第128話グレンが二日酔いになってました



 「リアお姉ちゃん…朝だよぉ~……」


 可愛いユナの声に、リアは今まで観て居たモノを思い出して、ちょっと微妙な表情になってしまう。


 はぁ~…今更よねぇ~…いや…でも大衆娯楽的には、アレが王妃様のざまぁなのかもね

 きっと、暇を持て余していた時空神様の娯楽になってくれたコトでしょうね

 つーか…時系列的に、あれからほんのちょびっとしか進んでないんですけどぉ……


 これは、もしかして捧げ物が多かったコトに対する、ご褒美ってコトかしらねぇ?

 とは言え、何時でも盛大には出来ないから、また何処か落ち着けるところでかな

 今回は、あのもの凄い集団を蹴散らして、逃げきったコトに対するお祝いで、豪勢にしただけだもの


 リアは、寝落ちする前の、大量のサンドウルフの群れを充分引き離したコトで、苦難をまぬがれてハイになっていたコトを思い出して苦笑いする。

 そして、リアは自分を起こしてくれたユナにニッコリと笑って答える。


 「おはよう、ユナ…その…もうルリやグレンは起きているのかしら?」


 リアの問いに、ユナはニコニコしながら答える。


 「ルリお姉ちゃんはまだ寝ているよ…ほら…あそこで……」


 と、指さされた先では、本体を最小サイズにして、レオやグリ、子ウクダ三頭と一緒に丸まって眠って居た。


 「あらあら……ルリが珍しいわねぇ……やっと、安心して眠れるようになったのかしらね」


 ふふふふ………お腹に赤ちゃんが何頭もいるんだから、ああなって当然ね

 今日は、大街道を進むだけの予定だから、ゆっくり寝ていてもらった方が良いわね

 そう言えば、グレンてば、キンキンに冷えたエールを何杯も飲んでいたけど平気だったのかしら?


 自分が寝落ちする前、まだ冷やしたエールを片手にソーセージやピザを食べていたグレンを思い出して、ユナに聞く。


 「ルリがああなっているとなると……グレンは大丈夫だったのかしら?」


 素朴な疑問という感じで小首を傾げるリアに、ユナはクスクスと笑いながら言いつける。


 「グレンお兄ちゃんってば、蒼い顔して…青息吐息? っていうのかな? それでも、軍馬とシャドウハウンド達の様子を確認していたよぉ~……」


 面白いモノを見たという感じで言うユナに、リアは微苦笑を浮かべる。


 あははは………いや…そうなるよねぇ…もの凄く呑んでいたからねぇ………

 あれ? 二日酔い用の薬とか無かったっけ? 買い込んでなかったのかな?

 まぁ無いなら、私が解毒すれば良いかな……二日酔いも解毒で良いんだよね


 そう言えば…この世界での解毒の魔法ってどれなら良いのかしら?

 『デトックス』『アンチドート』『ポイゾナ』『キアリー』他にもあったわよねぇ

 治癒で『ヒール』を使っているんだから『デトックス』で良いのかしらね?


 リアはラノベ知識を思い出しつつ、ユナと一緒に馬車から降りる。

 と、蒼い顔で軍馬達の足回りを確認しているグレンが居た。

 シャドウハウンド達はぽっこりお腹で、思い思いに馬車に寄り添うようにして眠って居た。


 ただし、その体躯が巨大(一頭の大きさが最小でサラブレット並、リーダーはばん馬並)なだけに、足の踏み場がない状態だったりする。

 勿論、軍馬達もちょっと迷惑そうだった。

 そんな蒼い顔で脂汗を浮かべながらフラフラしているグレンを見て、リアはコキュッと喉を鳴らす。


 あらヤダ…蒼い顔しているグレンってば…なんか艶っぽくありません……じゃない

 確か二日酔いの原因て、お酒のアルコールが分解されたアセトアルデヒドだったよねぇ 

 ソレも毒と同じだから、解毒の魔法を掛けて上げなきゃ


 「グレン…おはよう…なんかつらそうね……はい…『デトックス』」


 軽い感じで、グレンが二日酔いを気にやまないように、体内を浄化し毒物を排出、又は、消去する解毒魔法を掛ける。

 と、グレンの全身が淡く光り、蒼褪めていた顔色が通常に戻り、目を白黒させていた。


 「えっ…リア…っ………えっ? えっ? うそっ…頭痛も吐き気も目眩も、全部消えている」


 びっくりしているグレンに、リアの方がびっくりする。


 えっ? もしかして、解毒の魔法って存在していないの?

