第96話魔力枯渇は大変らしい



 セシリアが、魔法の革袋の中から犬笛と鍵の束と通行許可証を取り出したのを見て、びっくりして声も無い3人は、お互いの視線を交わして頷く。

 そして、セシリアに向かって、ルリがまず聞いた。


 「リア、それはどうしたんだい? 魔法の革袋の中に入っていたモノを、どうやって取り出せたんだい?」


 その言葉から、やはり他人が、他の人の使っていた魔法の革袋の中身を取り出せるコトは珍しいコトのようだと感じる。


 う~ん……語彙が思うように浮かばないから…まんま答えた方が良いよね

 下手に言葉を探すよりも、事実をそのままの方が説明しやすいし


 「うん……何にもロックらしいモノがなくて、簡単に出できたよ……ただ…この魔法の革袋に込められていた魔力が、綺麗さっぱりになっていたらしくて、思いっきり魔力を吸収されちゃったんだよね」


 セシリアの言葉を聞いて、グレンが顔色を変える。

 実は、グレンが奴隷になった経緯のひとつの要因は、膨大な魔力を内包しながら、策略をろうされたコトで魔力枯渇になったコトだったりする。


 「リア、大丈夫なのか? 見たところ、一応魔力枯渇にはなってはいなそうだが……大量に奪われたんじゃないのか?」


 魔力枯渇となって、身動き出来ないどころか昏倒した経験を持つグレンは、セシリアの身体に手を走らせて、異常が無いかを確認する。


 えぇ~とぉ~…ひゃぁぁぁぁ~……ぐ…ぐれぇ~…ん……落ち着いてぇぇぇ~…

 こんなふとましい…たるな…私の…身体を……触らないでぇぇぇ……

 恥ずか死ぬよぉぉぉぉぉ~……ふえぇぇぇ~ん…ルリも止めてよぉぉぉ~……


 というセシリアの内心に気付かないルリも、マジマジとセシリアを心眼で確認し、その心身に歪みも欠損も無いコトを確認していた。


 そして、唯一、セシリアの心情に気付いたらしいユナが言う。


 「グレンお兄ちゃんっ……レディーの身体に……たとえマントの上からでも……触るのは…メッですよぉ……リアお姉ちゃんが倒れちゃうよ」


 ユナの言葉に、ハッとしたグレンは、たった今自分がしていたコト(異常が無いか確認の為に、マントの上からだが身体に触った)に気付いて、刹那で真っ赤になる。

 奴隷堕ちする前は、貴族女性の猛烈なアピール(セクシャル的なコトも多大に含む)に晒されていたので、そういう意味でも女性の身体に触れるコトに躊躇いというモノが無かったのだ。


 が、奴隷落ちしたコトで、長く異性とも触れ合っていなかったグレンは、たった今、自分がセシリアにしたコトを意識した瞬間に、男の事情が吹き上がったのだ。


 そうなったら、とれる手段はひとつなので、ささっと馬車に繋がれた軍馬達の確認へと向かう体を装って、セシリアから離れるのだった。

 自己の身体のコントロールをするコトは慣れているので、男の事情はどうにでも出来たグレンだった。


 だが、赤面したソレを元に戻すのには苦労するグレンだったりする。

 まして、自分の体形が墫なコトを気にしているセシリアは気付いていないが、グレンがセシリアを女性として好ましいと思い始めているだけに、一度赤面してしまうと、平静を装った表情を取り繕うのが大変だったりする。


 そのコトに気付いたらしいルリは、グレンをからかうコトなく、さりげなくセシリアに言う。


 「ほらほら…リアが自覚なく危ないコトしたから、グレンがおかしくなったよ……きっと、グレンは魔力枯渇を味わったコトがあるんだろうよ……だから、過剰に心配したんだろうねぇ……かくいう、アタシだって魔力枯渇を経験したコトある……あれは、キツイからねぇ……それで、リアは何も感じないのかい?」


 あははは………つい最近まで、常に魔力枯渇状態だったから………

 う~ん…そういう意味では、鈍感になっているのかもぉ……

 てへ…ぺろっ……って言ったら、不味いかな?


