第139話冒険者side 俺達は、聖女が奇跡を起こすのを見た(前)



 俺の名はオルト…幼馴染み達と冒険者パーティー『野生の牙』のリーダーだ。

 何時も通り、サンドボアやサンドウルフの討伐依頼を済ませ、大半を買い取りしてもらったところだった。


 「オルト…手続き終わった?」


 魔法使いのエリンからの問いかけに、俺はふっと笑って答える。


 「ああ、今終わったところだ。今回は頑張ってサンドボアを丸ごと持ち帰られた分、良い金額になるだろうさ」


 そう返す俺に、斥候を担い弓が得意なフォルカが大きく溜め息を吐いて言う。


 「でも、今回は大サソリとかアサシンスパイダーが居たセイで、解毒ポーションを大量に使う羽目になったから、そこまでの稼ぎにならなかったんじゃないの?」


 フォルカの溜め息に、俺の腹違いの弟であるオリオンが肩を竦める。


 「それな……ったく、あんなにポコポコと毒虫が出るとは思わなかったよ。いやマジで、一瞬で足首に毒を打ち込まれた時には焦ったぜ……解毒のポーションなんて買い置き必要かって思っていたけど、ギルドの受付嬢に、必ず人数分買えって言われて(脅されて)素直に買って置いて良かったぜ」


 ギルドの受付を担当するロザリア嬢は、とにかく綺麗なだけに、きつい口調で言われると、反発しずらくて、言う通りに数種類のポーションを必ず買ってしまうコトになるのだ。


 「まぁ…本当に必要になるとは思わなかったが……あの森で毒蛇に当たらなかったのは幸いだったな……下級解毒ポーションじゃ間に合わなかっただろうからな」


 そんな会話をしている時に、俺達は護衛依頼を受けた。

 ギルド内で声を掛けられたので、その場でちゃっちゃと手続きをして、護衛依頼を受けて直ぐに出ると言うので、必要な食料を買い込んで直ぐに出発となった。


 この時に仲間のレイニーの様子に気付いていればと、後々になって思うコトになるが、余計な出費のセイで、懐事情が良いとは言えなかったので、報酬に目がくらんでしまったのだ。

 何と言っても、モルガン国に戻る為に護衛が必要だってコトで飛びついちまったんだよなぁ。


 俺達は、モルガン国の外輪部にある流民街出身で、ちょうど侵略戦争をかけられた時に、討伐依頼で国に居なかった。

 侵略を受けたという話しを聞いたのは、ロマリス王国での冒険者ギルドでのコトだった。


 俺達は、モルガン国に帰るに帰れず、しかたがなしにロマリス王国で依頼をチマチマとこなしながら、帰国できる日を待っていた。

 三年だ。三年我慢した。属国とかしたモルガン王国も、だいぶ落ち着いているだろう。


 全員が、家族や弟妹の心配をしていたソコに、モルガン国に帰国するアメトリン伯爵令嬢の護衛という依頼が飛び込んできた。

 我慢していただけに、帰りたい衝動を止めるコトが出来なくて、俺達は飛びついてしまった。


 一応は、工程は順調だった。

 ただひとつの気がかりは、レイピア使いのレイニーが体調を崩し、日々痩せ細って行くコトだった。


 少し前から、レイニーの口数が少なくなってきていたのは、みんな気付いていた。

 だが、それは久しぶりに、砂漠の大街道を通るセイで疲労が強いセイだろうと、深く考えることをしなかった。


 日に日に食事量も減り、見た目からしてげっそりとしてしまった。

 ついには、ひとりで歩くコトも出来ない程になり、俺達の移動用の馬車で寝て過ごすコトしか出来なくなっていた。


 ほとんど口を開くコトが無くなったレイニーは、ポツリと『お母さんや弟に会いたい』とこぼした。

 自分の命がモルガン国まで持たないとさとっているような言葉に、フォルカが叱責するように言う。


 「もうすぐ会えるわよ。三年ぶりだから、レイニーの弟は、結構大きくなっているかもねぇ…だから、ちゃんと気を持ちなさい……暑さに負けているのよ…ちゃんと食事を取って、休養を取ればすぐに治るわよ」


