第138話ご飯の準備をしましょう



 馬車に戻って来たリアは、魔法で封印していた馬車の扉を開いて中へと入る。

 そして、馬車の中で腕輪型アイテムボックスに収納した姿見を出し、中に入れたままのシャドウハウンド達を呼び出す。

 ついで、ナナの子供達とレオとグリに声を掛けて呼び出した。


 姿見の中に隠した仲間を全部出したリアは、馬車から降りて待機するコトを命令する。

 シャドウハウンド達は、サブリーダーであるアクアの指示で、トテテテッと馬車を囲むように待機する。


 勿論、大きさはアクアに準じて、超大型犬のボルゾイやグレートデン程度の姿で、一緒に馬車から外へと出された子供達(レオやグリにナナの子達)が、馬車から離れないように監視していた。


 シャドウハウンド達は、子供達が勢いあまって外へと飛び出さないように警戒し、馬車から離れれば、ササッと行ってソッと銜えて戻って来るをしていた。

 ナナはと言えば、シャドウハウンド達が面倒を見てくれるとばかりに、ゆったりと座って反芻していたりするのだった。


 本来、子育て中の母ウクダは、もの凄く神経過敏になり、警戒心バリバリで異種族、それも肉食系が近寄ろうものならば、過剰反応して襲い掛かるモノなのだ。

 それを考えれば、どう見ても子持ちのウクダだとは思えない態度のナナだったりする。


 絶対的に、リア達が自分の子供達を守ってくれるという自身があるだけに、ナナはおっとりと構えていられるのだ。

 そんなナナを見て、リアはクスクスと笑いながら、腕輪型アイテムボックスに収納して、まだ処理をしていなかったジャンボモア本体を取り出す。


 「ルリ、ちょっと手伝ってくれるかな? グレン達が戻る前に、一羽を捌いちゃおうと思うんだ」


 リアの声かけに、ルリは馬車の側に何時ものテーブルや椅子を出して、時空神様へのお供えの為のテーブルを設置し、日陰を作り終わったところで返事を返す。


 「はい…こちらも終わりましたよ……それで、ジャンボモアを捌くのですか?」


 「うん…ほら、みんなカラアゲが大好きじゃない……羽根をむしって、血抜きして、軽く表面を炙って産毛まで焼いたら、焼き鳥も作ろうと思ってね……カリッと焼いた鶏皮に、なんなら照り焼きも作るよ……照り焼きは終わっちゃったみたいだからねぇ……」


 そう言いながら、リアは風魔法でジャンボモアを空中に浮かべて、喉元を風の刃で切り裂き、水魔法を使って血液を綺麗に抜き取る。

 それをひと雫も零すことなく壷に入れる。

 トプンッと壷の口近くまで入った新鮮な血液を見て、リアはルリに声を掛ける。


 「ルリ…レオやグリ…まだ、新鮮な血液や内臓を食べさせた方が良いの?」


 リアの問いかけに、ルリは頷く。


 「そうですね、まだあの子達には必要です……できれば、ナナの子供達にも飲ませた方がイイですね……お乳だけじゃ栄養が足りないでしょうから………」


 「了解、それじゃ鮮度の都合もあるから一度しまうね」


 そう言って、リアは手首のアイテムボックスにヒョイッと収納してしまう。

 ちなみに、リアが嵌めている腕輪型アイテムボックスは、使用時に魔力を必要としない、いわゆる、アーティファクトと呼ばれるモノだったりする。

 なお、ユナに持たせている方も、同じくアーティファクトなので、所有者の魔力を必要としなかったりする。

 

 鮮血を溜めた壷をしまったリアは、ジャンボモアの羽根という羽根を毟る為の下準備をする。

 勿論、羽根を抜きやすいように、火魔法と水魔法をミックスさせてお湯を作り、風魔法で羽根の根元へとたっぷりと吹きかけて居たコトは言うまでもない。


 確か70度くらいのお湯に、30秒~60秒くらい全体を付けて羽根の根元まで浸けるんだったわよね

 そうすると、羽根がスルスルと引っ張ると抜けるって前世で聞いたコトあるのよねぇ

 前回のドードー鳥の時は、ルリやグレンの連携にあっけに取られていたから……


 ノータッチで見ているだけだったけど、今回は私が前世の知識で実践してみましょう

 あのドードー鳥もデカかったけど、ジャンボモアは更に大きいわねぇ~……

 鳥肉のストック無くなったから、ちょうど良かったわ


 ドードー鳥のカラアゲも照り焼きも、あとほんの少ししか残って無いものねぇ

 さて、ジャンボモアのカラアゲはどんな感じかしらねぇ~……うふふふ…楽しみ

 よし…こんなモンでオーケーなはず……羽根抜けろぉ~……


 そんなコトを考えながら、羽根の一本一本を吸引するイメージであっという間に抜くリアだった。

 あっという間に、丸鶏状態になったところで、上手にお腹を立ち割る。

 勿論、内臓を傷付けずにである。


 「ルリ、内臓を抜いたのタライ3つに入れたわ………子供達に食べさせる分と、どうやっても焼却しなきゃっていうのに分けてくれる? 焼却しなきゃならない分は、ライムちゃんにあげてくれる? その為に連れて来た子なんだから………」


