第142話私は酔っぱらってませんよ



 食事をしながら、リアは唐突に何でもないコトのようにグレンに言う。


 「ねぇグレン、その隷属の首輪をはずしっちゃっても良いかなぁ? それって無骨でなんか気に入らないのよねぇ………いや、一応色々と付与したけどさぁ……新しいアクセサリーを作ったから………」


 そう唐突に言い出したリアに、思わずルリとユナへと視線を向ければ、どちらもピッチリと喉下までとめていたヒモを外して、そこ(リア手製の凝った首飾り)を見せて首を振る。


 ソレ(既に隷属や従属の首輪が無くなっている)を見て、グレンはさっさと諦める。

 グレンとしては、もっと自分が役に立つアピールをして、リアに認めてもらってから強請ねだろうかな?と思っていただけに、なんとも言えない表情になってしまったのだ。


 いわば、隷属の首輪は、グレンがリアのモノであるという証しでもあるので、リアに買われてからは、かなり愛着があるモノだった。

 が、無骨と言われてしまえば、反論の予知は無い。


 確かに、隷属の首輪は、見るからにゴツク飾り気の無いモノだけに、グレンとしては諦めるしかなかった。

 そして、何よりもリアの好きにさせたいと思ってしまうグレンであった。


 「いいけど……本当に良いのか?」


 一応の確認として、グレンがそうリアに言えば、リアは何気ない風にグレンの首筋に嵌められた隷属の首輪に指先をチョンッと触れる。

 と、次の瞬間にはパシュッという軽い音と共に、首輪本体がサラサラと崩れて、その一拍後に、強く吹いた風に巻き上げられて存在が消えてしまう。


 「はい…ナクナッタよぉ……」


 グレンは自分の首筋を撫でて、なんとも言えない表情になってしまう。


 「無くなったのは嬉しいけど……なんとも言えない感覚だな…ずっと奴隷に堕とされた時から嵌まっていただけに………」


 そんなグレンに、リアはニコニコしながら自作の首元を飾るアクセサリー類を取り出して言う。


 「なら……そんなグレンに、コレなんてどう?」


 そう言いながら、何処かの王家〇紋章に出で来る何様俺様王様の首元を飾るような、豪奢なネックレスを出して見せる。

 リアが大好きな流石のグレンも、自分がソレ(エジプト風のネックレス)を身に付けるコトをためらう。

 なにせ、そのひとつで軽く国家予算数年分どころか、小さければ国が買えちゃうよと言うような代物なのだ。


 「ごめんリア…できれば、もう少しさっぱりしたので頼む……流石に、そんなに魔石とかをいっぱい組み込まれたのはちょっと………」


 グレンがそう言うのもいたし方がないだろう。

 何故なら、そこに使われている魔石は、金額もさることながら、最低でもAランクに近いBランクの冒険者パーティーでなければ、それの中の魔石のひとつすら手にできない大きさのモノがゴロゴロと付いていたのだ。


 んぅ~……真っ赤な長髪のグレンなら、こういうのも似合うと思ったのになぁ~………残念…でも嫌がってるしなぁ

 流石に、ゴテゴテと魔石を付け過ぎたかなぁ? 成金ぽく感じて、恥ずかしいのかなぁ?

 まぁ…グレンって、見るからに、あまりそういう装飾品を着けないタイプそうだかねぇ


 ああ……せっかくだから、余裕が出来たら、ああいう衣装も着せてみたいのよねぇ

 私が知っているのって、アゼリア王国の国宝シリーズくらいだからねぇ……

 でも、アレに似たのはイヤだったから、前世知識から流用したのよねぇ


 だいたい、他国のアクセサリー類や衣装は、絵画で見たことのあるモノ程度だしねぇ

 それじゃ、もう少しシンプルな……んぅ~…チョーカータイプのを出してみようかな?

