第124話サンドウルフは美味しくないらしい



 「無傷ってわけには行かなかったねぇ………取り敢えず、アタシが気付いた子達は、結界内になんとか入れたけど……取り囲まれて、かなり傷だらけになった子が何頭か居たね……いかに体格が良くても、数の暴力の前にはしょうがないコトだけどね………まぁ結界内に入れれば、リアが治せるから拾ってきたけどね」


 その言葉を聞いたリアは、覗き穴から結界内に居るシャドウハウンド達の様子と数を慌てて数え始める。


 うぅ~……二……三……四………五………こっちから見えるのは五頭ね……

 結構血塗れになっている子が多いけど、立てない子は居なそうね

 取り敢えず…『ヒール』………うん…大丈夫そうね


 まずは右側の確認をしたリアは、反対の左側にある覗き穴からシャドウハウンド達の数を数える。


 あれ……四頭しか居ない? 取り敢えずあの子達にも『ヒール』…よし


 無事に動き回るのを確認し、リアは後ろにある覗き穴から覗くと、血塗れの一頭が見えて、頬をヒクッとさせた後、冷静に冷静にと口中で唱えながら、癒しの魔法を使う。


 あの子は『ヒール』じゃ足りない……『エクストラヒール』……ホッ…大丈夫ね

 これで十頭……そうすると……あとの二頭は前かしら……

 確認しないとね……見たところ…リーダーの子は居なかったし


 リアは御者台のところの扉を開いて、グレンに声を掛ける。


 「グレン…前に二頭いるかしら?」


 リアの言葉に、振り返ったグレンが頷く。


 「ああ…ただ……二頭とも…かなりヤバイ……結界内になんとか入れたけど……」


 そういうグレンも、あちこちに齧られた痕跡が有り、全身が血塗れだった。

 リアが哀しむだろうと、無理矢理二頭を救い出して結界内に入ったコトは見て判った。


 『エクストラヒール』『エクストラヒール』『エクストラヒール』……よし

 っていうか……エクストラヒールって…欠損も治るのねぇ……

 それとも、私が使う魔法がみんなと違うのかしら?


 ラノベなんかだと、部位欠損は治らない設定とかあったけど

 想像力がモノをいう世界だから、抉り取られたところとかも治ったのかな?

 そうなると、怪我を癒す為に身体を構成するものを使うから、お腹空いているよねぇ


 とは言え、ここでご飯なんてゆっくりと食べていられる状態じゃないしね

 ここはやっぱり、姿見の中に回収しちゃうのがベストでしょ

 取り敢えず、シャドウハウンド達の回収ね


 リアはルリを振り返る。

 ルリはリアの考えを読み取り、しょうがないねぇ…という表情で、馬車側面のドアをがっぱりと広く開ける。


 その間にリアは腕輪型アイテムボックスに収納した姿見を取り出していた。


 「みんな…姿見にハウスッ………」


 一度姿見の中へと収納されたコトのあるシャドウハウンド達は、リアの意思をちゃんと読み取り、タタタタタッと広く開けられた馬車の中へと入り、そのまま姿見の中へと入って行く。


 「良い子ねぇ~…ここを切り抜けたら、ご飯にしょうねぇ~……それまで、中で休んでいてね」


 リアの言葉に、嬉しそうに尻尾を振りながら、十二頭全部が入った頃には、ルリは馬車のドアを閉めていた。


 「この馬車は色々と細工があるから便利だねぇ……その代わり、拡張はあまり掛けられてないようだね………せいぜいが本来の二倍くらいだからね」


 魔道具などにも見識が有るらしいルリの言葉に、リアは小首を傾げて言う。


 「うん…そうなのかも……右も左もわからないような私が困らないように、色々と『夢の翼』のみんなが用意してくれたんだ……一応、保存食らしいモノも入ってたけど…なんか美味しそうじゃなかったから…ユナのマジックポーチに入れてそのままになっているかな……たぶん、あまり料理とかしないんだと思う……香辛料とかあまり入ってなかったから………それでも、旅の必需品の塩とかはちゃんと入ってたけどね」


