第112話今回は諦めます
危険地帯から全力で離脱した軍馬二頭は、フルスピードを出して走ったことでもの凄く上機嫌に尻尾をふりふり、今は並足で走っていた。
リアの希望で、ほぼ並足以下で馬車を曳いていたので、フラストレーションが溜まっていたらしい。
元が軍馬なだけに、四頭は酷使に耐えられるようにと厳しい訓練を受けて来た。
それだけに、普通の冒険者の馬車曳き馬として程度では、物足りなかったのだ。
ある意味で、命が掛かったひりつくような緊張感の中での全力疾走は、快感ですらあったようだ。
そう、敵から逃げ切った時の解放感に、もの凄くご機嫌状態だった。
ちなみに、リア達は知らないコトだが、この四頭はもの凄く優秀な血筋に、有り余る才能を持った軍馬達だった。
そういう馬だけに、飼い主や世話係りなどが気に食わないと、手入れをさせないのだ。
それどころか、用意したエサや水などを蹴とばし、一切を断固拒否と貫き、餓死も厭わないという頑固モノだったりする。
そんな四頭は、直ぐにでも旅立ちたいというリアの為に『夢の翼』が馬車と馬車曳き馬を探してうろうろしている時に、ちゃっかりとアピールしたのだ。
そう、リアが自分達の主人に相応しいと判断した途端、トトトトッと『夢の翼』の前に出で、俺達を買えと猛アピールしたのだ。
ほとほと手を焼いていた売主(借金の返済分だと、無理矢理貸した貴族に押し付けられた)は、これ幸いと、一応血統書付きの軍馬としての普通の値段で、四頭をさっさと売り払った。
勿論、馬車も軍馬達が曳いて大丈夫な、ガッチリしたのを探し出して、提供したコトは言うまでもない。
ただ、残念なコトに軍馬が荒々しく曳く力に耐えられる馬車が、その時には、二頭曳きしかなかったのは御愛嬌である。
なお最初は、四頭曳きの馬車にしようとしたが、別の替え馬用の馬を用意しようとすると嫌がって馬達をイジメるので、二頭曳きの馬車になったの揉む確かな事実だった。
だから、二頭は替え馬という設定で四頭と馬車を売りつけた途端に、売主はさっさと別のところで借りた借金を返済に走ったという経緯が在ったりする。
ちなみに、根性がもの凄く悪いという風評のセイで、自分の騎馬として買いたいという人物は現われなかった。
タライ回しされる前に、何度も将軍職に着くような者ですら振り落として踏みつけ、蹴っ飛ばすを繰り返した結果だったりする。
だから、元の身体に戻ったグレンは、売買証明書とともに、付けられた四頭の軍馬の血統書を見て、首を傾げたのである。
この軍馬達って、あの四頭なのか?本当に?と。
余談だが、グレンの血統にも、四頭の犠牲者が居たりする。
そんな四頭の軍馬はリアに懐きまくり、グレンの指示にも逆らうことなく素直に従うのだ。
尻尾をふりふり、ご機嫌で走る二頭を見ながら、リアがグレンに言う。
一応、あのコモドオオトカゲもどき達は作った壁を越えられなかったのかな?
追い駆けて来た気配はないけど………もの凄く早く走ってくれたのよねぇ
安全そうなら、そろそろ姿見の中の軍馬達と交換した方が良くないかしら?
