第113話壁の向こう側は………



 ナナがガリガリした壁の裏に空間があるコトが確定したので、リアはちょっと小首を傾げてから、その壁に、思い付きで通行許可証をペタッと貼り付けてみた。


 こういうのって、以外な方法で稼働したりするのよねぇ

 ただあてただけだと、稼働した感触ないわねぇ

 そうなると、魔力を流してみれば良いのかしらねぇ?


 ものは試しと、リアは通行許可証に魔力を流し込んで見た。

 その間、ルリ達は黙って周囲を警戒しながら、リアの様子を窺っていた。

 時間にして十分ほど魔力を流して、反応しないので諦めて通行許可証を壁から剥がした途端に、シュッという音ともに壁が消えて、そこにポッカリとした空間を開いた。


 「えっとぉ……もしかして、当たりだったみたい? 取り敢えず、中に入って見る?」


 無謀なコトをするとユナやルリ、グレンも心配するので、取り敢えず振り返って聞く。

 それまでジッと側でおとなしくしていたナナが、ヒョイッと開いた空間に顔だけを突っ込み、スッと戻して首を傾げていた。


 「ふむ……中は大丈夫そうかいナナ?」


 ルリが聞けば、ナナはコクコクと頷いて、トテトテと気負うコトもなく進んで行く。

 ナナが進むので、必然的にその後にリアは付いて行く。

 ちなみに、シャドウハウンド達を連れて行くと決めたリアは、姿見の中に十二頭全部入れてしまっていたりする。


 リアは前世で遊んだゲームの中に、所定場所から移動できない魔獣や聖獣などが居たコトを思い出し、自分達を警護しようとするシャドウハウンド達を宥めすかして、姿見の中に収納していたりする。


 さてさて、真っ暗な空間には、何があるのかなぁ?

 ナナの頭上に浮かべた『ライト』の光度を上げて、視界を確保する。


 「ふわぁ~……リアお姉ちゃん……なんか…円柱形の中に浮いてるぅ………」


 そう、ユナの言葉の通り、そこは何処か実験の為の研究室のような見た目のかなり広い空間だった。

 そこには、ズラリと円柱形の見た目が培養槽のようなモノが並んでいた。


 う~ん…なんだろう…どこのSFっていう感じねぇ………

 いや、でも…奥にあった古代遺跡って、錬金術師系の都市っぽそうだったしねぇ

 となると、ここで培養ポッド? に、入っているのって、ガーディアンか何かかな?


 リアは警戒しながら、培養ポッドの中を覗き込む。


 あっ…半分くらいは、培養液も入ってない空だわ

 う~ん…見た目はエルフっぽい人型なのねぇ

 ただし、尻尾とか耳とか角や翼まで付いてるのが居るけど


 ここって、どういうところなのかしら?

 壁面には大きな水晶がいくつも嵌め込まれているけど

 もしかして、ここも魔力を何処かから流せば良いのかしら?


 リアはキョロキョロと周囲を見回す。


 「リア、何か探しているのか?」


 グレンが問い掛ければ、リアはちょっと悩んでから自分の考えを口にする。


 「もしかして、ここって古代遺跡の治安とかを司る為の場所かなぁ? って、思ってねぇ……『ライト』を浮かべているけど、何処かに魔力を流せば、灯かりとか点いてもっと見やすくなるかもって思ったのよねぇ………」


 『ライト』で周囲を照らしては居るが、どうせならちゃんと規模や内容を確認したいリアは、自分達が入って来た場所を振り返り、壁に手を滑らせてそれらしいモノを探す。


 こう、このちょっとした研究室みたいな空間を家にたとえたら………

 部屋に入って、わりと直ぐのところに、灯かりのスイッチとかあるハズなのよねぇ

 何か突起とか掌ぐらいの水晶みたいなのないかなぁ?


 そんなコトを考えてペタペタと壁を探れば、周囲を警戒し首を何度も傾げていたナナがリアの隣りに来て、入って来たところより左側に移動し、ヒョイッと立ち上がって、前足で壁を叩く。


 リアの頭上五十センチくらい辺りで、前足をパンパンと壁に叩き付けると、仄かに周囲が明るくなるがそれ以上は光度は上がらなかった。


 なんかなぁ……まるで切れかけた室内ライトみたいな………って

 もしかして、やっぱり魔力が足りなくて停止していたの?

 だったら、さっきナナか叩いた辺り………うん、ギリギリ届くわね


 足元から二メートルぐらいの辺りに背伸びしながら、両手をあてて魔力を込める。

 と、次第に視界がクリアになり、その空間の姿を表わす。


 はぁ~……小規模な監視システムってところかしら?

 つーと…培養ポッドの中はガーディアンかしらね?

 どっちにしても、もうちょっと魔力を込めておきましょう


 リアは、グレン達が黙っているのを良いことに、掌に反発を感じるまで魔力を流してみた。

 時間にしてやはり十分ぐらい込めた辺りで、それ以上は入らないという反発を感じ、魔力を流すのを止める。


 う~ん………空間としては二十畳ぐらいかしらねぇ?

 ズラッと並んだ培養ポッドの中の変異エルフのようなモノは、まだ見るからに成長途中のような状態だった。


 その中のひとつに、他のモノと違うスライムのようなモノが居た。


 あら…コレだけは、稼働していたのかしら?

 見た目からして、どう見てもスライムよねぇ………

 あっ…もしかして、施設のお掃除係りだったりして………


 ジーっと見ていたら、勝手に第三の瞳が開いたらしくて、内容が浮かぶ。


*スライム(錬金術師によって創造された特種体)

 遺跡の掃除の為に調合された個体

 ちゃんと育てれば、マスターとなった者と意思疎通ができるようになる

 なんでも溶解して取り込む

 魔石を食べさせると、その能力を取り込むコトがある


 その表示に、リアはかなりワクテカする。


 うふふふ………これで、おトイレとかが楽になるわ

 まさか、こんなところで、欲しいモノに当たるなんてラッキーだわ

 流石に、いくら隠蔽とか使えても、人がいるところでするのはきついのよ


 前世を思い出す前だったら、そこまで羞恥心を感じなかったけどねぇ………

 なんであれ、一応王太子の妃予定だったから、身の回りの世話をする者いたのよねぇ

 ただ、前世を思い出してからは、羞恥プレーっぽくてつらかったのよねぇ


 いや、ルリやグレンに警護してもらいながら、外で用を足すのってきつかったもん

 だからって、食べているから出すしかないし……はぁ~……

 でも、これで一気に解決になるわね


 そんなコトを考えながら、リアは何気なく周囲を見回す。

 そして、空になっている培養ポッドの元の中身の大半はスライムだったコトを知る。


 あははは………ここで誕生して、遺跡に向かうみたいね

 他は、やっぱりこの古代遺跡のガーディアンらしいわね

 そして、かなりの時間、空間封鎖されていたみたい………


 改めて周囲を見回し、なんとなく自分の手を見れば、ザザーっと自分の詳細が判明する。


 うっ……うっさいわっ………って、あれ? やったっ…体重が減ってるぅ……

 称号とか、今のところへんなモノは増えてないわね…ホッ

 それにしても、体重が111キロって……喜んで良いのかなぁ?


 もっとガツッと減ってくれれば良いのになぁ……って、無理か…はぁ~……

 いや、ある意味でかなり減ったのかな?

 もっと小まめに魔法を使って、余分な脂肪を減らさないとね





 



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