第121話今の幸せ……
リアが馬車に乗ったところで、ユナも一緒に乗り、ルリは屋根にグレンは御者台で御者という形で、馬車は出発した。
ちなみに、古代遺跡で思い切り走った二頭も、中で休むよりも一緒に走りたい(ユナに訴えて、リアに伝えてもらった)というコトで、結局は馬車の左右でまったりと走っていた。
勿論、今馬車を曳く軍馬二頭も、機会が有ったら思い切り走りたい(やはりユナに訴えた)とのことで、リアは肩を竦めて頷いていた。
グレンは、大街道に出たら、頃合いを見計らって走らせてやるコトを約束していた。
ちなみに、シャドウハウンド達は、ご機嫌で馬車を中心としてダイヤ型の包囲陣で周囲を警戒しながら、楽しそうに走っていたりする。
やはり、どんな生き物も、外で自由には最高の待遇だったりする。
まして、リアは妙な服従命令など出さないので、ただただ楽しいだけだった。
ちなみに、食べたい獲物とか居たら、好きに捕まえに行って良いという許可も与えられていたりする。
リアに自覚はないが、世間一般で言う従魔のような扱いは一切していなかった。
幸いなコトに、錬金術師による改悪?改良?がされている為に、とても頭が良く、自己判断も高いコトは判明していた。
そして、リアを自分達の主人と決めて、嬉々として守っているのだ。
その光景は、はたから見れば、馬車を襲っているように見える光景だったが、リア達は誰もそのコトに気付いていなかった。
常識があると思われるグレンですら、既にシャドウハウンド達に囲まれているという状況に慣れてしまっていて、ついぞそのコトに気付くコトは無かった。
軽快に走る馬車と、楽しそうなシャドウハウンド達の中に、ナナもちゃっかりと混ざって走っていたりする。
ちなみに、シャドウハウンド達も、ナナの行動を邪魔したりはしない。
野生のウクダの怖さは、シャドウハウンド達にとってもかなりの脅威だった。
なにせ、ナナがクククククーッと鳴いて、一歩を踏み出せば、尻尾を股に挟んで後ずさりする程には怖いらしいのだ。
その姿を見たリアは、本当にウクダは怖い野生動物なのねぇ~…と、呑気に呟いていた。
だいぶ、グレンやルリという存在に慣れたナナは、威嚇をしなくなっていたのは確かな事実だった。
馬車を護るように走るシャドウハウンド達と、それに怯えも見せずにルンルンで走る軍馬達。
そこにちゃっかりと混じって、楽しそうに走るナナの姿を見て、グレンはフッと無意識に笑う。
本当に、リアは自分で籠の鳥だったって言うだけあって、世間知らずだよなぁ
クスクス………だいぶ、自分が太っているコトを気にしているようだが……
俺は、フコッとしているぐらいの方が好きだなぁ~………
ハチやアリみたいに、腰をギュッと搾っている女は気持ち悪いんだよなぁ
やたらと強烈な香水とかを付けて、ギラギラの宝飾品で飾って……ウエッ
思い出したら、吐き気が………はぁ~……ヤダヤダ……
グレンは、今の自分の恵まれまくっている境遇に感謝する。
まっ……奴隷堕ちしたから、もう王位争いなんてモンから脱落しているだろうしなぁ
今更、そういうモノに何にも魅力なんて感じない……ってか、元からいらないモノだし
ただ、あの頃は、死にたくないって思うだけで、何がしたいって言うのも無かった
リアに助け出され、あっさりとルリと交換された身体は元に戻るし
なにより、リア手ずからの料理が美味しいんだよなぁ~………
もしも、奴隷という身分から解放されたら、リアに婚姻を申し込みたいなぁ
今の俺は、何も持って無いから、そんなコトは言えないけど………
いや、このまま、リアの奴隷でずっと側に居るのも魅力的だよなぁ
俺は、リアのモノっていう響きが……所有される安心感がたまらない
リア達と居れば、不安も孤独も感じなくて良い
リアが俺に恋愛感情を持たなくても良い…家族愛で充分満たされる
そりゃ~…リアと思いを交わして……結婚出来たら最高だけどな
そんなコトを思いながら、グレンはチラリッと馬車の中へと視線を振る。
馬車の中では、リアがまた何らかの料理を作っているらしく、美味しそうな匂いが漂って来ていた。