 そう言いながら、姿見を手首の腕輪型アイテムボックスに収納し、リアはグレンに声を掛ける。

 勿論、外を見て、魔法を打ち込んで直ぐに、討伐されたサンドウルフはちゃんと収納しているリアである。


 「グレン…用意は出来たかな? ちびっこはユナと一緒に姿見の中に居るよ…シャドウハウンド達も、全員姿見の中に回収したよ…勿論、ナナも回収したから、軍馬達を思い切り走らせてオーケーだよ………用意が出来ているなら、前にガンガンにファイア系の打ち込むよ……そのまま突っ込んでも、結界が効いているから行けるよ」


 リアの言葉に、グレンは力強く頷く。


 「ああ…大丈夫だ…何時でも行ける」


 グレンの言葉を聞いて、リアは頷いて言う。


 「なら……躊躇いなく行くからねぇ………」


 そう言い放った瞬間に、リアは攻撃魔法を使いまくる。

 飛ばされて、討伐した個体は、すかさず腕輪型アイテムボックスに収納しているので、大街道の上に横たわって、道を妨げるモノは居なかった。


 そんな中、まるで威嚇でもするようにひと際低い咆哮が響き渡るが、リアが軍馬達に身体強化などを何重にも掛けたので、居竦むことなく走り始める。

 最初は並足ていども無かった速さだが、リアが次々と障害になるサンドウルフ達を討伐して回収するので、もう安全と認識してじょじょにスピードを上げて行く。


 馬車が動き出したコトで、サンドウルフ達の後方から高みの見物をしていたひと際大きなサンドウルフがのっそりと身体を起こして、進路を邪魔しようとする。

 が、そんなモンに構う気が無いリアは、ファイアオールをサンドウルフのリーダーの進行方向に放ち、軍馬達の前に来れないようにする。


 「あのリーダーや群れの討伐は、そのうち誰かがするでしょう……流石に、あんなモノを相手するのは無理だわ……いや、ルリも居るし、シャドウハウンド達もいるけどね……はっきり言って面倒なのよね……だって、サンドウルフは魔獣で魔石も取れないし…毛皮なんてそんなにいらないし……肉だって食べられるものじゃないだろうしね……シャドウハウンド達だって、きっと飽きちゃうだろうしね」


 リアの言葉に、ルリはハフッと溜め息を吐きながら言う。


 「確かにね……昔…空腹すぎて…喰ったコトあるけどねぇ…サンドウルフは美味しいって思えなかったねぇ……腹が減って無ければ、食べたいモンじゃないね」


 ルリがちょっと遠い瞳で言う。


 あははは……やっぱり…美味しくなかったんだね

 ってか……ルリでもサンドウルフ食べるようなコトになったコトあるのね

 たぶん、子供の頃か親離れした頃のことかな? いや、聞かないけどね


 「でしょ……討伐した分は、一応回収したけどね……全部じゃないから、拾い損ねは共食いするんじゃないかしらね………ああいうのって、死ねば物体だし……だいぶお腹を空かせていたみたいだからね……って…しつこいっ……やだ、あのサンドウルフのリーダー…馬車を追い駆けて来てる」


 獲物だと思ったモノに逃げられたコトで怒ったらしいサンドウルフのリーダーは、馬車に追い縋る。

 が、相手にする気が無いリアは、軍馬達に更なる身体強化を掛け、馬車には重量軽減に風圧などの軽減をかけていく。


 グレンはそれに気付き、軍馬達に向かって思い切り走って良いという指示を出す。

 ご機嫌になった軍馬達はブルルっと小さくいなないた次の瞬間、更なる加速に入った。


 サンドウルフ達をあっという間に振り切り、リーダーも追撃を諦めたようで、強大な気配(リーダー)は遠くなる。


 「なんとかなったみたいね………それと…ありがとう…グレン……あの二頭を助けてくれて……」


 血塗れになってまで二頭を回収してきてくれたコトに、リアは改めてグレンにお礼を言う。


 「ああ……だって、あいつ等も、俺達の家族だろ……リアが大事なモノは…俺も大事だからさ…その…ご褒美にエールよろしく……」


 ちょっと素っ気なくいうグレンは、耳を赤くしながら、誤魔化すようにご褒美をねだるのだった。


 「勿論、期待してねグレン……今日は次の休憩できそうな場所にたどり付いたら、そこで野営しましょうね………結界も強化するから、みんなでゆっくりと休みましょう」


 「了解……んじゃ………張り切って、どこか良さそうなところを探すとするかな……その間、リアも休んでろよ……何発も魔法攻撃したんだからさ」


 「うん……それじゃ、後ろで休んでいるね」

 


 





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る