軍馬達のコトを一切知らないリアは、二頭を心配してグレンに声をかける。
「ねぇグレン……姿見の中に居れた子達と、何時交換したら良いのかしら?」
リアの言葉に、グレンは馬車を嬉々として曳いている二頭を見て首を傾げる。
「う~ん……まだ大丈夫だと思うぞ……っていうか、こいつらは軍馬だからな、さっきの全力疾走はだいぶ楽しかっただけみたいだから、もうしばらくこのままにした方が良いな」
「そういうもの?」
前世の馬っていうと競馬用の馬と、ばん馬ぐらいしか知らないからなぁ
まぁ…脚なんかもの凄く太いし、あのばん馬よりも更にふた回り以上大きいのよねぇ
似たようなモノの形や名前が多いけど、性能がだいぶ違うモノも多いのよねぇ
「ああ……見て判るとは思うけど、機嫌が良いから尻尾振りながら走っているだろう……それに、いざって時に、交換できるように、姿見の中の二頭は、このまま充分に休ませて置けばいいさ」
グレンの答えに、リアはそういうモノなんだと納得して、頷く。
「そっか……っと、だいぶ戻って来たね……行きは確認しながらだったから、結構時間かかったのに、あっという間だねぇ……」
そうリアが感慨深く呟く頃、馬車の屋根で周囲の確認をしていたルリが言う。
「リア、一応警戒しときな……ここから、最初に襲われたシャドウハウンド達が居たところだよ」
「うん…取り敢えず、犬笛は用意しとくね」
石柱の間を越えれば、追い縋って来た最初のシャドウハウンド達に出合うかと思ったが、結局、姿を表わすコトは無かった。
そして、入って来た洞窟の近くに居るかと思われた、直立ワニの姿は無かった。
リアは馬車を停め、軍馬も馬車も姿見と腕輪型アイテムボックスに収納して宣言する。
「ここの古代遺跡に未練はあるけど、今の私達に攻略は無理そうだから……外に出ましょう」
はぁ~……昔やったドラ〇エの取れなかった宝箱な気分ね
思い返せば、一番最初に楽しんだのってアレだったわねぇ~……
ちまちまと薬草とか探して………フフフフ…嗚呼…懐かしいわねぇ
そうそう、他人の家に入って薬草とか見付けるの…ないわぁ~って思ったっけ
まぁ~…ゲームの中のコトってことで誰も気にしなかったようだけど
そう言えば、乙女ゲームとかでも、前世の記憶持ちが居る設定あったわね
ストーリーの通りに進むはずって、色々とやらかすのが多かったかしらねぇ?
あの頃、そういうのがやたらと流行っていたけど、自分がその立場になるとはねぇ
いや、本当に、人生何があるかわからないモノねぇ………
待っていれば直立ワニさんに会えるかもと思い、緊急離脱したコトもあって、少し休憩をしてから、ササッと装備の点検をしたが、出合うコトは無かった。
リアとしては、片言でも話しをしたいと思ったが、居ないモノはしょうがないと諦めて、全員に魔法耐性を込めた防護と物理耐性を込めた防護をかけ、来た時同様に歩いて洞窟へと入る。
ただし、今回はナナが姿見に戻るコトをもの凄く嫌がったので、一緒に歩いていたりする。
意気揚々と、先頭を歩くので、リアは困ったなぁ~という表情をしてから、安全の為にライトを唱えて、光玉をナナの頭上に浮かべてやっていた。
ルンルンで尻尾を振り、先頭を歩くナナは、洞窟の途中で止まり、壁を前足でガリガリする。
「あら…また、何か見付けたのかしら? ナナって色々なモノを見付ける天才よねぇ」
と、言いながら、リアはナナがガリガリした壁を確認する。
「う~ん?」
見てもわからないリアは首を傾げる。
ナナに近寄ると臭いツバを飛ばされたりするので、ちょっと離れていたグレンとルリがリアに近寄って聞く。
「どうしたんだい、リア?」
代表でルリが問いかけて来たので、リアはナナがガリガリした壁を指さして首を傾げる。
「たぶん、何かあるんだろうけど、私には判らないのよねぇ……」
リアの指さしたところを、ルリはコブシを作ってトントンと叩いて確認する。
「…ふむ……この音……なるほど、この後ろに空洞があるね……結構大きな空洞だよ」
ルリの言葉に、ナナが胸張りでフフフンっと鳴いて見せる。
どうやら、ルリの言葉が正解のようね
古代遺跡の中は確認できなくて残念だったけど、洞窟の中にも秘密があるのね
クスクス………何があるのかしらねぇ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます