第141話冒険者side 俺達は、聖女が奇跡を起こすのを見た(後)
俺達がレイニーの状態にオタオタしている間に、リアと呼ばれている女性は貴重な鑑定の魔道具でレイニーのことを調べて判ったコトを口にしていた。
俺達にとっては、地獄を突き付けられたような事柄だった。
寄生虫…それも体内型なんて、どうやったって排除なんて出来ない。
俺は、腕に寄生されて、その腕を切り落とすしか無かった冒険者を知っている。
寄生されてジワジワと腕の中に侵入される痛みと悍ましさと、腕を切り落とすコトで逃れるコトが出来た幸運を………。
体内に居るんじゃ…どうやったって…排除しようがない。
希望観測で、王都だとか神官だとか魔法使いだとかを口にしても、それは空しい空言。
まして、レイニーに取り着いているのは、蟲毒虫とかいう悍ましい寄生虫だ。
蟲毒虫ってヤツの話しは、与太話としてサルーンで聞いたコトがある。
呪術師とかいう奴等が造る、悍ましくも汚らわしい行いの末に、生き残ったモノで造る呪術だと聞いたコトがある。
はるか昔には、それで繁栄していた一族がいたって話しだ。
そんな幻に等しい、対抗手段など無いようなモノを前に、リアと呼ばれた女性は取り出すと宣言する。
テイマーという希少職だけでも珍しいと言うのに、このリアという名の女性は、レイニーの体内から、悍ましい寄生虫を取り出すと言っている。
いや、この場合、体内を喰らい破って顕現する前に、討伐するというコトだろうか?
それだって、かなり無理なコトだと思う。
蟲毒虫と呼ばれるモノは、作り手にしか処理できないと言われている
もしくは、その作り手よりも数段上の力を持つモノにしか、扱えないと言われているモノだ。
俺が惑っている間に、レイニーはフォルカとルリと呼ばれている侍女に支えられて、リアと呼ばれるふくよかな女性の前に立たされていた。
止めようと思うのに、声が出ないなか、レイニーは衣類を剥ぎ取られる。
フォルカが、レイニーの衣類を脱がせたのだ。
ここしばらく、フォルカが着替えを手伝っていたコトで脱ぎ着が簡単なモノを着せていたので、簡単に脱がせられたらしい。
リアと呼ばれた女性は、真正面からレイニーの裸体を確認し、背後に回って頷いてから、また真正面に戻って来て言う。
下半身に衣類を着せて良いと、なんなら上着も前開きにしてるなら着せても平気だと。
そして、俺は再び驚くコトになる。
何故なら、リアと呼ばれる女性は、既に幻と言われている転移系の魔法『アポーツ』を使ったのだ。
しかも、取り出した蟲毒虫は、魔力の檻で包み込んだあげくに、水晶珠に封印してしまったのだから………。
高位の大神官長クラスにならないと使えないという『封印』を、なんの苦労もなく、気軽に見えるくらい簡単に使ってみせた。
そして、捕らえた蟲毒虫の確認した後、それを側に浮かせたまま、リアと呼ばれる…ああもう…そうだ…こういう女性を…きっと…聖女と呼ぶんだろう。
そう、聖女リアは、レイニーの蟲毒虫が出した毒を無きものにして、治癒まで掛けて見せたのだから………。
治癒の『ヒール』を使える僧侶や魔法使いは、そこそこ存在する。
勿論、解毒を使える神官や魔法使いも居る。
双方を使える者だって、そこそこにはいるだろう。
だが『アポーツ』や『封印』を、苦も無く使える者など見たこともない。
また、高い能力を持つ者は、王侯貴族に囲われてしまい、俺達のような底辺に居る者になど使ってくれるコトなど無い。
なのに、彼女はそんなコトを気にするそぶりもみせず、なんでもないコトのように使ってみせる。
聞いたコトある…そういう特殊な大きな魔法には、膨大な魔力を必要すると。
普通なら倒れてしまうような魔法を行使したというのに、聖女リアは、お礼を口にするレイニーに優しい声を掛けてくれていた。
そして、側にいる侍女のようなルリと呼ばれた女性も、ユナと呼ばれた少女も、奴隷のグレンと呼ばれた男も、そんな聖女リアの行動に、何も言わないし驚いても居ない。
きっと、聖女リアは何時でも、困っている者に慈愛を与えているのだろう。
奴隷だと言うのに、グレンという男の瞳には、聖女リアに対する思慕が見て取れる。
きっと大事にされているのだろうな。
聖女リアは、蟲毒虫を封印した水晶球を目線の高さにして、それを見ながらお仕置きと口にしていた。
きっと、ソイツは、盛大な天誅を聖女リア様から食らうコトになるだろうと思ってしまった。
体内の蟲毒虫を取り除いてもらい、解毒に治癒までしてもらったレイニーは痩せ細ってしまったが、安堵の微笑みを浮かべていた。
俺は、レイニーを馬車に戻そうと抱き上げた。
その時には、グレンと言う奴隷男は、フォルカと物々交換の交渉をしていた。
そして、ユナという少女はレモネを搾った果実水を聖女リアに手渡していた。
果実水を飲む時に、フードを少し後ろにずらして見えた髪は綺麗な銀色で、色白のまだ女性と呼ぶには若い、少女と呼んで差支えない面差しだった。
凄いと思うのは、ルリと呼ばれている侍女らしい女性も、ユナと呼ばれている幼さを残す少女も、難なく魔法を使っているコトだ。
冒険者パーティーでも、必ずしも魔法が使える者がいるとは限らないのを考えれば、凄いコトだ。
そんな何気なく魔法を気軽に使用する聖女リアは、見たこともないナナと呼ぶ魔獣(注・ナナは元野生のウクダだが、そこにいたモノはみんな魔獣と勘違いしている)に、貴重なまだまだ搾れるレモネを食べられても、笑っているだけだった。
それどころが、酸っぱかったでしょと、魔法で水を出して与えている。
贅沢にも、聖女様手ずからの水をもらえるナナという魔獣に、ずるいという感情を持ってしまった。
そして、グレンと呼ばれる男にさえ、俺でさえ嫉妬を覚える。
なにせ、ユナと呼ばれたマジックポーチ持ちの少女に、シャドウハウンドの一頭をつけて、グレンと呼ばれる奴隷男に後のコトを全て丸投げして馬車へと戻って行ってしまったのだから………聖女リアにそこまで、信頼されている男。
そんな中、レイニーの処置に対する対価を求めるコトもなく、物々交換で色々なモノを交換してグレンとユナの二人組は、聖女リアの元へと帰って行った。
後には、見たこともない聖女様一向が物々交換してくれた食料品の数々だった。
俺が馬車に戻って直ぐ、オリオンとエリンが獲物を持って帰って来た。
「オルトぉ~……イイ感じに採れたよぉ~……みてみてぇ~…プレプレだよぉ~…それも、こんなに丸々としたヤツ」
そう言って、エリンが一番小ぶりなプレプレを見せる。
プレプレとは、ネズミ系の獣だったりする。
リアが見たらなら、間違いなく、前世の動物園でみたプレーリードックだと思ったコトだろう。
ただし、大きさは可愛くないほど大きい。
エリンが見せた一番小さいモノで、体長百二十センチほどあるのだから。
「流石に重かったよ。ついつい獲り過ぎちゃったよ……っと、おっ…今日は顔色が良いなレイニー…ご飯は食べられそうか?」
起きて座って、食事の準備をしているレイニーに気付いたオリオンが声を掛ければ、エリンは駆け寄ってその顔色をマジマジと見詰める。
ちなみに、見てぇ~と持ち上げて見せていたプレプレはポイッとしたコトは言うまでもない。
「……うっ…ウエッ……うえぇぇぇぇ~……レイニーの…死相…消えてるぅぅ~…よかったぁ~……ふぇぇぇぇ~ん……良かったよぉぉぉぉ~……」
叫んで泣くエリンを宥めつつ、獲物を獲りに出かけていたオリオンに、これまでのことを教え、レイニーが救われたコトを告げる。
そして『野生の牙』のパーティーメンバー全て揃ったので、馬車から出て、俺は聖女リアが居る馬車を指さす。
「あそこにいらっしゃるのが、聖女リア様だ」
視線の先では、リア達が楽しそうに食事の準備をしていた。
見れば、シャドウハウンドも全頭出している様子だった。
そして、お乳を出すだけあって、あの謎の魔獣(ナナ)の子供らしきモノに、まだ雛と判るたぶんグリフォンや猫型魔獣の幼体が楽しそうに遊んでいた。
どうやら、シャドウハウンド達が遠くに行かないようにと面倒を見ているらしい。
母親の魔獣は、聖女リアの側に張り付いていて、自分の子供はシャドウハウンド達に任せっきりらしい。
そんな中、ひとつのテーブルに色々な料理やお酒などを供えていた。
どうやら、信奉する神に捧げるのだろう。
そして、俺達は再び奇跡を見るコトになる。
本来、祭壇に捧げられた供物は、捧げ終わった後に、参拝に来た者達に配られるのだ。
俺達も、大きな討伐とかをする前は、神殿に行って捧げ物をして、無事を祈願する。
そして、祭壇に供えられた後の御饌(みけ)をいただいて遠征とかに出る。
なのに、聖女リアが捧げたモノは、ちゃんと神へと届いているらしい。
それだけ、聖女リアは神と近しい、神に愛(あい)され愛(めで)でられた存在なのだろう。
そんな奇跡を前に、聖女リア達は、何事もなかったように、神への祭壇を片付けて、自分達の食事に取り掛かる。
その中には、奴隷のはずのグレンと呼ばれる男も、同席していた。
俺は、今日、何度、奇跡を目にしたことだろう。
本当に、グレンとやら、お前が羨ましいぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます