第134話岩塩の塊りが欲しいです
隣りに護衛としてクインとアクアが寄り添い、ルリとユナが側にいる為、リアは安心してナナの後に付いて行く。
「ナナ…何が欲しいのぉ?」
リアの少し前をテケテケとゆっくりと歩くナナに声を掛ければ、ナナは振り返って冒険者らしい者達が広げたお店を覗き込む。
ナナが覗き込んだので、リアも一緒になって覗き込む。
ここは、どうやら冒険者が採取や討伐したモノらしいわねぇ……
んぅ~…前世の大玉スイカよりも大きい氷塊のようなモノは何かしら?
冷気みたいなモノは感じないから、氷ではなさそうだけど………
リアは小首を傾げて、ルリを振り返って聞く。
「ねぇ…ルリ…あそこの薄っすらと青紫色を帯びた塊りって何かなぁ? ナナが首を伸ばしてフンフンしているけど」
リアが指さしたモノを見て、ルリは小首を傾げてから答える。
「たぶんですが、岩塩ではないでしょうか……何処か採掘できる秘密の場所でもあるのでしょう……下手に大きな都市などに持って行くと、余計に課税されたり難癖つけられたりしますからね……自分達で消費してしまった方が無難なんですよ……それでなければ、こういう馬車が休憩する為の停留所で物々交換した方が安全なのですよ」
ルリの説明に、お店を広げていた女性がコクコクと頷く。
「はい…コレはお見立ての通り、岩塩です……私達が良く行く依頼範囲の中に、そういうところがありまして…掘りつくした後に、魔物が巣を作ってしまったので、定期的に討伐しているのですが、たまにこういうモノがドロップされたりするんです……そちらの女性が言ったように、下手に販売すると都市の出入りの時に余計な課税とかされてしまうので、何かと物々交換できないか出しているんですよ」
へぇ~…色が薄っすらと青紫色っぽい岩塩なんてモノも、あるんだねぇ
前世で知っているのって、オレンジがかったピンク色だったなぁ
他に、茶褐色のブラックソルトっていうのが有ったわねぇ
もっとも、私は普通のお塩しか使ってなかったけどね
あとは、便利な塩コショウかなぁ……ああ、本当に前世が恋しいわ
調味料だって、もの凄く色々とあったものねぇ……はぁ~……
リアがそんなコトを考えているなど知らずに、女性はにこにこと愛想良く答えてくれる。
そして、その間にグレンがリア達に追い付いて来ていた。
勿論、マジックポーチを持つユナが、クインに乗って迎えに行ったのは言うまでもない。
そう、買い込んだモノと、物々交換に使ったナナのお乳の壷をしまう為に。
「グレン、アレ…岩塩だって…欲しいなぁ~……交換できそうなモノって何かある?」
リアの言葉に、グレンは首を傾げて言う。
「まぁ…魔石とか討伐部位とか毛皮なんかはあるな……あとは、ナナのお乳も壷の半分くらい残っているな……あとは、肉かな? リア、色々と肉ならあるだろ」
そう言われて、リアも小首を傾げて答える。
「うん、ジャンボモアのお肉とかぁ~…あっ…ほら…トリプルコーンのエンペラーラビット…そう言えば、面倒だからって、解体して無かったね……後で解体してお肉を食べようねぇ~……はぁ~…できれば、ジャンボモアの新鮮な卵が欲しかったなぁ~…」
リアのぼやきに、女性はクスクスと笑って言う。
「ジャンボモアの卵なら有りますよ…良かったら、何かと交換しませんか? 出来たら、そこの岩塩なんかも交換対象にしてもらえるとありがたいんだけど」
そこに、さきほどナナのお乳の物々交換を、最初に依頼して来た見事な体躯の男が帰って来た。
リアは、ちゃんと観察していたので、その良い体躯の男が、グレンと最初に交渉した男だとわかっていた。
そんなコトを知らない女性は、愛想良く帰って来た男に声を掛ける。
