第145話その頃のアゼリア王国 まるで乙女ゲームの断罪シーンのようですね



 ガウェイ王が侍従のセバスに支えられながら、状況を見極める為に、講堂の壇上へと向かう。

 その途中、ダンスができるようにテーブルや椅子が避けられた空間の中央で、王太子であるエイダンが蒼褪めた表情で力なくへたり込んでいた。


 それも、ガウェイ王が見知らぬ、品の無いけばけばしいドレスを纏ったフローラに、抱き縋るような状態で、青息吐息で座り込んでいたのだった。

 その状態と、フローラが身に付けている、本来ならば、セシリア公爵令嬢が身に付けているはずの装飾品の全てを、当然のように身に付けている姿を見て、ガウェイ王は呆れ果てたように首を振る。


 「……ここまで……ここまで…愚かモノだったとは………何度も何度も言い聞かせたというのに………私の言葉の意味の…なにひとつ…理解しておらなんだったか………」


 低く響き渡るガウェイ王の言葉が終わるとほぼ同時に、護衛騎士に抱きかかえられてその場にやっとたどり着いた王妃も、フローラがセシリア公爵令嬢が身に付けていたモノを身に着けているのを見て、状況を理解する。

 ただし、それは王妃が邪推したコトが、まさに正しかったという意味で………。


 「お…おまえが……お前が、エイダンを…私のただひとりの王太子を誑かしたのだなっ……よくも…そのような…だいそれたコトを…してくれたものだっ……この下賤な身の程知らずのがっ……お前がエイダンを誑かさなければ…ワタクシがこのような目に……捕らえよっ……そこな、エイダンに抱き縋る悍ましい娼婦を……早くエイダンから引き剥がすのだ…穢れと瘴気を纏う…そこの悪女から……エイダンが衰弱死してしまう…誰ぞ……早く引き剥がしておくれっ」


 そう王妃は叫んだ後、苦し気に浄化の為の呪文を必死で唱え始める。

 現在の王妃は、国土に溢れかえる穢れや瘴気を浄化をする役目を、唯一背負った存在として、どんなに苦しくても浄化をしなければならないのだ。


 浄化をしなければ、その身に穢れや瘴気が食い込み、今はこの場にいない、浄化を強要する魔道具を身に付けさせられていたセシリア公爵令嬢のような姿になると、容易に想像できたからである。

 大神官長は、ガウェイ王の心身を穢れや瘴気などから守らせる為、護衛騎士の迎えが来るまでの間に、王妃に浄化の強制の魔道具を身に付けさせたのだ。


 簡易的な疑似魔道具とはいえ、現在唯一稼働している、穢れや瘴気を収集し、浄化を強制するモノなので、講堂に集まったモノが一気に殺到していた。

 当然、エイダン王太子の全身に纏わり付いていた穢れや瘴気も、王妃へと殺到した。


 ちなみに大神官長が何をしていたかと言えば、ガウェイ王に集まる穢れや瘴気を、必死に振り祓っていたのだ。

 セシリア公爵令嬢が身に付けていた浄化強制・穢れや瘴気の収集・浄化能力強化などの全ての魔道具が停止したコトで、濃厚な穢れと瘴気が集まってしまっていたので、ガウェイ王の心身を護るコトを一心に行っていたのだ。


 ちなみにいち早く状況を読み取った大神官長の腰ぎんちゃくと言われていたベルン神官は、チラリと大神官長を見て、頷いたのを確認し、待機させていた神官達を呼びに行っていて、側には居なかった。


 王妃が叫び終わり、浄化の為の呪文を唱え始めた頃に、ベルン神官が大勢の神官達を連れて講堂へと戻って来た。

 また、出入口にいる護衛兵には、大神官長が連れ歩いている神官のベルン以外、誰一人出すことは許さないという命令をしていたので、誰もその場から逃げ出すコトが出来なかったのは確かな事実だった。


 講堂のあちこちでへたり込んだままの者達を見回し、そこにハイドランジア公爵夫妻が居ないコトに眉をひそめる。

 他にも、本来ならば居るはずの上位貴族達の姿が無いコトに気付き、ガウェイ王は忌々しそうに舌打ちする。


 その間に、王妃の命令によって、エイダン王太子とフローラ嬢は、引き剥がされていた。

 ガウェイ王の前へと引き出された唯一の息子を見下ろし、厳粛な声で問い掛ける。


 「さて、エイダンよ、問おう。セシリア公爵令嬢はどこにおる? また、婚約者でもないモノが、何故、セシリア公爵令嬢が身に付けていたモノを身に付けているのかも教えて欲しいモノだな」


 愛情というモノが失せきった双眸で、ガウェイ王に問い掛けられ、エイダンは状況も顧みずに言い返す。


 「あんな汚らしい醜いオークなど、婚約破棄して、身分を剥奪して、国外追放で棄ててやったぞ。俺に相応しいのは、可憐で愛らしいフローラだ。勿論、あんなオークに王家の至宝を身に着けさせておくなどもってのほかだろうっ……美しい装飾品は、美しく愛らしいフローラに相応しい。だから、フローラに身に付けさせただけだ。あんな醜いモノが、このボクの婚約者など…………」


 聞くに堪えないと思ったガウェイ王は、王妃を見て言う。


 「そなたが、セシリアをしいたげた結果がコレだ。私は何度も愛するように……優しくするように…言ったはずだがな……面白半分に、セシリアをイジメ抜いた結果、あのような無残な姿に変容してしまったのだぞ……そなたが、エイダンにちゃんとセシリアを優しく愛するように指導していれば、あのような姿にはならなかった………幼女ながらに圧倒されるような…流れ渦巻く黄金の髪に、美しい碧玉のような碧眼を持っていたのにな………そして、私を馬鹿にするように育てた……このように、王命を何とも思わない、クズになり下がって……嘆かわしいコトだ………」


 エイダンを見限ったと判る言葉に、その声が聞こえた範囲の貴族達がざわめく。

 そんな中、ベルン神官が神官集団を連れて、大神官長の前に進み出て告げる。


 「大神官長、浄化の巫女(生贄)の継承の呪方陣をお持ちしました。幸い、既に身に付けているようですから、まずは、アレ(フローラ)を稼働させた方が宜しいかと存じます。このままでは、持ちませんゆえ…アレ(フローラ)でも、居ないよりかはまだマシだと思いますので……正式な浄化の巫女達を選出する間ぐらいは持ちましょう」


 そう言って、ベルン神官は大きな継承の呪方陣が描かれた魔獣皮紙を大神官長へと差し出す。

 大神官長は差し出された魔獣皮紙を受け取り、ガウェイ王へと向き直って言う。


 「ガウェイ王、浄化の巫女(生贄)の継承の為の呪方陣が描かれし魔獣皮紙が到着しました」


 「うむ…早速、初めてくれ、幸い、自ら補助の魔道具を身に付けた者がおるからな。ソレを身に付けたのだから、その義務と責任もとってもらわねばならないからな。エイダンに愚かな選択させたのだ。その分の責務は背負ってもらうぞ、そこの名も知らぬ娘よ。王命を破らせた対価は、その身で支払ってもらうぞ」






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