第127話その頃のアゼリア王国 それぞれの未来? 王妃2



 義務と責任を放棄して享楽に耽り、鍛錬を嫌がって、セシリアに義務と責任を押し付けて以来、カケラも浄化をしなかった王妃は、重すぎる身体に、逃げるコトすら出来なかった。

 大神官長の手で首にチョーカーが着けられると、王妃の首にはガウェイ王に纏わり付く瘴気や穢れが集約し集まって行く。


 「一度は浄化の為の魔道具を着けて、浄化していたのですから、出来るはずですよ……ただ、義務と責任を放棄していたツケは、払わなければならないでしょうね……本当なら、私も肩代わりして差し上げたいが、私が倒れたらガウェイ王を癒せませんからね…ちゃんと浄化してくださいね」


 冷たい口調で王妃にそう言い放った大神官長は、再びガウェイ王に纏わり付く瘴気と穢れを祓いのけていた。

 当然、ガウェイ王から祓われた穢れと瘴気は、そういう処置がされたチョーカーへと集まっていく。


 ………グッ……苦しいっっ………ナゼっ…なぜっ…ワタクシが……こんな…目に…

 この役目は…セシリアのはずでしょ……その為の生贄の娘なのだから……

 嗚呼…セシリアから魔道具を外したのは…いったい…誰よ…


 いいえ…あの特殊な浄化の為の魔道具を外せるのは…王家の直系のみ

 だから、外せるのエイダンだけ………だからって…あの子が外すなんてありえない

 きっと誰かから……魔道具を外したら良いって…そそのかされたよ


 はぁ…憎い…どいつよっ…純粋なアタクシの可愛いエイダンを…そそのかしたのは

 残った神官達が、勝手に外した可能性は………たぶん…ないのでしょうね

 大神官長の…あの怒り具合を考えると…神官達からさえ…連絡が来て無いってコトよね


 それにしても…義務と責任…なら…果たしたでしょ……

 後継者である、エイダンだってちゃんと産んだのに、何が足りなかったっていうの?

 そりゃ…ガウェイ王や大神官長が…ワタクシに二人目を望んでいたのは知っていたわ


 でも…子供を産むのは…もの凄く大変だったのよ

 ……それに…それに…少しぐらいの贅沢したって良いじゃないの

 そう思って…何が悪いのって……そう思って生活していたのが悪かったの?


 それなのに、セシリアが背負っていたはずの浄化を、またワタクシにさせるの?

 このワタクシに……また、浄化しろと命令するの? もう終わったコトでしょ?

 えっ違うの? 次の生贄が来れば、その役目は終わりじゃなかつたの?


 もしかして、王妃としている間…ずっと浄化しなければいけなかったってコトなの?

 魔道具を外してくれたのは、次の子供を産ませる為だったってコトだったの?