「グレ~ン……味見してくれるぅ~………」
そう言う声と共に、リアが新しい料理を手に現われる。
「コレね……ピザって言うんだけどね………もっとチーズ乗せた方が良いかなぁ? カラアゲとか、照り焼きチキンを刻んだの乗せて焼いたモノなんだけど………」
木皿に何種類か乗せられた細長い三角形の美味しそうな匂いを振りまくピザに、グレンは喉がゴクリと鳴る
「へぇ~……ピザって言うのかぁ~……うん…美味しそうな匂いだな」
「うん……手綱もって無くても走ってくれるんだから、ちょっと手を綺麗にして食べましょう……はい『クリーン』……手づかみで食べるのよ」
そう言って、ひとつを摘まんで食べて見せるリアに、グレンは頷いて木皿に乗せられたピザを手にする。
そしてもそのままリアが食べたように、ピザにかぶりつく。
「うん…美味いな……チーズがイイ感じで溶けて……」
似たような食べ物はあるけど…リアが作るモノって本気で美味しいんだよなぁ~…
それに、毒とか媚薬とか、そういうモンを気にしないで、温かいモノを食べられる
後継者レースに乗せられている間には、味わえなかった幸せだ
ハメられたコトを恨む気持ちよりも、解放された嬉しさが勝る
そりゃ~…実験材料にされたあげくに、魔獣の姿で生餌は悍ましかったけど………
別に、性的な凌辱や虐待とかも受けてないからなぁ……恨む要素が少ないんだよな
グレンは、二つ目のピザに舌鼓をうちつつ、リアに問い掛ける。
「どうする、取り敢えず、マジでこのままモルガン国に行くか? あの国は、意外と交易で食料品とか色々と珍しいモノがあったはずだけど………あと、たまに遺跡の出土品で妙なモノが市場に出ていたりするんだ」
グレンの言葉に、リアはちょっと小首を傾げて言う。
「うん、グレンが平気なら行きたいなぁ~…新しい香辛料とか欲しいもの……チーズやヨーグルトはナナのお乳……あっ……次に休憩する時に、お乳を搾ってあげなきゃ……大丈夫かしら?」
リアの言葉に、グレンもすっかり忘れていたので、思わずナナへと視線を向けた。
途端に、ピンッときたらしいナナがタタッとすぐそばまで走って来て、首を伸ばす。
どうやら、木皿に乗ったピザを目敏く気付いたようだった。
グレンは木皿に乗る、まだ食べてない味のモノを奪われるくらいならと、半分以上食べたピザをナナの口元へと差し出す。
ナナはもらえるコトにラッキーという思いしかなく、パクッと拘りなくグレンの手から食べかけのピザをもらい、おとなしくさがって行く。
あとでまたもらおうと、おとなしく引き下がったのだ。
グレンはラストになったピザをもらい、モグモグしてから言う。
「なんか…エールが欲しくなるな……カラアゲやソーセージの時も思ったけど……」
奴隷の身分で、そういうモノは手が出ないと思いつつ、思わずそう口にしてしまったグレンに、リアが笑う。
「くすくす………ルリも似たようなコト言っていたわよ………今日の夕食には、エールも出そうか?」
「えっ? もしかして有るのか?」
確認するグレンに、リアは型を竦めて頷く。
「うん……私は呑まないけど……買っておいてくれたらしくて、エールもあるわよ……私は、ぶどう酒が好みだったから……いっぱい残っているのよねぇ……」
その言葉に、グレンは無意識に瞳をキラキラさせる。
「じゃぁ…夕飯にはエール欲しいな」
「くすくす………了解………と……そう言えば、このピザ…どうだった?」
「美味しいっ……ソーセージが乗ったのも食べたいな……あと、あと乗せでローストビーフが乗ったヤツとか……」
「ふふふふ………次の休憩までに、色々といっぱい作っておくわね」
そう言って、リアが馬車の中へと戻る後ろ姿に、グレンは今の幸せを噛み締める。
うん……この幸せは、絶対に手放せないな…リアの奴隷、最高だよ
嗚呼、ずっとずっと……リア達と旅をしたいなぁ~………
ときどき、遺跡とか『ダンジョン』で冒険したりして…
グレンは、リア達とずっとこのままで居られるコトをこころの中で祈るのだった。
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