 お茶目でごまかせる雰囲気ではないと見て取り、セシリアは肩を竦めて言う。


 「うん…それはね、全然大丈夫だよ………私は、魔力枯渇を何度も味わったコトあるから……まだ、全然余裕だよ……それに、魔力枯渇を何度もやると、魔力量が増えるから……って、言われていたしね」


 一応、アゼリア王国にいた時に、神官達に言われたコトをもっともらしく言ってごまかす。


 「おや、リアは魔力量を増やす為に、魔力枯渇に何度もなったコトがあるのかい……どうりで、妙に繊細な魔力操作に長けていると思ったよ……よほど小さい頃から、随分と鍛錬したんだろうねぇ………魔力量が半端ないくらい多いのは、そのセイだったのかい…納得だよ」


 妙な感心をするルリに、セシリアはなんとも言えない表情で答える。


 はぁ~……どこぞのネット小説の中のキャラみたいに、魔力を使ったら痩せるとか有ったら、良かったのになぁ~……

 はぁ~……どのくらいの期間……頑張ったら、痩せられるのかしらねぇ


 そう言えば、あれも…確か…聖女……じゃなかったかな?

 じゃなくて、これでもしかしてごまかされてくれたかな?


 セシリアは小首を傾げながら、取り敢えず、たった今の成果を口にする。


 「そ…それより……ほら……なんか…もの凄い…ご都合主義な……展開なんだけど……魔法の革袋の中に、犬笛があったんだよ……コレ使えるかなぁ? あと鍵の束と、通行許可証、こっちも使えそうじゃない……ここで手に入れた魔法の革袋の中から出たモノだから、この古代遺跡で使えるかもしれないじゃない」


 ちょっとアセアセしつつも、セシリアがそう言えば、だいぶ落ち着いたらしいグレンが戻って来て言う。


 「取り敢えず、軍馬達の装身具や足回りは大丈夫そうだったぞ………それと、リア…その…慌てていたとはいえ……許可もなく……触って…ゴメン」


 ちょっと視線を外しながらそう言うグレンに、セシリアはドキドキがとまらなかった。


 うわぁ~うわぁ~……どこのラノベ展開な……じゃないっ

 これじゃ…本当に…ヒロインになっちゃいそうだよぉぉぉぉぉぉぉ~……


 いや、グレンはもの凄く素敵だよ…本当にイッケメンだしね

 声だって、めちゃくちゃイケボだしね………じゃないでしょ、私


 内心でひとり突っ込みしたセシリアは、現在進行形の古代遺跡の探検へと意識を無理矢理軌道修正する。


 「う…うん……私も…あんなに魔力を持って行かれるとは思わなかったから……ただ、そういうのに慣れていたんで、そこまで心配するとは思わなかったのよ」


 と言うセシリアに、そういう意味での情緒がまるっきり育っていないユナが聞く。


 「ねぇ~…リアお姉ぇちゃん……ユナも魔力枯渇まで頑張ったら、魔力量って増えるのかなぁ?」


 期待で瞳をキラキラさせているユナに、セシリアはちょっと小首を傾げてから言う。


 「そぉ~ねぇ~……絶対の安全な場所で、魔力枯渇した時の対応が出来る大人がいる場所でだったら、出来ると思うよ………どこか落ち着ける場所を見付けたら、その時に試してみようね………今のここは…私達にとって未知の『ダンジョン』だからね」


 「うん」


 「それじゃ、取り敢えず、またゆっくりとこの古代遺跡の外周を見て回ろうねぇ」


 そう言って、全員が馬車に乗り直して、再びゆっくりと古代遺跡の外周見学ツアーをするのだった。


 いや、しかし、魔力枯渇ってそんなに大変なコトだったの?

 ……っていうか、マントの上からとは言え…グレンに身体を触られちゃった

 色々な意味で警戒しなきゃいけないのに、キャッキャウフフ展開は困るわね


 それにしても、本当に、何処までが乙女ゲームの設定なの?

 ゲーム展開の強制とかあるタイプなのかしら…それとも無いタイプなのかしら?

 酷いのになると、決まったセリフしか言えないし、行動も決まった行動しか出来ない


 なんていう、もの凄く惨い設定とかもあったわねぇ~

 前世で読んだネット小説とかマンガに………ふぅ~……

 自分の立ち位置が確定していないってキツイわねぇ






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