第135話ここは『情けは人のためならず』でしょ
「くそっ……まさか毒だとは思わなかった……フォルカ…解毒のポーションは残ってたか?」
リア達の相手をしていた女性に、体躯の良い男が声を掛ける。
と、痩せ細っていて、倒れた女性と変わらないくらい蒼白な顔色で、もの凄く悲しそうな表情で首を振る。
「残念だけど…無いわ…前回の依頼の時に…使い切って…買い足しできなかったのよ………急遽入った依頼だったから……うえぇ~ん…どうしよう…オルトぉ……レイニーが死んじゃうよぉ………」
ふぅ~ん…冒険者の女性の名前は、フォルカさんって言うんだ
それで、痩せ細って顔色の悪い女性がレイニーさん…ね……じゃなくて
急遽入った依頼のセイで、解毒のポーションを買ってなかったんだ
つーか…その解毒のポーションって、どのくらいの値段なのかしら?
何時から、毒を受けた状態になっていたのかしら?
あんなに状態が悪いのに、そっちに気が回らなかったのかなぁ?
リアは、勝手に自分で交渉してはいけないと言われているので、ルリやグレンの様子を見つつ、ユナが出した料理を確認する。
うん…大丈夫そうね……量のあるモノを出したってコトね
ただ、あっちの毒に侵されている女性には、解毒した後には消化吸収の良いモノを食べさせた方が良いわよねぇ
グレンが交渉し終わったら、プリンとかミルクアイスでも出してあげようかな
のほほんと、そんなコトをリアが考えている間に、グレンは冒険者達と交渉を済ませていた。
冒険者達としても、手持ちのお店を広げたモノで、仲間の女性が助かるならと、グレンとの交渉に応じたようだった。
「リア、彼女の解毒を頼めるか?」
グレンからの言葉に、リアは頷く。
「うん、出来るよ……でも、その前に、ちゃんと鑑定の魔道具で確認するね……毒だけじゃないかもしれないから………それに、こういうのって…私としては『情けは人のためならず』だしねぇ……ここは頑張りますか」
私だって、あの『夢の翼』のみんなには随分と助けてもらったもの
だから、私も誰かを助けたい……そして今、目の前の女性達が困っている
そして、私には、助ける力があるんだから……でも、まずは確認しないとね
指先を耳の鑑定魔道具へと持って行き、魔力を流し入れる。
………ピロ~ン………ピッピッピッ………
と、定番の音が小さく鳴り響く。
レイニー(23)
レイピア使い
疲労度(重)
毒(重)
蟲毒呪(重)※身代わりの贄
体内寄生虫に魔力&生命力を吸着され瀕死
早期に解毒&討伐&治癒が必要
「げっ……うえぇぇ~…っ……キモ………」
思わず下品な言葉が口か零れ落ちるリアに、グレンがビックリした表情で振り返る。
「どうした? リア?」
呼び掛けられて、リアはハッとする。
「その…レイニーさん……毒の他に体内に寄生虫が居るみたいだわ……蟲毒呪(重)に身代わりの贄って入っているから……誰かから、呪いを肩代わりさせられたみたいだよ……それ(蟲毒虫)に、魔力と生命力を吸い取られているみたい……早期に解毒と討伐と治癒をしないと不味いわ………とにかく、そっちの何もない広い空間に移動して……私が体内から、蟲毒虫とかいうのを追い出す……」
リアの言葉に、先に正気になったフォルカが、体躯の良い男に声を掛ける。
「はっ……いや…無理だ……寄生虫は、張り付かれたところを切除するしか方法が無かったはずだっ…体内にいるんじゃ………クソッ…ここが…王都だったら…金はかかっても神官達や魔法使い達が居るから助かる可能性があるっていうのに………」
慟哭するオルトに、リアは叱責する。
「嘆いている暇が有ったらっ……さっさと…レイニーさんを…そこの広いところに連れて来てっ………ああ…もう…一刻をあらそうって時に、良いガタイしているのに、打たれ弱いねぇ……グレン…レイニーさんをこっちに……とにかく、その体内に巣食っている蟲毒虫とかいうのを、取り出すよ」
