第133話お買い物でも、やっぱりお乳と物々交換のようです



 ご機嫌で商人達が広げた商材を覗いているナナに、ガラの悪そうな冒険者崩れらしい者達がにじり寄る。

 そんな中、リアはユナとルリを連れて、ナナの元へと向かう。

 勿論、リアの左右には、軍馬サイズのままのクインとアクアが三人の姿を隠すようについて歩いていた。


 ナナを捕まえられないかと狙っていた冒険者崩れと見られる者達も、シャドウハウンドの成体、それも飼い主の任意でサイズ変更できる二頭の出現に、残念そうにしつつもそそくさとナナの周囲から離れる。

 それを見て、リアはホッとしつつもナナが覗き込んで居たらしいモノをチラリッと見てから、名前を呼ぶ。


 「ナナ、戻ってらっしゃい…欲しいモノがあるなら、グレンを連れて来ないとダメよ」


 リアの言葉に、商人達が見るからにガックリする。

 たぶんに、ナナがつまみ食いなり、悪戯なりしたら、ソレをネタに代金請求とかを狙っていたらしい。

 が、リアの呼び掛けで、ナナはタタッとリアのすぐ側へと戻って来る。


 お店を広げていた商人や冒険者?は、ナナを呼び戻しに来たリア達を見て項垂れる。

 流石に、グレンのところに交渉しに行くのは、そこに集まった者達が怖くて出来なかったからだ。


 なにせ、ナナのお乳と物々交換をしていた者達は、見るからに大キャラバン隊の主人や、装備から見て上級冒険者などだったからである。

 それでも、どうやらお乳と物々交換して欲しかったらしい小規模行商の商人や冒険者らしい者達は、一生懸命にリア達に声を掛けて来る。


 「…い…いかが…ですか? 先ほど…その…従魔さんが…この辺りを覗いていたんですが……その…もし…気になるモノが有りましたら…いかがですか? 出来れば、お題はお乳で欲しいんですが……その……」


 行商人が必死にリアと交渉しようとしている時に………。


 「……っ…ふぎゃぁ~……ふんぎゃぁ~………」


 どう聞いても、赤子の鳴き声が響き渡った。


 あらあら……そう…お乳が欲しいのね……赤ちゃんがいるからかしら?

 もしかして、砂漠を渡るのがキツくて、お母さんのお乳が出が悪くなったのかしらねぇ

 んぅ~…お乳は、まだたっぷりとあるから、物々交換してもいいけど……


 確か…ナナは、この辺りから見ていたようだけど……何があるかしら?

 前世でも見たことある物も有れば、何かわからないモノもあるわねぇ

 ただ……ここは、香辛料みたいなモノはなさそうねぇ…ちょっと残念だわ


 馬車の中から響く赤子のグズリに、リアは物々交換できるようなモノがあるかを確認する。

 と、リアの側に戻って来たナナが、行商人が広げていた商品へと鼻先を伸ばす。


 「ナナ、ソレが欲しいの?」


 う~ん…コレはあれね……シルクロード……えっと…砂漠の民が食べてたヤツ

 クレオパトラも大好きだってうたい文句の……なんて言ったっけか?

 ああそうだ…デーツ…だ……アレに良く似ているわ…甘いのかしら?


 甘いなら、わりと高価な商品になるはずよねぇ

 こういう行商人にとっては、かさばらずに高く売れるモノが主商品なんでしょうね

 私も、自然な甘味も欲しいしね


 リアは、一応ルリを振り返って聞く。


 「ルリ、ナナがあの干した果物…たぶん…デーツ? だとおもうんだけど欲しいみたいなの……美味しいなら…私も食べたいのよねぇ~……どう思う?」


 振り返って聞けば、ルリも頷いて言う。


 「ええ…旅の友に良く買われるモノですよ……ただ、糖度が高いモノなので、値段がわりと高価なので、お嬢様が『普通の冒険者が乗るような馬車と食料品』と指定したので、あの雇った冒険者達は、買い込まなかったようですね……いえ…もしかしたら、入荷していなかったのかもしれませんね」