「お帰りぃ~…ちゃんと、アメトリン伯爵令嬢の為の新鮮なお乳は入手して渡して来たんだろ……んで、うちらの分はあるのかい? 買って来るって言ってたけど……何も持って無いみたいだけど……」
リア達相手に、販売店員と化していた女性の言葉に、体躯の良い男は肩を落として首を振る。
「ああ…その…悪い…俺達用にも買ったんだけど………ごめん………」
その会話で、アメトリン伯爵令嬢…もとい、その侍従に自分達用に買った分も、買い上げられてしまったコトを、その謝罪で理解して肩を落とす。
「はぁ~……やっぱりねぇ~……出来れば、うちらも欲しかったのにぃ~……って言っても、あのやり手の侍従相手じゃ無理だよねぇ……」
ガッカリしている女性を見て、リアはグレンのマントをツンツンと引っ張って言う。
「グレン、お乳はまだ結構残っているから、出来ればそこの卵と岩塩と交換して欲しいんだけど…ダメぇ?」
リアの言葉に、思った量の岩塩と交換ができなかったグレンは頷く。
「了解、リア」
グレンはリアに頷いて、帰って来た男に声を掛ける。
「あのぉ~……さっき、最初に声を掛けて来た方ですよね……その…まだお乳は残ってますけど…それで、物々交換は出来ますか? 他にも、ジャンボモアの肉とか…サンドウルフの牙や爪や毛皮なんかもあるんだけど………」
グレンからの言葉に、しょんぼりで戻って来た体躯の良い男が、ハッとして顔を上げる。
あまりにもガッカリしていたので、グレンに気付かなかったのだ。
「そうか…助かる……ちょっと、仲間が体調を崩しちまって、何か栄養が有って、食欲を刺激するようなモノが欲しかったんだ…その…良かったら物々交換してもらえるか?」
その言葉に頷き、ユナが再びナナのお乳が入った壷を取り出す。
「うん…確かに、半分くらい残っているね……でも、岩塩って高いよねぇ……お乳だけじゃ足りなくない? 食欲が無いなら、リアお姉ちゃんお手製の料理とかも物々交換に使っても良いんじゃないかなぁ?」
と、いっぱしの口を聞きながら、リアから渡されていた、既に薄切りにされてお皿に綺麗に並べられているローストビーフなんかも出して見せる。
ルリはルリで何も言わずに、ユナが出した料理に、すぐさま状態保存の魔法を掛ける。
ソーセージやハンバーグにフライドポテトなども出して、交換材料にどうかと提案する。
リアとしては、体調の悪い人に食べさせて良いモノかちょっと悩んだが、あえて口を挟まなかった。
「そっちのお姉さん、ちょっと摘まんでみてくれる? コレも結構いけるよ……食欲が無いんだったら、ミルクタップリのお肉もお野菜もホロホロになっているシチューもあるよ……チーズ入りだから、美味しいよ」
ユナの言葉に、馬車からかなり痩せ細った女性が、ヨロヨロと出て来る。
楽しそうな声につられて出て来たらしい。
途端に、ルリとユナが鼻に皺を寄せるようにして言う。
「「その人…毒に侵されているよ」」
2人の言葉から、毒物の匂いを嗅ぎ取ったらしいコトに気付き、リアはマジマジと出て来たばかりの女性を見詰める。
勿論、体調を崩しただけだと思っていた女性や、体躯の良い男は顔色を悪くする。
「えっ…毒? ウソッ……って……今回…クモもサソリも…見てないから………」
「くそっ…毒だったのかよ……何時、やられたんだ? 確かに、今回は毒持ちを見かけなかったのに………」
そんな中、グレンがリアにコソッと聞く。
「リア、あの女性の解毒ってできるか?」
「うん…できると思うけど? 解毒した方が良い?」
「ちょっと待ってくれるか? 少し交渉したいから……」
「うん…わかった」
そんな会話の間に、倒れかけた女性を抱きとめた体躯の良い男は、悔し気に唇を噛み締めていた。
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