第147話その頃のアゼリア王国 確かに恩恵を受けている者達全ての責任と義務ですね



 リアは目の前でのたうち、泣き叫ぶフローラを直ぐ近くから見下ろしながら、首を振る。


 流石に、全部を起動されたらツライわよねぇ……それこそ地獄の苦しみでしょうね

 そういう意味で、膨大な魔力を持っていた私だって、幼さもあってじょじょに身に付けて、それに耐えられるようになっただけだもの

 まして、フローラ嬢は、その為の浄化の呪文も知らないでしょうしねぇ


 そんなコトを思うリアの視線の先で、フローラが身に付けた魔道具が全て起動するまで、大神官長様の代わりに、腰ぎんちゅくと嘲笑あざわらわれていたベルン神官が、ガウェイ王に纏いつく穢れや瘴気や災いを一心に祓っていた。

 その姿を観て、リアはベルン神官が大神官長様の血筋の者だというコトを見て取る。


 そう言うコトなのねぇ……そして、今、この時に、長い長い苦渋を耐えた結果が開花したということね

 自らをおとしめてまで、上位貴族に取り入って、その血の中に入り込んだ者達の努力の結果ね

 それでも、ちょっと理不尽と思ってしまうわねぇ………はぁ~………


 結局、悪さをし放題した人達は裁かれないのよねぇ…こういうのやり逃げっていうのよね

 そして、地位をカサに着て、無理矢理に血族に生贄を出す為に娶られた人達の子孫が、その対価を支払うコトになるのよねぇ

 幼少期からずっとイジメられていたから、王妃様に恨みが無いとは言えないけど

 王妃様は私にとっては加害者だけど、結局はそういう欲長けた者達の被害者のひとりでもあるのだから………


 素直に、次の子供を産んでいれば、優しいガウェイ王も大事にしてくれたでしょうに………

 エイダン王子も、ちゃんと自分の立場に付随する義務と責任と責務に向き合っていたら、ガウェイ王からそんな冷たい視線を受けずにすんだでしょうねぇ

 とはいえ、ここから解放された私は、二度と戻る気なんかないけどね


 そんな感想を覚える間に、フローラの姿はうらぶれてしなびたようになっていく

 華やかなストロベリーブロンド…いやこの場合は、ヒロイン特有のピンク色のふわふわの髪だったのに………

 見事に、色抜けしてぱさぱさに…もうなっているわねぇ………あっという間ね


 つーか…いくらなんでも、色抜けするの早すぎじゃない?

 かなり濃いピンクだったのに、薄っすら緋色を残した白髪になるなんて………

 あぁ~あ……エイダン王子ってば…唖然あぜんとしているわねぇ………


 リアが呆れていると、ガウェイ王も立っていることすら出来ない唯一の我が子の姿に溜め息を吐いていた。


 「この程度の穢れや瘴気で、そのていたらくか…ほんに情けない……全て、セシリア公爵令嬢に押し付けて、遊び惚けておったことが顕著に出ておる。今のままでは、小さな魔道具のひとつも付けられないな……仕方がない、大神官長よ、今のエイダン用に調整した浄化の魔道具の制作を頼んでよいか? たしか、作れたよな? まったくたった三つの幼女だったセシリア公爵令嬢でもしっかりと勤めを果たせたというのに……しかたがない、魔道具が出来上がるまでは、当座の間、エイダンには子作りに励んでもらうとしよう」


 そうエイダン王太子に命令した後、王妃へと視線を向け、ガウェイ王は感情を含まない視線で見詰めて言い放つ。


 「当然、ソナタにも子作りはしてもらうぞ……とはいえ、もはや私の身体が持たない。何度も誘ったのにソナタは拒否してくれたからなぁ……弱り切った私自身で作るコトが出来ないからな、義務と責任を果たす為の子を産んでもらう。まぁ~…ソナタには、罰ではなく褒美になるやも知れぬがなぁ……王家の血筋が濃い、公爵や侯爵の血筋の男と作ってもらうぞ。嬉しいだろう、若く容姿端麗な者も居ようからな」


 ビクッとした王妃が口を開いて訴えようとした時には、既にガウェイ王はエイダン王太子へと視線を向けていた。

 その王妃の言葉を一切拒絶するような姿勢に、その背後で泣き崩れるが、誰も同情する者は居なかった。


 勿論、王妃と共に、セシリア公爵令嬢をイジメるコトを楽しんでいた者達も真っ青だったコトは言うまでもない。

 大切にされていたはずの王妃でさえ、厳しいし処罰を言い渡されたのを、今、目の前で自身の瞳で見てしまったのだから。


 「エイダン…聞こう……セシリア公爵令嬢は何処におる? 追放して棄てたと言ったが、何処に棄てたのだ? その答えによっては、ソナタへの処罰をより一層キビシクするコトになるが………誰に命じて、何処に棄てたのだ?」


