第105話振り返りたくない過去にドツボ



 視界から色々と詳細な文章が消えたので、リアは改めて思考する。


 もしかして、額に張り付いた第三の瞳って開けたり閉めたりできるってコト?

 外見、どうなっているのかしら? 第三の瞳があるように見えるのかしら?


 それとも、綺麗さっぱりと何もない、普通の額にもどっているのかしら?

 はぁ~………まさか、こういう展開になると思って無かったわぁ


 ひとつ溜め息をついて、リアは一番言葉を飾らずに、そのままを言ってくれるルリへと視線を向けて言う。


 「ルリ、私の額ってどうなっているのかしら? 第三の瞳が見えている状態? それとも、瞳は閉じていて、第三の瞳があると判る状態? じゃなきゃ、何にも無い、普通の額?」


 リアの問いかけに、叫んだコトはスルーして、ルリはさっぱりと言う。


 「それなら、見た目は普通の額に戻ったよ………瞳が閉じたら、スゥーと皮膚に走った亀裂も消えたよ………第三の瞳は、リアの額の中へと消えているね」


 ふむ、取り敢えず、第三の瞳は、他者から見て、存在が判らないのね

 あとは、どういう風に私の額に居るかね?

 もう、額に埋まっちゃって、三つ目状態はしょうがないけど


 だって、自分で抉り出すなんて、絶対に無理だし

 ルリやグレンに、そんなコト頼みたくないし………痛いのも怖いのもイヤだもの

 それに、元は龍帝陛下の第三の瞳だつたモノだから、悪いモノじゃないしねぇ


 その証拠に、防護魔法にかすりもしなかったもの

 魔法に物理にって掛けたのに……うん、まだちゃんと掛かっているわ

 ま~…そういうコトって…納得して考えるの止めてこう


 ただ、双眸と同じように平行に植わていたらイヤだなぁ~…

 ほら、そう言うのって、なんか妖怪みたいな感じするからさぁ……

 できるなら、見た目として縦の状態で植わっていて欲しいわぁ


 それなら、慧眼(けいがん)だったっけか?

 仏教用語で、エゲンとか言ってたし、良いモノっぽいしねぇ…

 いや、実際に良いモノですよ、龍帝陛下の第三の瞳ですからね


 モノの真実を見抜く力とかいうならソレっぽいし………じゃないわ

 いくっら、慧眼(けいがん)だからって、あんな記載はいらなくない?

 そりゃ~…色々なモノを見抜く力があるのは、もの凄く役に立つから嬉しいけどねぇ…


 アレは無いよ………グッスン(号泣)

 しかも、現在どころかマックス時の体重まで判っても嬉しくないよ(滂沱の涙)