 リアは、馬車の中で惰眠を貪っているお掃除スライムのご飯にするように指示する。

 そう、くだんの洞窟で手に入れたお掃除スライムは、リアに『ライム』と名付けられて、馬車の中の片隅で眠っているのだ。

 ちなみに、リアに名付けされたことで、うっすらと黄色がかり、ほんのりと黄緑色を帯びた雫型のスライムへと変異していたりする。


 「ふふふふ………ライムのお陰で、焼却の手間がはぶけましたね……羽根も売れそうにないモノはまかせて良いですか?」


 いまだに出来る侍女のような喋り方で接するルリに、リアは肩を竦めて言う。


 「うん…まかせる……あと、ジャンボモアの肉、欲しいところは取ったから、残りはクイン達に分けてあげて、なんなら骨もあげちゃって良いわよ……足りなかったら、他の骨とかも残っているから言ってね……みんなに、お腹いっぱい食べさせてあげたいから」


 「はいはい……では、そちらはやっておきますね」


 ルリの返事を聞いた後、リアは楽し気にジャンボモアを捌き綺麗に解体して、必要な部位の肉だけを腕輪型アイテムボックスにしまい、さっさと調理に取り掛かるのだった。

 勿論、リアに頼まれたルリは、ちゃんと十二等分に色々なモノを分けていたのは確かなコトだった。


 んふふふ………カラアゲは定番の塩カラアゲに塩コショウのカラアゲも作りましょう

 それから、醤油もどきにニンニクもどきと生姜もどきを混ぜて揉み込んだヤツもね

 マヨネーズもどきも用意してあげないとね


 そんなコトを考えながら、リアは何時もと同じように、空中でぱっぱと調理をしてしまう。

 そこに居る者達の注目を浴びているというコトを知らないリアは、魔法の常識というモノを無視して、ご機嫌で料理をしていた。


 よしっ…カラアゲも3種類作ったから、コレでオーケー

 あとは、みんなが大好きな照り焼きも作らないとねぇ~………

 オーブンとか無くても、万能な魔法があれば簡単に作れるのよねぇ~……


 ルンルンで常識外の魔法の使い方で調理を難なくこなすリアの姿に、ユナと共に帰って来たグレンは頭痛を覚えてルリへと視線を向けるが………。

 ルリは、諦めたように肩を竦めて首を振るだけだった。

 それで、グレンも肩落として頷く。


 ユナは楽しそうにリアの側に駆け寄り、リアにお願いしてジャンボモアの肉を分けてもらい、リアのしていたコトを模倣してみせる。


 「ユナ…上手よぉ~……カラアゲは…もう、ユナにまかせてもイイかなぁ~……うん、そとはカリッと中はちゃんとジューシーに出来ているわ…合格」


 そう言いながら、リアは他の料理も次々と作って行く。

 あっという間に数種類の料理を作り上げる。

 グレンは、ある意味でもう目立たなくするコトを諦め、何時ものようにナナがつまみ食いしないように見張りながら、時空神様への捧げ物を専用テーブルの上へと用意していく。


 リアは、主食にオカズに汁物、そして、お酒に食後のデザートまでセットして、何時ものように祈る。

 勿論、ルリやグレン、ユナも一緒に時空神様へとお祈りする。

 そして、何時ものように、捧げ物はちゃんと時空神様へと届いたコトを示すように、綺麗に無くなるのだった。


 グレンやルリもすっかり定番になってしまって、忘れ切っているが、普通、神への捧げ物である神饌(しんせん)や御饌(みけ)と呼ばれるモノは、捧げても消えたりしないのだ。


 だから、捧げ終わった後に、それを皆に分けふるまうのが、数多の都市や国などの神官達役割だったりするのだ。

 それなのに、祈った神に捧げたモノを受け取ってもらえる奇跡を、多くの人々の前でしてしまったのだ。


 が、そんなコトを知らないリアは、時空神様へと捧げ終わったコトでその為のテーブルを片付け、何時ものようにみんなと楽しそうに用意した食事を食べるのだった。

 周囲に途轍もない衝撃を与えたコトに気付かないリア達は、何時ものように出来たての料理を味わうのだった。


 追記するならば、全員フードをかぶっていたが、食事を楽しむ為にフードを外していたのは言うまでもない事実だった。

 そして、別の意味で衝撃を受けている者達が居たコトも、誰も知らないコトだった。


  







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る