 と、なんの確信も無いまま、一生懸命に励ます。

 そして、ロマリス王国とモルガン国のちょうど中間辺りに位置する、冒険者などが安全に休憩する為の馬車の停留所で、しばらくの休養を取るコトになった。


 俺達の馬もだが、アメトリン伯爵令嬢達の馬車を引く馬達がバテてしまったのだ。

 替え馬達もだいぶヘタッてしまったというコトで、馬車を良い位置に停泊したところで、オリオンとエリンが、2人で新鮮な獲物を獲りに行くと言って出かけてしまった。


 良く見れば、同じように馬達の休憩の為に停泊した大小の行商人達が居た。

 そいつらは、器用に日陰を作りながら、物々交換する為に荒布を引いて、色々なモノを並べていた。


 俺は、アメトリン伯爵令嬢達の馬車から離れた位置から、危険は無いかと周囲を監視していた。

 ちなみに、すぐそばに馬車を並べて置かなかったのは、アメトリン伯爵令嬢の侍従とか言うヤツに、最初から離れて止まるように指示されていたからだ。


 ちょっとどころじゃなく、いけ好かない感じはするが、俺としてもその指示はありがたかった。

 お貴族様だからな、衰弱しているレイニーの姿などを見たら何を言うかわからない。


 そんな中、一台の馬車が猛スピードで馬車の停留所へと入って来た。

 それだけだったら、誰も驚かないだろう。

 その馬車は、シャドウハウンドと呼ばれる大型の魔獣に取り囲まれて入って来たのだ。


 四頭立ての馬は、どうやら軍馬らしく、どれも立派な体躯をもった猛々しくも勇猛果敢な様子だった。

 多数のガタイのほぼ変わらないシャドウハウンド達に囲まれて、臆するコトもなく平然と走って居る姿に圧倒される。


 同時に、危機感をもった冒険者達が、各々武器を構え、魔法を使える者達は詠唱にすかさず入った。

 ごく個人的な行商人ですら、数人の護衛の為の冒険者を雇っているので、それなりの人数がソコにいた。


 それでも、勝率を考えると、かなりヤバいと思う数だった。

 なによりも、体躯が良く、戦闘能力がもの凄く高いコトを窺わせる集団だった。

 馬車を取り囲むシャドウハウンドの群れを見て、本気で不味いと思った。


 最初は、シャドウハウンドの群れにぶち当たって、ここ(馬車の停留所)まで来てしまったのかと思った。

 なのに、馬車の後部がバンッと開く音が下と同時に、女性の声が響いた。


 「みんなぁ~……ハウスッ………ナナもハウスッ……」


 という声と同時に、馬車を取り囲んでいたシャドウハウンド達が馬車の後ろへと回り、開いたドアから馬車の中へと入って行くのが見えた。


 えっ?おかしいだろ?あんな大きさのシャドウハウンドが、あんな頭数、なんでスルスルと、あの大きさの馬車の中に入れるんだよ。

 いや、作りもかなり頑丈で、如何にも旅の移動に適した馬車だけどよ。


 流石に、馬車を引く軍馬と体躯の変わらない大きさのシャドウハウンドが、馬車の中に全て消えたのを見て、魔獣の襲撃だと思って警戒していた冒険者達は、あっけにとられて見ていた。


 が、そこで終わらないのが商人達だった、個人的な行商人から、大キャラバン隊を率いている商人達までが、いそいそと木陰を作って、色々と並べ始めていた。

 いや、そうだよなぁ~あんなのを護衛獣として飼っているというコトなのだから。


 馬車の中に、魔物使い……いわゆるテイマーと呼ばれる者が居るのだろう。

 テイマーは、極稀に発現するらしい、希少職だ。

 まして、あんなのを群れでなんて、ありえねぇ~だろ。








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