第148話アゼリア王国の未来の為に 王たる私ができるコトを



 リアの見守る中、フローラ嬢の浄化の巫女(生贄)の儀式(身に付けた全ての魔道具の起動)の終わりが、ようやく見えて来た。

 そして、大神官の呪文詠唱が終わり、最後の輪唱りんしょうが止まって終わる。


 それと同時に、再びそこ(呪方陣中央)にフローラ嬢を置いた神官達は、さもイヤそうに大事な呪方陣が描かれた魔獣皮紙から別の場所へと運んでおろした。

 そこに、ベルン神官ほどではないが、大神官長から覚えめでたいレアル神官は、息も絶え絶えにブツブツと何かを呟くフローラ嬢の手に、木簡を手渡す。


 ソレ(木簡)には、身内に取り込んだ穢れや瘴気を浄化する為の呪文が書かれていた。

 また、何故フローラ嬢が木簡を手渡されたかというと、羊皮紙はそれなりの値段がするものだし、破かれても困るということでだった。

 またその木簡は、急遽、浄化に必要な詠唱の為の呪文だけを書いたモノだったりする。


 「お名前を、フローラさんといいましたか…苦しいでしょう? セシリア様は、幼少期からずっと苦しみながらも、国土の浄化を司ってきた我が国の至宝の巫女姫だったのですよ。あさましい貴女が、エイダン王太子を誑《たぶら》かして、全ての浄化の魔道具を止めてしまったセイで、今、災いや穢れや瘴気などが、とどめもなく溢れかえっています。当然、その罪に対する罰は受けなければならなりません。ちゃんと、木簡に書かれている詠唱を唱え続けなさい。さすれば、その苦しみは、かなり軽減するでしょう。唱えなければ、息絶えるまで苦しみ続けるだけですよ。また、自害するコトは出来ませんことも教えておきますね。勿論、ちゃんと唱えなければ、食事もありませんからね。貴女は、全魔力を捧げて、この国土に溢れた災いと穢れと瘴気を浄化をし続けなければならない宿命を、自ら背負ったのです。その数々の魔道具を自分で身に付けたのですから……それでは、頑張ってくださいね」


 感情の含まれない声で、魔道具を起動させたコトで瘴気を含む穢れを集めているフローラ嬢に、言うだけは言ったと、レアル神官は背を向ける。

 フローラ嬢は、震える手に手渡された木簡を見下ろしながら、全身をさいなむ苦しさに涙を流して、必死に書かれている呪文を読み取り、詠唱を始める。

 もはや、文句を言うだけの余力もないフローラ嬢は、自分がヒロインのはずなのに、ザマァされたのは自分というコトを本能的に自覚していた。


 この世界が、乙女ゲームの世界と似ているだけの世界であり、自分はしてはいけないコトをしたというコトだけを感じつつ、ただひたすらに、その苦しさから逃れようと、浄化の為の詠唱をするしかなかった。

 そして、魔力だけは豊富にあると自認するフローラ嬢は、呪文をつかえずにちゃんと唱えれば、全身に纏わり付いた苦しいモノが無くなるコトを、身をもって知るのだった。


 ちなみに、フローラ嬢をレアル神官に任せた(投げたとも言う)ベルン神官は、大神官長からの視線に頷き、体調を崩して講堂のスミへとソッと移動していたある夫婦と、その娘を王の前に広げた呪方陣の側まで、引きって来ていた。

 その夫婦とは、リリエンタール公爵夫妻だである。

 そして、勿論、その愛娘であるイライザ令嬢も連れて来られていた。


 本来なら、リリエンタール公爵夫妻の娘であるイライザが、浄化の巫女姫(生贄)となり、エイダン王太子と婚約するはずだったのだ。

 王太子妃の実態がどういうモノか知っているリリエンタール公爵夫妻は、現ハイドランジア女公爵の提案にのり、採掘された複数の宝石と交換で、イライザに来ていた順番を、セシリアと押し付けたのだ。


 だが、今セシリアが他の三国の上位貴族と王統の血筋の者で、母親と祖母を惨殺されて攫われて来た者だと、ガウェイ王の言葉で知って、リリエンタール夫婦は蒼褪めていた。

 そして、知らなかったとは言え、愛娘が粗雑に扱うどころか、イジメまでしていたコトを神官のひとりに読み上げられていた。


 そのセシリアに対する行いを聞いて頷いたガウェイ王が、浄化を司る者達への敬意も感謝もないコトを怒り嘆き哀しみ、貴族の末端にいたるまで、国土浄化の義務と責任をすと明言する。


 実はガウェイ王、過去の王達が用意した、数々の浄化の為の魔道具を、ひっそりと宝物庫の隠された場所から、別の場所に移動させておいたのだ。

 ちなみにその隠された場所は、王だけしか入れないように細工されている場所だった。


 隣国のロマリス王国建国500年記念の祝賀に出る前に、大神殿の方に移すように指示して置いたのだ。

 帰国したら、貴族ならば、浄化の義務を背負うモノとする国法を発令し、平等に浄化を執り行うコトを命令する予定をしていた為に。


 ガウェイ王は、まずリリエンタール公爵夫妻の娘であるイライザに、浄化を強要する魔道具を身に付けさせて、エイダン王太子との間に子供を作るコトを命令していた。

 目の前で粛々と、浄化の義務をせられる者達を見飽きたリアは、その事実に思考が明後日に飛ぶコトを、あえて自分に許すのだった。


 ふ~ん…本当は、王太子妃になるのイライザの番だったのねぇ……知らなかったわぁ

 彼女には、随分とイジメられたのよねぇ……キツイ時に絡まれるんでツラかったわねぇ

 ただ、今は前世を思い出したからでしょうねぇ…なんか笑っちゃっうわよねぇ


 それって、やっぱりイライザって名前のセイかしらねぇ?

 仕事明けには、だいぶ古いアニメを、なんとなくで流し観ていたから……

 特に、名作ならぬ迷作? 結構、それって良いのぉ?的な作品があったわねぇ






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