 えっとぉ~……ああ…雇った冒険者達って『夢の翼』のみんなのコトね

 そう言えば、市場の中も通ったけど、あまり見てなかったなぁ~………

 あの時は、とにかく馬車と馬と食料品を手に入れたら、逃げ出すって決めてたからねぇ


 それでも、予定外のモノを随分と買っちゃったけど…そのお陰で、今が楽しいわ

 っていうか、そっか…こういうモノもあるんだ…うん…前世と変わらないモノがあるわ 

 スイカとかメロンなんかもあるのかしら? あと、砂漠って言うとイチジクかな?


 ルリの答えに、なるほどと頷けば、ユナがリアのマントをツンツンと引っ張って言う。


 「グレンお兄ちゃんを呼んでこようか? もう物々交換が終わっていると思うから、交換したモノもマジクポーチに入れたいし……」


 ユナからの申し出に、リアは頷く。


 「ウン、お願いできるかしら……あっ…クインの背中に乗せてもらって行ってね…こういうところって、危ないようだから……」


 リアの言葉に、スッとクインはユナが背中に乗りやすいように伏せる。


 「うん…それじゃぁ~…直ぐにグレンお兄ちゃんを呼んで来るね……ありがとう、クイン」


 伏せたクインにお礼を言って、ユナはサッとその背中に乗る。

 クインはユナが背中に乗ったコトを確認し、トテテテテッと小走り程度の速度でグレンの元へと向かう。

 その後ろ姿を見送り、リアはナナに声を掛ける。


 「ナナ、他に欲しいのはあるかしら?」


 そう言いながら、リアは行商人が広げた品物達を見て歩く。

 ナナはデーツを買ってもらえそうだと、ご機嫌でクククククッと喉を鳴らす。

 そして、ナナは首をヒョイヒョイさせながら、干した果物らしいモノを鼻先で『コレも欲しいの』と、アピールする。


 「えーと……干しあんずかな? ソレも欲しいのね………あら、もしかしてアーモンド? 殻付きなのね……」


 などと、言いながら、リアはお乳と交換してもらえそうな商品を確認して行く。


 んぅ~……コレは……カシューナッツかしらねぇ?

 あらあら…ドライとまとみたいなモノもあるわねぇ

 それにしても、そろそろグレンが来る頃だと思うんだけど………


 リアが小首を傾げているところに、グレンがクインに乗ったユナと共に来た。

 そのコトに直ぐに気付いたリアは、振り返って嬉しそうに言う。


 「ごめんねぇ~グレン…欲しいモノあるの……代金はナナのお乳が良いみたい……さっき、赤ちゃんの鳴き声したから……」


 リアの言葉で、自分で勝手に交渉しなかったコトを確認し、グレンは欲しいモノを聞く。


 「了解…それで、どの辺が欲しいモノなんだ? どうせ、ナナが食べたいって強請ったんだろ…リアの欲しいモノは選んだのか? ルリは? ユナも欲しいモノあるか?」


 グレンが来たコトで、リアは好奇心から、干した野菜と果物が欲しいコトを訴える。

 リアの欲しいモノを聞いた後、ルリへと視線を向ければ、興味ないと首を振る。

 それを確認し、ユナへと視線を向ければ、小首を傾げて言う。


 「ユナはねぇ~……穀類とお馬さん達のご飯になるモノかな?」


 ユナの言葉に頷いて、グレンは行商人に声を掛ける。


 「ソレとコレとコレが欲しい……そこの従魔のお乳、どのぐらい欲しいんだ?」


 グレンが行商人と交渉を始めたところで、リアはユナにマジクポーチにしまったお乳の壷を出すように指示する。

 ユナがマジックポーチからお乳の壷を出し終わったところで、ナナはクククククッと喉を鳴らしながら、別の行商人らしい者がお店を広げているところへと向かう。

 当然、リア達も売買をしているグレンを置いて、ナナの後を追い駆ける。

 






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