第120話私の知識は穴だらけのようです



 リアとグレンの会話をきいていたルリは、所詮は魔獣なのでそういう意味で背負っているモノが無いので、ケロッと問い掛ける。


 「それで、結局、大街道に戻って、大国ゼフィランス帝国に向かうってコトで良いのかい? あの大街道を進むと、何処に出るんだい? アタシャ…この辺の出身じゃないからね、あまりくわしく無いんだよね」


 ルリの言葉に、そういう意味で地理が判っているグレンとリアが顔を見合わせる。


 「あの時、盗賊集団もどきのセイで、小街道に入らなくて、そのまま進んでいたら、大国ゼフィランス帝国の属国、リドリア国だったと思ったけど………違ったかしら?」


 リアの言葉に、グレンは首を振る。


 「その前に、モルガン国がある……あそこは三年前に属国になったはずだ………」


 そう言われて、リアは小首を傾げる。


 えぇ~と……そういう情報、無いんですけど(困)

 もしかしなくても、私の持っている情報って偏ってます?

 いや、そうですね…もしかしなくても、限られた情報だけだったってコトですね


 あの段階で、エイダン王太子が知っておかなければならない地理だったってコトですね

 ようするに、大国とか隣国とか、取り敢えず覚えておけって国しか情報が来てないのね

 そうなると、私の知識もだいぶあてにならないわねぇ~……はぁ~……


 困った表情を浮かべるリアに、グレンがこれ幸いと自分をアピールする。


 「あっ…ほら、その為の俺だろ……そういう知識は、俺が持っているから大丈夫だぞ…少なくとも、一昨年までの情報ならバッチリだ………去年はちょっと微妙かもしれないけどな………大きく変動していなければ大丈夫だ………それより、そろそろ出発しようぜ」