 きっと、組み込んだ魔石が多すぎて成金ぽく感じちゃったんだろうねぇ……


 よし、なら妖精さんの愛し子が、邪神の長兄に嵌められちゃったヤツに似たタイプ

 アレも隷属の首輪のひとつだけどねぇ……魔法とか使えなくするヤツだし

 でも、シンプルなのってそれぐらいしか思い浮かばなかったのよねぇ


 そんなコトを考えながら、リアは隷属の首輪に形状が似ているモノを出す。

 それはそれは見事な幅広で蒼銀色のソレが、何で出来ているか、グレンのみならず、ルリもユナも気付いた。

 が、リアが大好きなユナは、にこにこしながら言う。


 「わぁ~…グレンお兄ちゃんに似合いそう……でもちょっと不思議な形してるぅ」


 そう、本来は幅広の輪っかなのだが、リアはそれではつまらないと形を少し変えたのだ。

 そう、正面に来る部分がクイッとVの字に下がっていて、その中心には、見事な魔石が嵌め込まれていた。


 「なんなら、お揃いでサークレットもあるのよぉ~……こっちは細い作りになっていて、ちょうど眉間を護るような形になっているのぉ……」


 と、グレンを飾りたいらしいリアのテーブルの前にある器には、ぶどう酒が入ったコップが置かれていた。

 それでグレンは、リアが酔っぱらっていると判断した。


 勿論、何時にもまして楽し気にしているリアの様子と、テーブルに置かれたコップの中身の正体から、ルリも方を竦めてグレンに『諦めな』と首を振る。

 グレンは助けてもらえないと判断し、チョーカーを着けるコトにする。


 「うわぁー…嬉しいなぁー……俺の好みだよ、リア」


 と、棒読みで喜びの声を上げたグレンは、素直にチョーカーを受け取ろうとするが、ご機嫌のリアは立ち上がって言う。


 「グレン、そのまま座っていてね…私が着けてあげるぅ………」


 完全に酔っているらしい様子のリアに、側で静かに反芻していたナナがチャンスとばかりに瞳を光らせる。

 が、酔っぱらったリアの相手に忙しいグレン、それを面白そうに見ているルリ、リアお手製のプリンアラモードに夢中のユナは、全然気付かない。


 ちょっと足元がおぼつかないまま、グレンの後に回り込み、リアはグレンの首筋に蒼銀色のチョーカーを嵌める。

 その中央には紫色の大きな魔石が嵌め込まれていた。

 そして、首に嵌められたコトで油断したグレンは、サークレットも嵌められてしまう。


 「……はぁ~……えっ? ちょっ………な…リア……ソレ、高いのだから……って聞く気ないな」


 ケラケラと楽しそうに笑いながら、腕輪や指輪まで出て来たところで、プリンアラモードを食べ終わったユナが、ちょっと呆れ顔で助け船?を出す。


 「リアお姉ちゃん、ユナ…ケーキとアイスも食べたぁ~い……」


 そんなユナに、リアは出したアクセサリー類をしまって、ユナご要望のケーキとアイスを出す。

 それを見たルリが、更にリアに要求する。


 「だったら、アタシは新しいカラアゲと串焼き肉と、キンキンっに冷えたエールが欲しいねぇ………流石に、暑いからねぇ……」


 「オーケーオーケー……キンッキンッに冷えたエールにカラアゲと串焼き肉ね」


 と、ご機嫌で腕輪型のアイテムボックスから、出来たてのカラアゲなどを取り出しながら言う。

 そんなリアに、グレンも欲しいモノを口にする。


 「あっ…だったら俺もキンキンに冷えたエールにカラアゲと串焼き肉、それにソーセージも欲しいな」


 勿論、その要求は、これ以上無用にリアに自分を飾られないためもあったりする。

 そうでなくても、暑い砂漠で御者として御者台に座っていたグレンにとっては、これ以上ないご褒美なのだ。


 普段なら、そんな要求など出来ないが、今はリアの気をそらさないと、衣装にいたるまで着せ替え人形とされそうな雰囲気があったので、グレンも必死で要求を口にするのだった。


 「はいはい、グレンはルリと同じモノにソーセージも追加ねぇ………」


 グレンの要求を聞いて、ルリは更に言う。


 「だったら、串カツも欲しい……あのリアが作ったソースってのかけたのが食べたい」


 おとなしくミルクアイスを食べ、ケーキをペロリッと食べたユナは、物足らなさを感じて、小首を傾げて言う。


 「リアお姉ちゃん、ユナ、あのピザっていうのも食べたい……チーズがいっぱいのったの……」


 と、見掛けはまだまだ少女どころか、幼女の域を出ていないが、実際は神獣のユナも、必要なエネルギー(リアの魔力が練り込まれた食べ物)を、欲している為に、リアに要求する。

 はたから見れば、とんでもない状態なのだが、リア達は最初からそういう雰囲気で来たので、自分の行動がおかしいというコトに気付くコトは無かった。


 そして、一番の常識人で、リアを抜かせば唯一の人族であるグレンも、酔っぱらったリアに絡まれる危険を避けるために鋭意努力していたので、その場所に居るモノ達の視線を気にする余裕などなかったのは言うまでもないコトだった。


 まして、隷属の首輪は、一度嵌められてしまえば、隷属魔法を持つ魔術師と、奴隷売買を生業とする、そういう術式が付与された特殊な魔道具を持つコトを許された奴隷商以外には、けして外せるようなモノではないのだ。

 もし無理に外そうとすれば、それが偶然の産物であっても、嵌められたモノは死ぬ運命を架せられているモノなのだ。


 ソレ(隷属の首輪)を、魔道具も無しに、なんの負担もなく外して見せたリアは、そこにいたモノ達に、大聖女と認識されるのだった。

 知らぬは本人ばかりで、リアの大聖女認定は、しっかりと定着していくのだった。



 




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る