーメンなどにもなっておりお近くのスーパーやコンビニなどで手に入るかと思われます。


 味噌スープのうえに、真っ赤な赤湯産の唐辛子で作られた辛味噌が乗った一品です。麺はコシのある太めの平打ち麺を使用しています。


 


4、山形冷やしラーメン


 冷やし中華ではありません、冷やしラーメンです。スープの上に氷が乗っている、夏におすすめの冷たいラーメンなのです。


 麺やスープが冷えていることが特徴であり、ベースのラーメン自体は各店舗それぞれの個性が出ています。


 最近では県内各地、全国的にも冷やしラーメンが広がっている風潮を感じ取れます。



5、ゲソ天ラーメン


 実は山形では、イカの足(ゲソ)の天ぷらが非常によく親しまれています。山形のもう一つのソウルフードと呼べるほどです。


 もちろん天ぷらであるため、ゲソ天は蕎麦屋で提供されているのが基本ですが、ラーメンともマッチします。


 有頂天EVOLUTIONというラーメン屋では、トッピングとしてラーメンの上にゲソ天が塔のように聳え立っている、ビジュアル抜群の一杯を提供しています。


 そばとラーメンの相互互換性については、次の項目にも関わってきます。


6、鳥中華


 こちらは天童市の「水車生そば」さんが発祥とされているラーメンです。


 蕎麦屋なのにラーメン?と疑問に持つ方もおられるかと思いますが、山形県は蕎麦屋でもラーメンを食べられるところがいくつもあります。


 こちらの鳥中華は、蕎麦の出汁でスープが作られており、具材は鶏肉が乗っています。さらに天かすが乗っていることもあり、まさに見た目は蕎麦とラーメンのハイブリットです。


7、とりもつラーメン


 新庄市のいくつかのラーメン屋で提供されているラーメンです。


 鶏ガラスープの醤油ラーメンのうえに乗っているのは鳥のもつです。具体的にはハツや砂肝、真っ黄色なキンカンなどが乗っています。

 

 鳥のもつの煮込みから発展してうまれたメニューと言われています。



8、酒田のラーメン


 酒田のラーメンは、海側の地域であることを生かした飛魚や昆布などの魚介出汁と、野菜や動物系の出汁を合わせたスープ、そして自家製麺が特徴です。


 さらに酒田では、ワンタンメン(漢字で書くと雲呑麺)が特に有名であり、雲を呑むという名に違わない、ちゅるりとしたワンタンを乗せたラーメンを出しているところが多いです。




 ここまで山形のご当地ラーメンを紹介してきました。


 私の拙い表現により、あまり器の中が想像ができなかった方は画像検索などをしていただければと思います。


 さて、画像検索をしていただいた方は、山形のラーメンがどのような見た目か、より正確におわかりになられたでしょう。


 ただ、私はこの見た目に問題があるのではないかと考えるのです。


 さまざまなご当地ラーメンが県内各地にありますが、そのベースはあっさりした醤油ラーメンがほとんどであり、見た目としてはどこにでもある普通のラーメンに近いです。


 博多の豚骨ラーメンは白いスープが目を惹きます。札幌の味噌ラーメンはたっぷりなコーンやバターが印象的です。


 視覚に訴えることができるようなラーメンではない、それが山形ラーメンが広まりにくい理由のひとつとしてあるのではないでしょうか。


 普通の見た目のラーメンが、しっかりと美味しい。それは地元民にとってはなんともありがたいことです。


 しかし、写真を見た他県民の方々は、普通の見た目のラーメンを見て、わざわざ食べに来たいと思うでしょうか。たとえどんなに美味しいという触れ込みであっても。


 来るとしても、よほどのラーメンマニアくらいではないでしょうか。


 山形のラーメンとして一番知名度の高いのは、前述した赤湯辛味噌ラーメンです。真っ赤な辛味噌のビジュアルは非常に興味を惹かれます。


 山形ラーメンを普及させるには、美味しさは何より重要ですが、同時にいわゆる「インスタ映え」を意識してみるのもひとつの手ではないのかなと、個人的に思うのです。



 それと、ここまで地域独自のラーメンを紹介しておいて、いまさら書き加えるのも変な話ですが、上述したジャンル以外のラーメン屋も、当たり前ですが山形にはあります。


 流行りの家系や二郎系はもちろん、鶏白湯、豚骨、麻婆ラーメンに坦々麺、背脂チャッチャ、ドロ煮干しや鯛だしラーメンまでさまざまなラーメン屋だってあるのです。


 山形県民は根本的にラーメンが大好きなので、あらゆるラーメンを受け入れるのでしょう。どこの店に入ってもハズレなしです。



 それでは最後に、さいきん全国的な知名度を伸ばしつつある注目の山形のラーメンをふたつ紹介します。


 ひとつ目は、鶴岡にある旅館が、冬季限定で提供しているマボロシのラーメン、「琴平荘」のラーメンです。


 丸鶏やあごだしを使用した醤油スープに、自家製麺のちぢれ麺。冬の冷えたからだに染みる一杯です。

 

 冬に海の近くにある店の前に行列ができる光景は圧巻ですが、なんとこのラーメンを山形以外でも食べることができるのをご存知でしょうか。


 実はこちらのラーメン、東日本に多く出店しているラーメンチェーン店「らぁめん花月嵐」さんにて、期間限定でここ数年提供されているのです。


 興味のある方はぜひご賞味ください。



 ふたつ目は「ケンちゃんラーメン」です。酒田に本店があり、庄内地域を中心に各地に支店がある人気店です。


 ある一定以上の年齢の方からはイジられそうな店名ですが、こちらのラーメンの破壊力は異常です。中毒性では二郎に並ぶのではないかというほどに。


 独特な煮干しスープに、口の中で暴れ出す極太ちぢれ麺。


 注文時には、油の量、味の濃さ、さらに身入り(ブロック状の脂の塊)が選べます。


 ひとを選ぶ味ながら、ハマればリピートは確実。東京方面でもこちらのラーメンにインスパイアされた店が近年いくつか出店されているほどです。


 


 いかがでしたでしょうか。山形ラーメンへの熱のあまり、つい巷に溢れるネット記事を彷彿とさせる文章を書き連ねてしまいました。


 最後までスクロールして「調べた結果わかりませんでした」で終わらせていないあたり少しは良心的だと自負しております。


 それでは、ぜひ山形に来る機会があれば、ラーメン屋にお立ち寄りください。ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

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