 ワタクシが浄化する役目は、終わったってコトじゃなかったってコト……うそっ


 愕然とするワタクシを見据えて冷たい瞳で、大神官長のは告げる

 王を支える王妃として…ガウェイ王に集まる、瘴気を背負え…と

 あの冷酷な瞳…ずっと昔に見たコトがあったわ


 アレは…ワタクシが王家に嫁がされた日…あの時と同じ冷たい瞳の大神官長

 ワタクシを、浄化の為の器として、生贄として差し出した

 家族とも言えない…血の繋がった者達へと向けた凍るような視線と同じ


 きっと今のワタクシは…大神官長の瞳には…あの者達と同じに見えているというコトね

 セシリアに魔道具が移され…解放された嬉しさと…楽を覚えたコトで…余計にツライわ

 そして…ずっと…セシリアは…コレを背負っていた


 あの醜い娘…あの醜さがイヤで……その姿を見るのもイヤだった

 それに…エイダンには…優しく可愛い子を妃にと…いつしか思っていた

 だから、嫌った……視界に入るだけで汚らわしかったから……


 だって…もの凄く醜いんですもの…色も澱んで…あんなに墫のように太りきって…

 嗚呼…でも…それは…あの娘が、ひとりで三人分の浄化を背負ったセイ


 ワタクシは…そのコトを知っていたはずなのに、何もかえりみなかった

 そう…苦行から解放されたワタクシは…いつしか…そのコトを忘れ果てていた

 瘴気と穢れによって醜くなった…あの娘を毛嫌いし…虐げてイジメた


 その報いが…こんなカタチで…今になって…還ってくるなんて……

 嗚呼……記憶をたどれば…あの娘は…連れて来られた時は…確かに美しかった

 ただ…死んだような瞳をしていた…無表情で…言葉数も少なかった……


 大神官長は…よく、エイダンに言い聞かせていた『セシリア様を愛しなさい』と

 『貴方様から愛情を受ければ、それだけで浄化が楽になるのですよ』と

 何度も何度もエイダンに言い聞かせていた


 けれど、ガウェイ王の唯ひとりの子というコトで、我が儘放題に育ったあの子は聞かなかった

 瞳に意思の色も無く、表情も無く、無口に近いセシリアを毛嫌いした

 今にして思えば…セシリアの様子は、幼女としても、もの凄くおかしかった


 でも…肩代わりの…生贄の娘が来たコトを喜んで…そんなコト気付かなかった

 いや…きっと…気付きたくなかったのね…家族に捨てられた、ワタクシと同じだって

 ふふふふ…そう言えば…あれらは…あんなモノは家族じゃなかった…忘れていたわ


 だって…平気で、生贄の為にワタクシを作ったって言い放った男だもの…アレが父親だなんて…ね

 母親は母親で、愛妾でもなんでも…良い暮らしが出来れば良いという、自分だけが大事な女だったものね

 ああ…認めたくないけど…認めるしかないわね…ワタクシは…あの男と女の娘だと


 ワタクシは…ワタクシの今後を守ってくれるだろう、エイダンが可愛かっただけ

 だから、二人目を頑張って産もうなんて思いもしなかった

 だって…一人いれば十分だと思っていたのだから………


 本当は、何人も必要だって…ちょっと考えれば、理解りそうなコトだと言うのにね

 ガウェイ王の体調がよろしくないコトを知って…保身に走った結果がコレ

 ロマリス王国に行く間だけでも、セシリアから誰かに肩代わりさせていたら……


 そうは思っても、もう遅いのよね……誰を恨んでも…この立場は変わらない

 今から、ガウェイ王の子を身籠るコトは…たぶん、無いでしょうね

 孕みやすい…若く健康な娘を選んで子作りするのも…かなり危険なようだし


 そうなると、あとはエイダンに子作りをさせることになるでしょうね

 下手をすれば、このワタクシも…別の誰かの子を産むコトなるかもしれない

 今まで好き勝手をし過ぎたセイで、ガウェイ王は振り返らない


 大神官長は、粛々と瘴気や穢れを浄化する為の者(生贄)を選ぶでしょう

 そして、その中には、セシリアの家族もワタクシの家族も含まれている

 だって呟いた言葉を聞いたモノ…一人二人では足りない…大人数必要だって


 嗚呼…苦しい…呼吸もままならない…それでもワタクシはセシリアに命令していた

 優秀な成績を取れと…もっと浄化をしろと…ワタクシの決裁する書類もやらせて

 そのツケが、今大きくなって還って来たのね…もう、この苦行から逃れられないのね


 王妃は、重い身体をやっとの思いで、ガウェイ王の座るソファーの隣りのソファーへと座り込む。

 それでも、まだ迎えの馬車が来ないので、セシリアに押し付けて以来、一度もやっていなかった浄化の為の呪文を震える唇で唱えるのだった。


 自業自得としか言えない顛末に、滲む涙をこらえて、ひたすら浄化の為の呪文を唱えながら魔力を使う。

 背負う瘴気や穢れは、魔法ではほとんど浄化できない為、魔力を消費して清めて行くコトしか出来ないのだ。


 さながら、汚れた洗濯物を手で揉み洗いするかのように、瘴気や穢れを細分化して清めて行くのだ。

 王妃は、自分の背負ったモノがどれだけ重いモノか、この時になって、やっと理解したのだ。

 だが、得てして理解した時には、もう取り返しがつかないコトになっているのは、常のコトだった。

 





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