 まだ、セシリア公爵令嬢の断罪と追放から、さほど時間は経って居ないだろうとふんで、もしかしたら救助できるのではという一縷の望みからの問いかけに、開き直ったエイダン王太子は答える。


 「知らない…護衛騎士に運ばせて、城外に呼んだならず者の馬車に、放り込ませ、国外に追放せよと命じただけだから…何処へと棄てたかなど聞いて無い」


 こうなってもなお、自分のしたコトの意味を理解していないエイダン王太子の様子に、ガウェイ王は噛んで含めるように言う。


 「愚かな…よく聞け、エイダン…お前がどんなコトをしたか…な……セシリアは…確かにハイドランジア公爵家の娘として、我が王家に差し出された。だが、その実態は、先代ハイドランジア公爵が愛した女性の孫だ。そう、ただ愛した女性のな。そこに、ハイドランジア公爵の血筋は引いていないとつくがな……な…ようするに、我が国とは何の関係もない血筋の者なのだ、なのに負う必要もない義務と責任を背負わせた……私も、つい先ほどその事実を知った」

 そうガウェイ王が言えば、エイダン王太子はブスくれた顔で反論する。


 「なら…ただの平民ではないですか……平民がハイドランジア公爵令嬢を名乗ったのだから、身分詐称の罪で罰したで済むでしょう……なんで、私の婚約者になんて…あんなバケモノ……」


 自分が悪いなど、カケラとも思っていないエイダン王太子に、ガウェイ王は怒るむなしさを覚えつつも、その続きを口にする。


 「はぁ~…説明は最後まで聞かぬか…愛しい平民というコトになっている女性・カメリア(祖母)の産んだ娘が、セシリアの母親・アメリアで、その父親は他国の公爵家の者だ……そう、他国の公爵の娘がセシリアの母親・アメリアだ。そして、セシリアの父親は、ある国の元第三王子で、現在は国王となっている。そんな他国の王統を引く娘がセシリアだ。それを、父親憎しの現ハイドランジア公爵夫妻が、母親・アメリアとと祖母・カメリアを惨殺して奪って来た子がセシリアなのだ」


 ガウェイ王が説明しても、エイダン王太子は首を傾げるだけである。

 その様子にガックリしながらも、なおも続ける。


 「はぁ~…わからぬか? 今も、セシリアを…可愛い孫を奪った者を…可愛い娘を奪った者を…それぞれが探しているという事だ。下手をすれば、三国から我がアゼリア王国は戦争を吹っ掛けられると言っているのだ。言っている意味が判らぬのか? エイダンよ。大事にされていたならば、セシリアを返して、莫大な賠償金を支払うコトで戦争を回避できたかもしれない……たらればだがな。だが、当のセシリアは、婚約者であるはずのソナタ達からイジメ抜かれて、ずっと虐げられて生贄とされて来た上で、身分を剥奪の上に国外追放を言い渡して棄てた。これでは……もはや…どうにも言い訳も出来ぬわ……嗚呼…このままでは、このアゼリア王国が滅んでしまう」


 そう嘆いてから、キッとガウェイ王は顔を上げて言う。


 「今、ここでセシリアのコトを告白したのは、この場に居る全てのモノに、同じ罪があるというコトを教える為だ。大神官長から調べ上げたセシリアの本当の身分を聞くまで、誰も、セシリアが虐げられているコトを、この私に報告して来なかったからな、同罪だ。ふふふふ………これが漏れたら、我がアゼリア王国は滅亡するだろう。勿論、密告したからと言って、見逃してはもらえないだろう。セシリアの祖父母や親戚一同、また父親の方も、血眼で探しているようだからな。ほんの少しでも、セシリアのコトを口にしたなら、壮絶な拷問が待っているだろう。勿論、セシリアの母親・アメリアの本当の父親も、娘を殺し、孫を奪った者をいまだに探しているらしいからな。だが、せっかく代々の王が、我が身と血筋の者達を犠牲に、この呪われた大地を住めるように浄化して来た祖先達の努力を無為にするコトは出来ない。ゆえに、全てを一蓮托生とし、ここに集まる者達全てで、そのせきを背負うモノとする」


 そう高らか宣言したガウェイ王は、大神官長に向き直り命令する。


 「大神官長よ、ここに居る全ての者に、浄化の魔道具を装備させよ」


 「はっ仰せのままに」


 クルッと護衛騎士達を向き直り、ガウェイ王が命令する。


 「浄化の魔道具を装備し終わるまで、誰一人。外に出すな」


 「はっ」


 リアは、悪逆王や残虐王と呼ばれるコトを顧みず、ガウェイ王が貴族と名の付く全員に、

浄化の義務を強制的に背負わせる決断をしたのを、ただただ見守るだけだった。

 





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