 いや、大神官長様は、解毒の魔法使って居たわよね…ただ呪文は全然違うけど

 この世界にも、私以前に転生者とかいたような痕跡はあるんだけど…もしかして、無いの?


 ジャガイモに良く似た、ジャガジャガなんてモノもあるし………

 いや、でも…ソーセージは存在していなかったわねぇ

 まぁ…それもグレンに言わせると宗教的なモノ? で、禁忌扱いのようだったみたいだけど


 突然二日酔いの苦しみから解放されてびっくりしているグレンに、リアは近寄りながら言葉を掛ける。


 「大丈夫? 無理はしなくて良いのに………一応解毒魔法掛けたから、もう苦しさは無いと思うんだけど…どうかな?」


 リアの問いかけに、グレンはキラキラした瞳で振り返って言う。


 「凄いぞ、リア…二日酔いのツライものが全部、一瞬で消えたぞ…解毒魔法で治るモノだったんだな」


 その言葉に、リアは前世のラノベ知識がこちらの世界に無い場合もあるコトを改めて実感する。


 ラノベあるあるチートをした人、過去に居なかったのかしら?

 いや…でも…前世の世界に有ったモノと類似したモノ、結構あるわよねぇ

 王宮や学院でも、結構、前世で見知ったモノを使っていたもの………

 

 とは言え…追放前の記憶…結構どころじゃなく、おぼろげであやしいのよねぇ

 追放されて、まだ二週間も経って無い…せいぜいが十日を越えた程度だけど

 たぶんに、浄化の為の魔道具のセイなんでしょうねぇ


 追放された時は、もう呼吸も苦しいくらいだったからなぁ~…何を食べても、味がしなかったし

 あの頃は、思考力が低下なんてモンじゃなかったもの…惰性で仕事(押し付けられた)をしていただけだし

 婚約破棄に身分剥奪に、国外追放って言われて、魔道具を外された時…呆然としたわ


 もうなにが現実で、どれが夢かわからないほど、おかしくなっていたからねぇ

 正気になったのって、ひとり馬車の荷台でガタゴトと揺すられていた頃だし

 魔道具を正式な手続き無しにむしり取ってくれたから、気絶しちゃったのよねぇ


 だから、あの後に何が起こったか、この前観れて良かったなぁ~…って思ったっけ

 ほぉ~んと、ろくでもない魔道具ばかりだったわよねぇ

 自由意志や思考を奪っていたサークレットに、浄化を強制する首飾りなんて、最低


 なによりゾッとしたのは、エイダン王太子を恋焦がれるようになる耳飾りね

 あんな脳内お花畑のボンクラに、身を粉にして一生懸命に認めてもらおうと必死になって居たなんて……おおイヤだ


 両手首にも、両二の腕にも、瘴気や澱みを集める魔道具を着けられていたし

 腰にだっていくつもの飾り帯に似せた、浄化を強要する魔道具を嵌められていたし

 そう言えば、両足首に嵌められていたモノも外されていたわねぇ


 指輪なんて、ジャラジャラと見た目からして趣味を疑うほど身に付けさせられていたのよねぇ………

 あれら全部、そういう為の魔道具だっていうのにねぇ~……くすくす

 もしかしたら、私から奪ったあと、あのエイダン王太子の腕に縋りついていた彼女が嬉々として身に付けているかもしれないわねぇ


 悍ましい魔道具だって知らなければ、かなり高価なアクセサリーだものね

 浄化の器となる儀式を行わなければ、まぁ…実害は無いと思うけど…私の知ったこっちゃないしね


 それに、なにかで正気に戻って、仮に私が逃げても、追跡できるようにって、イアーカフまで着けられていたのよねぇ~……

 ほんと、今更ながらに、エイダン王太子がお花畑で良かったわぁ~……

 お陰で、私は自由の身になって、好きになった男性(ひと)と可愛いモフモフ達に囲まれて幸せよ……じゃなくて


 「ねぇ…グレン…素朴な質問だけど、二日酔いって、魔法で治したりしないの?」


 リアの問いかけに、グレンは肩を竦めて苦笑いしながら言う。


 「無い…正確には、無かったな……治療師に頼んでも、少し軽減するだけだったし、薬師が出してくれる薬は時間がかかった……こんな簡単に、綺麗さっぱりなんて初めてだよ…お陰で、気分爽快だよ」


 

 

 


 



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