 まぁ…治癒魔法とか火力が強い魔法を使うと、痩せられるみたいだけどね


 つーか、私ってば、マックス時150キロもあったのねぇ……はぁ~……

 どうりでねぇ~…平常時でさえ、呼吸すらも苦しかったわけだわ

 改めて、私ってばマジもんで限界だったのねぇ~……


 それもこれも、極振り肥満の原因なんて一目瞭然なモンだったのよねぇ

 質より量の日常ご飯と、浄化の為に上質なモノを食べていた結果がコレなのよねぇ

 それも、どちらもお残しはダメってコトで、全部食べていたからだし


 他にも、カロリーお化けなお茶菓子を十時に三時に食べて、夜食まで追加していたし

 睡眠時間はかなり削られて、平均二時間ぐらいだったし

 仮眠を足したって、三時間にも満たないのが日常化していたのよねぇ


 今更ながらに、我ながら、よくもまぁ~生きていたわねぇ………はぁ~…

 まぁ~…常に、大神官長様や神官様達から、色々な補助魔法掛けられていたけどね

 睡眠が足りていないコトで、妙にお腹がすいちゃって……


 って、コレって典型的な過食症の症状なのよねぇ………

 睡眠不足その他諸々のストレス解消に、甘味を舌が欲しがって………

 そりゃ~……どんどん、ブクブクと肥え太るよねぇ~……


 人一倍どころが三倍近く食べている上に、極度のストレスで過食症だもの

 ここ数年は、エイダン王太子が本来決済しなきゃならない書類は全部私がしていたし

 最近じゃ、王妃様がしなきゃならない書類も回って来ていたもんねぇ………


 余分な運動なんてする暇なく、浄化の為のお祈りと書類作成と整理に追われていたから

 本当に、何処のブラック企業の繁忙期ってぐらいには、何時も忙しかったのよねぇ

 なのに、学園にもちゃんと出席しろって、王妃様に命令されていたしね


 エイダン王太子の隣りに立つのに恥ずかしくない成績etc.を維持しろって命令するし

 その当のエイダン王太子の成績がふるわないと、私が悪いと罵詈雑言

 あげく、機嫌が悪いと理由を付けて、ムチで背中とか手足の見えないところ叩かれたし


 思い出すと、ドヨンとしたモノが弱ったこころを覆うので、リアは極力そういうコトに思考が行かないようにしていた。

 が、たまにそういう方向に思考が落ちいると、際限なく奈落にまで陥ってしまうのだ。


 うん? ああ…良い香りぃ~……こころが落ち着く……って、ああ…ユナね

 ふふふふ………ユナの淹れてくれるハーブティーって美味しいのよねぇ………

 きっと、本能的に知っているモノで用意してくれているのねぇ……


 そんな中、ユナがハーブティーを用意してくれたコトに気付き、リアはあっさりと浮上する。


 「リアお姉ちゃん…ハーブティー淹れたけど飲めそう?」


 ユナの言葉に、こころの中でブチブチと文句をたれている間に、身体の調子が何時の間にか戻っているコトに気付いて、リアは頷く。


 「うん、ありがとうユナ……ちょっと待って、今身体を起こすわ」


 そう言って、何時もよりかなり重く感じる身体に溜め息を吐きながら上半身を起こす。

 勿論、ルリが介助し、グレンが大きなクッションを背中に入れて支えてくれる。

 その様子を見計らって、ユナがハーブティーのカップを差し出す。


 リアはそのカップを受け取り、少しフーフーしてからゆっくりとハーブティーを飲む。


 「はぁ~……癒されるわぁ~……まいったわぁ~……ここに勝手に居着いた第三の瞳って、なんか色々と視えるんで困ったわよ………ああ、ルリって魔獣帝って書かれていたけど? それって何?」


 何気なく聞けば、ルリはあっさりと答える。


 「おや? アタシが魔獣帝かい? この胎の子達の父親が魔獣帝だったんだけどねぇ……胎に居るのがわかって直ぐくらいに、輪廻の輪に入っているんだよね………まだ、東にも北にも、受け継ぐヤツいると思ったんだけどねぇ…西と南はちょい若いから選ばれないのは当たり前なんだけど………つまるところ、魔獣帝ってヤツは、現時点での魔獣の中での頂点ってコトさね……いや、しかし、アタシに来るとはねぇ……これは、リアが主になったからだね」


 妙な感慨を込めて呟くルリに、リアは頭痛を覚えた。


 ちょっと待ってよ……そうすると、ルリが全魔獣の頂点ってコト?

 いや、ひとのコト言えないけど、規格外ってヤツ

 はぁ~……まぁ…考えてもしょうがないか……ここはポイッとしとこ


 「ユナぁ~……もう一杯くれる……喉が乾いていたみたい」


 そう言いながら、リアはユナに飲み終わったカップを差し出す。


 「はぁ~い」


 カップを受け取ったユナは、リアにハーブティーを注いで差し出す。


 「うん、ありがとう」


 程よい温度で来たので、リアはコクコクと飲んでから言う。


 「はぁ~………ちょっとトラブったけど、私の身体も大丈夫そうだから、さっさと先に進もう………んでもって、必要ならバンバン魔法使うわよぉ…そして、痩せてやる」


 握りコブシをして宣言するリアに、ルリとグレンはなんとも言えない温い微笑みを浮かべつつただ頷くだけだった。



 




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