777文字で完結させる挑戦 第七回 いいわけ
木村空流樹ソラルキ。
第7話 山下美和
仕事を終えて山下美和は、ベランダで鈍色の月を見ている。
彼女はLUCKYSTRIKEの煙草に火を付けた。片手で短編の文庫を捲っている。
第一話本屋。第二話ぬいぐるみ。第三話ぐちゃぐちゃ。第四話深夜の散歩。第五話筋肉。第六話アンラッキー7。第7話いいわけ……と読み進めて行く。
本屋で働いている美和には、ショートショート等簡単に読める。だが、これは返品机の上にあった本だ。偶々、目を引いて買ってしまった。
「悪くない。でも、面白くもない。」
入荷し、返本され、出版社に戻る本だ。大量生産され破棄される民主主義の主張と同じだ。昔、美和が、講義で聞いた内容だった。
煙草に口を付け、肺まで入れた煙を吐き出す。
一日に何百冊と入っては、出ていく本で筋肉痛である。しかし慣れてしまう。毎日の日課に痛みは鈍化する……。
美和のベランダは6階に位置している。彼女は目を閉じる。
身を乗り出して柵の上に立った。
道路を楽しそうに母と娘が、深夜の散歩をしている。踏切の音がカンカンとした。
足を踏み出す。
頭がぐるんとし、地球から星を見た。筋肉が浮いた。きっと宇宙はこんな感じだろう。
楽しそうに家族3人で話している未来の自分が脳裏をよぎる。その時間に夫が7回ツイてないと笑う。
路地にぐちゃぐちゃと音がする。頭蓋骨が割れて中身が飛び出た音だ。
美和は、生きるいいわけを探しながら目を開いた。
「ママ?どしたの?」
ベランダの窓を開いて、3才の娘がぬいぐるみのららっくまを引きずっている。娘の身長と同じ位だった。
「ママ。泣いてるの?痛くない。痛くないよ。」
美和は思った。死ぬ言い訳なら幾らでもある。
「大丈夫よ。お部屋に入りましょう。あら、ぬいぐるみがお話してるのね」
車座に座るゲームセンターで釣り上げた人形と初代達を見た。
息を吸ってはくだけで、生きていける。生きるいいわけは目の前にある。
美和はそう思った。
777文字で完結させる挑戦 第七回 いいわけ 木村空流樹ソラルキ。 @kimurasora
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