第119話本音をぶちまけたら、ぶちまけられた



 リアは、シャドウハウンド達のリーダーが、強制的に古代遺跡の中へと呼び戻されたりしないコトを確認した後、残りの十一頭も出して頭を一頭ずつ撫でる。


 「本当に良い子ねぇ~…あとで、首輪を用意したら名前を付けてあげるわねぇ……だから、ちょっと考える時間をちょうだいねぇ……」


 全頭を撫で終わる頃には、馬車に二頭の軍馬がちゃんと繋がれていた。

 古代遺跡の中で頑張って走った二頭は、馬車の左右に一頭ずつ繋がれている。


 これから走るので、喉を潤す為に少量の水分を与えて、何時でも移動できる状態でグレンは待機していた。


 「さて、このままこの小街道を進んで行くか? それとも、砂山で通せんぼしたところに戻って、大街道を進むか?」


 グレンの問いかけに、リアはルリへと視線を向ける。


 「どっちが良いかなぁ? このまま進んでも、小規模な村すら無さそうだよねぇ……」


 リアの言葉と視線に、ルリも頷く。


 「ちょっとジャンボモアを狩るついでにその辺を見て来たけど、だいぶ廃れているからねぇ……進んでも、たいしたモノは無いだろうさ………それよりも、一度大きな都市に出て、もう少し旅の必需品を買い込んだ方が良さそうだよ」


 ルリの助言に頷き、リアはニッコリと笑って言う。


 「なら、最初に予定した通り、大国ゼフィランス帝国に行きましょう」


 宣言するリアに、グレンは覚悟を決めて言う。


 「リア、悪い…できれば、何か姿を変えるような魔道具とかないかな?」


 唐突にグレンがそう言えば、リアは小首を傾げる。


 あらら………もしかして、ラノベあるあるのパターンですか?

 皇帝陛下の御落胤? 皇弟の御落胤? 先帝の御落胤? のどれかだったりして?

 まぁ…一応聞いてみましょうか?


 「んぅ~……その色合いだからぁ…現帝か…皇弟が…先帝あたりの落とし胤とかだったりする? 確か、大国ゼフィランス帝国の血統って深紅の髪が多かったよねぇ……」


 と、小首を傾げ、何でもないコトのように言うリアに、緊張しきっていたグレンは、困惑を浮かべる。


 「あぁ~…その…どうして、そう思ったんだ? 結構粗野な口調だし……そういう系統に見えないと思うんだが………」


 いや、だって、一応、絵姿とかで、知っているしねぇ……結構似てるし…

 それもこれも、エイダン王太子がサボりまくるから、私に色々な資料きていたし

 ここは、どうせ私に敵対しそうな者なんて居ないし、私も言っちゃうかな


 「えぇ~とね……一応、大国ゼフィランス帝国の皇帝陛下周辺の絵姿見たことあるのよ………私も、そういう立場に居たんだけどねぇ……婚約破棄された上に、身分剥奪で国外追放を食らったのよねぇ~……それも、身に覚えの無い冤罪たっぷりでね」


 本当に、いやんなっちゃうわぁ~というポーズで、ケロリッとそういうリアに、グレンは思わずしゃがみ込む。


 お…俺の覚悟って………いや、リアもそうだったのか………じゃなくて……


 混乱が顔にばっちりと出ているグレンに、リアは溜め息を吐いて肩を竦める。


 「ちなみに、今の姿形は結構変わっているわよ……デ……ゲフンゲフン……ぽっちゃりは変わらないけどね………ある理由から、私はご飯を二倍以上食べさせられていたのよ………お陰で、この有様よ」


 砂漠に放り投げられた時に比べれば、それでも、だいぶ身体が軽くなったコトに感謝しつつ、リアはちょっと考える。


 もしかして、グレン、大国ゼフィランス帝国に行ったら帰っちゃうのかなぁ……

 今のグレンは、確かに私の奴隷だけど

 皇帝陛下の権力の前では、風前の灯ほどの拘束力しかないのよねぇ


 ちょっと…いや…かなり哀しいんだけど

 このまま、ずっと一緒に居たいけど………

 やっぱり、そうなると無理だよねぇ


 イベントの強制力とかって、この世界にもあるのかしら?

 いや、その前に、グレンの気持ちを聞いてみないと………

 それに、残念だけど、姿変えの魔道具なんてないものねぇ


 「えぇ~とぉ………グレンは、その…元の地位とかに返り咲きたい?」


 なんて聞いて良いか判らず、思わずリアは端的に問い掛けてしまう。


 「いや、それ…勘弁して……俺は、今の方が幸せだから……リアと一緒に、このまま旅をしたいのが本音だよ……ものごころ付いた頃から、何時も命の危険を感じて生きて来たから…もう…あんな生活には戻りたくないよ」


 遠い瞳をして、グレンは在りし日の殺伐とした空虚な生活を思い出して、首を振る。


 「それじゃ…今のままで良いの? 私としては、とても嬉しいけど……ずぅ~と、籠の鳥で、イジメまで受けていたから…私も戻りたいなんて思わないんだよねぇ………記憶には無いんだけど…どうも私には、私を追放した婚約者とは別に、幼少期に婚約者か、婚約者予定の人が居たようなんだよねぇ………」


 リアの言葉に、グレンがヒクッと頬を引き攣らせる。


 「リアには、婚約者が居たのか? って、婚約破棄って簡単にして良いモノじゃないだろう……じゃない……記憶に無いって?」


 グレンの質問に、リアは時空神様のコトは告げずに、肩を竦めて言う。


 「私にとっては、御祖父ちゃんになるのかな? お母さんが、アゼリア王国の公爵家の当主の婚外子だったみたいなの……御祖母ちゃんが、ほだされちゃったらしくてね…で、御祖父ちゃんが他国の高位貴族のところに逃がしたんだけど…本妻の娘が欲長けていてね、御祖母ちゃんやお母さんに、御祖父ちゃんが私的な財産をあげたコトが許せなくて……実の父親なのに、毒殺して女公爵になったのよ…公爵家の財産はちゃんと継がせたのにね……その上で逆恨みして、私の御祖母ちゃんとお母さんを殺して、私を浄化の生贄にしたの……その時には、ほとんど記憶を失っていてね……今、私が、私の本当の父親の血統の者に見付かると、下手すっと戦争になっちゃうのよねぇ……ただ、幼少期だったし、記憶が無くなっちゃっているから、何処の国か判らないのが問題なのよ……だから、早く遠くに行きたいって思っていたのよねぇ………なのに、グレンも探す者が居るっていうのはキツイわね」


 一気にそう言われて、グレンは焦る。


 「えっと…俺のコト捨てないよな……面倒はイヤとかって……俺は、リアの奴隷のままで居たいから……だから、その姿を隠したいんだ」


 あわあわするグレンの姿に、リアはクスッと笑う。


 「私は、グレンに側に居て欲しいから、私から、グレンを捨てるってコトは絶対にないよ………私が、グレンに捨てられるコトはあってもね」


 リアの言葉に、グレンは喜色を浮かべて言う。


 「俺だって、リアから離れるつもり無いぞ………いざとなったら、リアを抱えて逃げてやるっ……それに、こっちには、ルリもユナも居るし……強力なナナに、シャドウハウンド達も居るからな………脚が強い軍馬達だって居るから、逃げ切ってやる………あんな生きているか死んでいるか判らない生活になんて、二度と御免だ」


 かなり本音で言うグレンに、リアは嬉しそうに笑うだけだった。

 









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