第144話その頃のアゼリア王国 どうやら面倒な前世持ちが居たようです
卒業パーティーの会場では、大人子供関係なく、多く者達が体調不良に陥り、騒然となっていた。
リアは、自分が消えてほんの一時間かそこらで、瘴気や穢れがあっという間に濃くなって行く現象にびっくりしていた。
えっとぉ~…王妃様や王様や大神官長の視線で、その思いとかは知っていたけどねぇ
もしかしなくても、私っていう存在は凄かったってコト?
何時でも不出来だ不細工だとこき下ろされて、何かと言うとイジメられていたけど………
自分が理不尽に虐げられていたコトを理解しても、低くなり切った自己評価はそのままだったりするリアは、戸惑いを覚えていた。
いや、それより、エイダン王太子って、ちゃんと訓練とかしていなかったのねぇ……やっぱり
あの程度の瘴気や穢れが纏わり付いただけで、あのていたらくはないんじゃない、流石に
王様の唯ひとりの後継者なんだから、この講堂の中くらいぱっぱと浄化しちゃえば良いのにさぁ………
王妃様が甘やかして…浄化の為の鍛錬をサボらせていたから、いざと言う時の今が耐えられないんだよね
全部、何もかも、私のセイにして、私だけに浄化を押し付けたから、そうなるんだよね
じゃなくって、この後どうなるの?
誰も、この時点で私の代わりに浄化をする人が居ないんだよね
契約の空白って、流石に不味くない?
その身をもって浄化する契約で、今の地域に住むコトを許されたんだよね…確か
ああ、会場の異変に気付いたエイダン王太子の護衛騎士達が大慌てしている
いや、でも、当然かも知れないわねぇ……鍛錬をサボりまくっていたんだし…
護衛騎士は、エイダン王太子の鍛錬サボりを、見て見ぬふりしていたんだからさ
そこに、突如、義務の履行を背負わされたんだから、さぞや苦しいでしょうねぇ
私は、ずっとずぅぅぅぅ~っと苦しかったんだから、それは当然の報いってものよね
勿論、エイダン王太子に仕えている護衛騎士には、そういうのをちゃんと王様に報告する義務があるのにしなかったのよねぇ
いくら王妃様に言われたからって、王様に黙っていたんだから、エイダン王太子と同罪だものねぇ
こんな場面を、王様が見たら、きっと怒るでしょうねぇ~……
この程度の瘴気や穢れを浄化することすら出来ないのかって……きっと嘆くわよねぇ
なんてリアが内心で思っているところに、ちょっとどころではない微妙な呟きが聞こえた。
『えっ…どういうことぉ~? こんなシーン…無かったはずよねぇ~…えっ…なんでぇ~…これから、エイダン王太子とキャッキャウフフになるはずなのにぃ~……中央でダンスをみんなに披露した後、甘ぁ~いセリフと共に、私の王太子妃になって欲しいって言われるはずなのに………なんでぇ? えぇ~…なんでぇ? そのエイダン王太子が、顔色を悪くして倒れちゃっているのよ……っていうか、会場のあちこちで倒れている人がいるじゃないのぉ………えっ……もしかして、毒でも盛られたのぉ? そんなシーンあったぁ?』
と、いう、前世を思い出したリアには聞き捨てならないセリフを小さな声でブツブツと呟いているのを見て、リアは頭痛を覚えた。
うわぁ~……やっぱりいたのね…それも脳内フローラちゃんタイプだわ
って、そういえば、彼女ってば、名前もフローラだったわね………じゃなくて
この世界にも、前世の持ちの転生者か、異世界転移者が、過去に居たかもって思ったのは正解かも知れないわね
もしかして、私が想像したより、記憶持ちの転生者とかって多いのかも………
いや、それを考慮してもねぇ~…今回居たのは、典型的なお花畑ちゃんだったのねぇ
そう、周りの迷惑を顧みず……私がヒロイン…すべては私の為にあるのよってタイプ
それも、こんなに身近に居たのねぇ………
今更だけど、追放されて棄てられる頃まで、前世を思い出してなくて良かったわ
もし思い出して、色々なコトを回避しようとしていたら、もっと酷い目にあっていたかもしれないものね
そういう意味じゃ、前世の記憶を取り戻したのは、あのタイミングが最良だったかもしれないわね
そうじゃなければ、もっともっと幼少期、母親や祖母が、襲撃で殺される前に思い出したかったわね
それだったら、回避行動で、この後の色々なつらいコトを避けられたかもしれないものね
もっとも、ぜぇ~んぶたらればであって、既に終わってしまったコトだけどね
なんにしても、今の私は、別の場所で、充分に幸せを謳歌していますもの
ちょっと恋愛相手としてはハードル高いけど、グレンは私のモノだしね
それより、こっちは大変よねぇ~…これから、浄化の為の生贄探しだもの
勿論、フローラさんは、エイダン王太子を誑かした者として断罪されるでしょうねぇ
何といっても、王妃様がもの凄く正解な邪推をしてましたものね
乙女ゲームのヒロインのつもりで行動したフローラさんが、童話にありがちな、その後は幸せになりました的な終わりなんてどだい無理なんですよね
だって、この世界は、乙女ゲームによく似た異世界であって、現実の世界なのだから
そう、そこにいるひとりひとりが、ちゃんと自分の意思と魂を持つ現実の世界
そんな現実の世界で、好き勝手したら、その報いというモノは返って来るのは当然の帰結なのだから、しょうがないよね
それが、フローラさんが選んだ道なんだもの
とはいえ、この混乱、どうなっちゃうのかしら?
そんなところに、講堂の扉が大きく開かれて、ガウェイ王が入って来る姿が見えたコトで、リアは何とも言えない気持ちになる。
自分を生贄とするコトを認めたガウェイ王だけど、時に優しい声を掛け、自分の娘として扱ってもくれた相手に、リアは首を振る。
「この騒ぎの原因はなんだ? セシリア公爵令嬢は何処におる? 我が国の貴き巫女姫は? その身で一心に祈って、この国の浄化をしてくれていたセシリア公爵令嬢は何処だ?」
そう言い放ちながら、ガウェイ王は侍従のセバスに身体を支えられながらも、自分の足で卒業パーティーが催されている講堂の中へと歩(あゆ)みを進める。
勿論、ガウェイ王を護るように、両脇にはズラリと護衛騎士が立ち並び、どんな時にも対応できるようにして、守っていた。
そして、侍従のセバスに支えられながらも毅然と歩くガウェイ王の後を、大神官長と側近のベルン神官が随従していた。
それに少し遅れて、護衛騎士に抱きかかえられた顔色の悪い王妃と、それにヨロヨロと付き従う侍女のデイジーの姿があった。
あらあら……王妃様の威を借りて、私を何かと虐げていた侍女のデイジーもふらふらね
まぁ…王妃様付きになれるのだから、薄くても王家の血を引いているのかもしれないわねぇ……随分とつらそうだこと
ふぅ~……自分で思っていたより、だいぶ鬱憤(うっぷん)が溜まっていたみたいねぇ
リアは、卒業パーティーの会場に入って来た王様達の姿を見て、そんな感想を持つだけだった。
所詮は、もう他人事なので、リアはただただ傍観者として、事態を鑑賞するだけだった。
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