 グレンとしては、今の生活を絶対に手放したくないので、機会があれば逃さず、リアに自分の存在価値を提示していこうと心に決めているのだ。

 それでも、奴隷落ちした為に最新の情報が無いグレンは、リアの意識を馬車移動へと向けさせるコトにして有耶無耶にするのだった。


 一方、リアとしても、最新どころか必要な知識が欠けている事実を知り、愕然としていた。


 いや、そうよねぇ……本当は、時期が来たら王太子妃から解放して、女公爵にするつもりだったんだもの

 直接政務の指導を王様がしていたのだって、エイダン王太子に継がせる為だものね

 エイダン王太子の分の書類とか来ていたから、知っているつもりになっていたわ


 じゃなくて、今は移動ね……そうね、私にはグレンが居るもの

 もともと、馬車移動とかの手段や知識が欲しくて購入したんだから………

 それに、グレン自身が一緒に居てくれるって言ったしね


 気持ちを切り替えたリアは、いそいそと御者台へとあがる。


 「グレン、中にいるのも退屈だから、私も御者台に座るね……大丈夫、ちゃんと座っているわ」


 リアの言葉に、グレンはクスッと笑って頷く。


 「了解…ちゃんと座っていてくれよ…あと、フードはちゃんとかぶるコト…疲れたらすぐに馬車の中に戻るんだぞ」


 グレンからの返事に、リアは嬉しそうに笑う。


 「ルリはどうする? ユナも……シャドウハウンド達は出しっぱなしにするとして、ナナは? ちびちゃん達は、姿見の中に入れた方が良いのかしら?」


 馬車の回りで子ウクダ達と駆け回っていたレオがタタッと走り戻って来て訴える。


 「リア…ママぁ~…一緒に居たいよぉ……ずっと中に居たから…寂しいよぉ……」


 と、一生懸命に御者台に座ったリアの足元で、必死に立ち上がるようにして、レオは一緒に居たいと訴える。

 リアとしては、古代遺跡の探検もあって、姿見の中に入れていたコトにちょっと後ろめたさがあり、グレンを見る。


 「グレン、御者台で抱っこって不味いかなぁ?」


 そういうリアに、ルリが言う。


 「転げ落ちたら危ないから、馬車ン中で抱っこしてやりなよ……どうせ、馬車旅はしばらく続くんだからさ」


 「そうだよ、リアお姉ちゃん……思っているよりも疲れているかもだよ……何度も魔法だって使ったんだから……それに、グリだって抱っこして欲しいって訴えているよ」


 そう言うユナの腕には、グリが抱えられており、リアをうるうるの瞳で見上げていた。

 ある意味で、親に捨てられたグリにとっても、母親なリアだった。


 子供達のうるりん瞳に、リアの野望(グレンの隣りで景色などを満喫)はあえなく撃沈する。


 ちょっとだけ…グレンと並んで座って、御者台って会話しながら…は…無理かぁ……

 はぁ~……この世界を楽しむ為にも、周辺国とかの知識が欲しかったんだけど

 あんな瞳で見られたらかなわないわ……取り敢えず、今回は見送りね……残念


 「わかったわ……グリやレオが落ちちゃったら、シャレにならないもの………そうね、馬車の中でゆっくりするわ……グレン、あとで色々と教えてね」


 そう言って、リアは御者台から一度降りて、シャドウハウンド達のリーダーの頭を撫でて、馬車の警護と周辺の警戒をお願いする。

 シャドウハウンド達は、胸張りしてひと声ご機嫌でほえて、タタっと自分達で決めた位置へと散らばって行く。


 リアは自分の足元をグルグルして、抱っこをねだるレオを抱き上げる。


 「それじゃ、レオは私と馬車の中ね」


 そう言ってから、左腕に乗せるようにすると、レオはリアの左肩に前足をかけて、頭を乗せてゴロゴロとまるで猫のように喉をご機嫌で鳴らす。

 リアはふふふふと微笑って、ユナに向き直り、グリへと手を伸ばしながら言う。


 「さぁ…グリも、私と馬車の中ね……グリはレオの弟ですものね」


 そう言うリアに、ユナがグリを差し出す。

 リアは右腕にグリを抱っこする。

 兄弟として、分け隔てない愛情を与えるリアに、グレンは欲しかった憧憬の姿をこころ中で噛み締める。


 そんなこころ温まる光景を見たグレンは、ササッと馬車のタラップを出して、レオとグリを抱えたリアが馬車の中へと入りやすいようにするのだった。


 リアがママかぁ…だったら…俺は、パパになりたいなぁ……今は言えないけど


 グレンがちょっとした小さな野望を持ったコトを知らないリアは、グレンの心遣いににっこりと笑ってお礼を口にする。


 「ありがとう、グレン……流石に、両腕に抱っこしていると、安定感が微妙なのよねぇ……はぁ~……もう少し痩せれば、もっと楽になるかしらねぇ……」


 そんな何気ないリアの言葉に、グレンはフッと笑って言う。


 「支えてやるよ……ちゃんと二人を抱っこしてろよ………ちょっと足元ふらついてるから、腰に手を回すぞ」


 そう言って、グレンはさりげなくリアの腰にうでを回し、足元がおぼつかなくなって、動きがあやしいリアを支える。


 うわぁぁぁ~…うわぁぁぁ~……グレ~ン…は…恥ずかしいんですけどぉぉぉ~……

 こんな墫のお腹に…腕……ああ…もう…メンタルが崩壊しそうなんだけどぉぉぉ~……

 はぁ~…本当に…見掛けだけじゃなくて…性格もイッケメンなんだからぁぁぁ~……


 こうなったら、絶対に痩せてみせるわよっ

 グレンの隣りに立って、見劣り……は無理だから…みられるぐらいになるっ

 取り敢えず、一番近いモルガン国に到着するまでに、魔力切れを繰り返すわよっ


 こころの中で、リアは握りコブシを作って、盛大にそう誓うのだった。



 

  

 


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