第123話数の暴力に立往生



 穏やかな時間というモノは、得てして破られるモノである。

 まさに、今がそれだったりする。


 リア達がまったりとした時間に揺蕩(たゆた)っていた時に、それは起きた。

 聞こえて来るのは、シャドウハウンド達の重なる唸り声と、争っている物音だった。


 物音によって覚醒したリアがガバッと起き上がっろうとしたところに、ルリは長い尻尾でソッとその身体を支える。

 リアは支えてくれたルリに感謝しつつも、まず先に御者をしているグレンへと声を掛ける。

 

 「……ハッ……グレンっ…何があったのっ………ルリ…ありがとう…助かるわ」


 脂肪が付きまくって思い身体を支えてもらったリアは、ルリにお礼を言いつつも、膝に縋って眠って居たユナの頭を撫でて言う。


 「ユナも起きたのね………って、あら…馬車が止まっているわね……もしかして、不味いのかしら?」


 リア同様、馬車が停止したコトに気付いたルリが言う。


 「アタシが外を確認してくるよ…シャドウハウンド達と何かが戦っているようだからね……加勢すればどうにでもなるだろうからね……ちょいと撫でて来るよ」


 リアに巻いていた長い尻尾をシュルリッと外して、一瞬で人型へと変じたルリは、すぐさま外へと出て行った。


 う~ん……まぁ…シャドウハウンド達がそうそう負けるとは思えないのよねぇ~………

 あとは、数かしらねぇ~……数って言えば、サンドウルフかしら?

 あれも集団で獲物を襲う魔獣だから困るのよねぇ~……


 ああそうだ…ちょっと覗き穴から見てみようかしらねぇ

 標的が定まって、見えているなら魔法も使えるし

 魔力も半分以上戻っているしね………ふふふふ………


 ソッと身体を起こし、脱いだ精霊のブーツを履きなおし、唇の前で指を立ててシーとユナに言って、リアは馬車の側面から外を見る為に開けられている覗き穴へと顔を近付ける。

 勿論、覗き穴には、透明な板が嵌め込まれ、外から覗けないように普段は覆いが付けられていたりする。


 リアはチョイッと覆いを避けて、穴を覗き込めば、大量のサンドウルフが群れていた。

 軽く五十頭ぐらいは居そうな大きな群れに襲われて、立往生してしまったらしいコトに気付き、リアはナナを探す。


 ヤダ…ちょっと想像していたより不味いかしら?

 数が多すぎじゃない……いくらシャドウハウンド達が居ても、これはキツイわね

 あの子(軍馬)達の足で駆け抜けられなかったってコトは、相当頭の良いリーダーがいるようね


 じゃなくて、それよりも今はナナよ…ナナは何処なのかしら?

 あの子って意外と強いみたいだけど、お母さんなのよ

 あの数だもの、もしもしがあったら絶対に困るのよ


 出来ればさっさとナナを回収して、馬車の中に乗せちゃいたいわ

 子供達は、安全の為に姿見の中に回収しましょう

 ユナには悪いけど、先に子供達と一緒に姿見の中に入って居てもらいましょう


 「ユナ…悪いけど、子供達と一緒に姿見の中に隠れていてくれる」


 そう言いながら、リアは腕輪型アイテムボックスに収納した姿見を出して言う。


 「うん…レオとグリと子ウクダちゃん達と入ってるね」


 言いたいコトはいっぱいあるだろうに、それを我慢して頷くユナに、リアはソッと手を伸ばして頭を撫でる。


 「ありがとう、ユナ……直ぐに、ナナも回収するわね」


 リアの言葉に頷き、ユナは姿見の中へと子供達と共に入って行く。


 ヨシ……これで、ユナと子供達は大丈夫ね

 あとは、ナナを回収して、左右の軍馬も前に繋いで四頭立てで駆け抜けるしかないわね

 それには、まずナナの回収ね


 リアは覗き穴からナナの位置を確認して呆れる。


 あらあら……ナナってば…参戦していたのね

 いや…シャドウハウンド達でさえ嫌がるんだものね

 それでも、数が多すぎるわね……もしかしなくても、五十頭じゃすまないかも


 そんなコトを思いながら、リアはナナが入れるぐらい扉をガバッと開いて呼ぶ。


 「ナナっ……入ってっ……」


 リアはウインドランスをサンドウルフの上に降らせながら、手招きする。

 リアの意図を察したナナは、素直にサンドウルフを足蹴にして馬車の中へと飛び込む。

 追い縋るサンドウルフ達は、馬車に張られた結界に阻まれて、ナナをとらえるコトは出来なかった。


 いかに防御に秀でた結界であろうとも、進行方向に障害となるサンドウルフがみっしりといては、いかな優秀な軍馬達だとて立往生してしまっていた。


 「リア…危ないコトをするでないっ……」


 サッと御者台側からルリが馬車の中に戻って来た頃には、ナナはさっさと姿見の中へと入っていた。

 それを腕輪型アイテムボックスに収納したリアは、にっこりと笑って言う。


 「もう…心配性ねぇ~…結界が張ってあるから大丈夫よ……でも、なんか異常ねぇ~…あんなに大きな群れってそうは無いと思うんだけど」


 リアの反省の無い言葉に、ルリは溜め息を吐いて言う。


 「小規模なスタンピードかねぇ……そうすると、ゴブリンやコボルトなんかも出て来るだろうし……オークなんかも居れば…そうだって断定できるんだけどねぇ……」


 「えっと……その言い方だと、今は居ないのね」


 「ああ…見たところ、サンドウルフだけの集団のようだから、どこからか追い出されたって可能性はあるねぇ……縄張りにワイバーンでも居着かれたのかねぇ……」


 「追い出されたって? そういうのあるの?」


 「たまにあるね……大概はワイバーンかねぇ……このアタシが出て暴れても…全然引く気なんか無いんだから…だいぶおかしくなっているようだねぇ………」


 そうよね、ルリって魔獣帝なのよね……なのに引かないって、確かにおかしいわ

 なるほど、正常な判断が出来なくなっている状態なのね

 たしかに…ある種のスタンピードね……困るんだけど


 ルリの言葉に、なるほどと思いつつ、リアはハッとして聞く。


 「グレンは?」


 リアの質問に、ルリは肩を竦めて言う。


 「一応、軍馬達を繋ぎなおしているのは見たから、四頭立てで、前に魔法でも打ち込んで無理矢理突破する気なんじゃないかねぇ………はぁ~……」


 やれやれという風情のルリに、リアはクスッと笑って言う。


 「なら、繋ぎ終わったら突破だね………魔法は私が打ちたいから、御者台の後ろから打つね………御者台には乗せてもらえないだろうから……で、シャドウハウンド達は大丈夫だった?」


 リアの質問に、ルリはちょっとすまなそうな表情になる。







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