てきぱきとそうリアが指示をする間に、ユナは出したモノ(料理やナナのお乳が入った壷など)をしまいっていた。
ルリはルリで、フォルカと共にリアが指示した場所にレイニーを連れて来ていた。
既に青息吐息になっているのを見て取り、リアは、レイニーの体内で成長した蟲毒虫なるモノが、急速成長して、その魔力や生命力を啜っているコトを知る。
「こんなところで悪いけど、レイニーさんの着ているモノを脱がせてくれる……直に診て、アポーツで取り出すわ」
リアは知らなかったが、アポーツはかなり高度な魔法で、成功率も極めて低いうえ、使える者もほんの一握り高位神官や上位魔法使いぐらいだったりする。
リアの気負いも何もない言葉に、フォルカはクッと顔を上げて、レイニーの衣服を剝ぎ取った。
全裸にされたレイニーの身体には、腹部を中心にクモ型の青黒い痣のようなモノが浮かんでいた。
リアはその存在を確認し、レイニーの背後に回って確認する。
「うん…まだ間に合うわ……っと、下半身は何か巻いて上げて、蟲毒虫がいる腹部が見えればなんとかなるから…なんなら、前開きで上着を着せても大丈夫よ……もう、居場所が根を張っている部分はわかったから………そしたら悪いけど、左右からレイニーさんを支えてくれる……蟲毒虫をむしり取るわ…」
その言葉と同時に、リアは瞳を閉じてこころの瞳でレイニーの体内に巣食う蟲毒虫の全てを知覚し、魔力障壁で毛ほどの細さもない触手にいたるまで包み込んだ。
「よしっ…包み込んだ……『アポーツ』……」
リアは魔力障壁で包み込んだ蟲毒虫を、転移でもってその右掌の上へと力尽くで呼び出す。
一拍後には、リアの右掌の上にコブシほどのマダニのようなモノが浮かび上がっていた。
その身体や手足からは異様に長い触手が四方に広がるように、いくつも生えて蠢いていた。
リアはその存在を視認した後、ちょっと小首を傾げてから、魔力障壁を縮めていき、本体の大きさぐらいまで触手を無理矢理に縮こまらせてから、手首のアイテムボックスに収納した水晶球を取り出して、その中に封入する。
「……………封印……っと……よし…………」
蟲毒虫を水晶球に封印したリアは、レイニーへと向き直り、改めてその姿を視認してホッとする。
よしっ……魔力の歪みとかも消えたみたいね
変な刻印(しるし)とかも付いてなさそうだから、蟲毒虫の方はこれで大丈夫でしょう
あとは、解毒と治癒をかけて、栄養があって美味しく胃に優しいモノを食べれば健康になれるでしょう
「………『デトックス』……でもって…『ヒール』……っと、これでもう大丈夫よ」
ルリとフォルカの2人に両脇から支えられていたレイニーは、苦痛や倦怠感などが消えたコトで、自分が何をされたかを気付き、ハッとした表情でリアを見る。
「……ぁ……あり…が…とう…ござい…ます………」
お礼を口にすると同時に、滂沱の涙で深呼吸をするのを見て、呼吸すら苦しかったのだろうコトを見てとり、リアは目の前のレイニーを救えたコトを実感する。
まったく…いったい…誰でしょうねぇ~…こんな悪趣味の極みのようなモノを………
ただ、身代わりの贄っていう記述が付いていたから、誰かの肩代わりをさせられたのね
それも、レイニーさんの知らない間に、そういうコトをされたってコトね
リアは水晶球に封入して封印を施した蟲毒虫を忌々し気に見詰めて、無意識に呟く。
「取り敢えず、この蟲毒虫を作ったモノには、お仕置きをしないとねぇ~……こんなモノを作るようなモノには、天誅をくださないとね……まったく、いい迷惑だわ」
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