第9話姿が変わりました
かくして、時空の神は、セシリアの願いをかなえた。
その両手に抱えられている、元陽の精霊王の靈石は、仄かに温かい卵へと変化していた。
微かな鼓動だが、たしかな時を刻み始めた卵に、龍帝の御霊が宿っているコトを実感し、セシリアは無意識の涙を零れ落としながら、心から時空の神に感謝した。
そして、声にはならないが、時空の神の慈愛に満ちた意思を受け取ったセシリアであった。
同時に、生まれながら渦を巻きながら流れ落ちる黄金の髪が、色を失い、青灰色を帯びた銀色の滝がサラリと背中を流れ落ちる。
強いくせ毛のセイで、ドリルな髪型以外の選択肢の無かった髪は、手櫛でもスルスルと梳ける銀色に変化し、キツイ巻きが無くなったコトで今は膝裏にまで毛先が届いていた。
うっそぉぉぉぉぉ~………長年の悩みだった、金髪ドリルがァぁぁ………
スルスルのサラッサラッの銀髪になってるぅぅ~……ご褒美ですか?
そう思ってから、流れ落ちる手触りの良い銀髪を見ながらハッとする。
あれ?でも、この髪色って、乙女ゲームのキャラに居た気がするんですけどぉ………
でも、この色は凄く嬉しい………あとは、重要人物じゃないコトを祈るわ………
瞳の色も捧げたけど、何色になっているのかしら?
なんにしても、髪の色が変わるだけでも印象は変わるわよね
そんなことを噛み締めているセシリアに、龍帝のか細い念話が届く。
………お嬢さん…解放してくれて…ありがとう……
使えるならば…我の亡骸を……有効に………っ…て………
セシリアに意思を告げると同時に、念話が切れる。
限界まですり減らされた龍帝の御霊は、新しい現し世の器を手に入れ、生まれ変わる為に癒しの眠りに入ったのだった。
う~ん………たぶんに、ラノベの知識も混ざっているのよねぇ………
たしかに、妹がやっていた乙女ゲームの世界でもあるようだけど………
私の知るRPGの世界にも、類似したところあるのよねぇ………
まぁ…ひとつの事柄でも、見る人や角度によって違うしねぇ………
それに、権力者の恣意的な思惑で、ゆがめられた歴史改変なんてよくあるものね
人の数ほどの真実があるように、ひとつの異世界でも、色々な物語りがあるのかも……
乙女ゲームに、冒険物のRPGに、ハンティング、国の陣取り興亡
他には、格闘技にシューティングもあるしねぇ………全部混ざってる
いやいや、一部を切り取って、ゲームや小説にしているのかもね
よく、小説家や漫画家なんかは、異世界を垣間観ているって言われてるし
なんにしても、龍帝陛下が使って良いって言ったんだし………
御霊移しした身体は………って、綺麗になっているんですけどぉ………
手の中の卵を大事そうに抱き込みなから、顔を上げたセシリアの視線の先には、傷ひとつない龍帝の身体が横たわっていた。
「えっとぉぉぉ………どういうコトぉぉ………ボロボロだったはずなんだけど?」
龍帝の身体を覆う、漆黒の金を帯びた艶やかな鱗には、楔も鎖も存在していない。
まるで眠るようにとぐろを巻いている身体を見て、首を傾げたセシリアは呟く。
「まぁ~……考えてもわからないわねぇ………ご褒美ってコトにしときましょうか」
入るかどうかわからないけど、使えって言われたコトだし………
持って行ける分は、アイテムボックスに入れて持って行きましょうか
龍帝陛下の身体は、誰にも使わせたくないものねぇ………
この卵から孵った龍帝陛下にあらためて聞いても良いしね
セシリアは、右手で御霊移しで龍帝が宿った卵を抱えながら、腕輪型のアイテムボックスへと収納を試みる。
と、何の抵抗もなく、龍帝の抜け殻となった身体はアイテムボックスへと、スルリッと入った。
びっくりだわぁ~……なんの抵抗もないし、圧迫感もないわ
がっぱりと、魔力も喰われた感ないし……はて?
アイテムボックスって、容量に比して魔力必要だったと思ったんだけど?
じゃなくて、この卵どうしましょう………手に持って歩くのはちょっと………
だからって、生きているからアイテムボックスになんて入れられないし………
いいしばらく悩んだセシリアは、大胆なコトを思い付く。
そうだわ、もともと魔封石は、私の鳩尾に埋め込まれていたのだから………
埋めなおしちゃえば良いわ………体積も倍になったぐらいだから………
とっさだったから、完治させる余裕なくて、表面だけ癒した状態だし………
ちょっと痛いけど、転移で元の場所に入れちゃえば良いわね………
セシリアは、マントの前を開き、藤紫のドレスのドレープがたっぷりとある部分を探り、鳩尾の辺りを撫でる。
実は、この藤紫のドレスは、ドレープが幾重にも重ねられており、前側の数か所は縫われずに、重ねただけになっていたりする。
愛情がもらえず、穢れが浄化できない為、年々肥え太り、樽のような体型となったことで、胸腹部がつらいと訴えた結果、そういう仕様で仕立てられたのだ。
鳩尾に埋められた魔封石も、ここに手を突っ込んで、抉り出したのだ。
セシリアは場所を確かめ、其処に卵をソッとあてて、意識を集中し、体内に取り込むイメージで転移を行う。
自分自身を移動するコトは出来ないが、いわゆる、アポーツと呼ばれる極小規模の物の移動が出来たりする。
勿論、思考などを制御されていても、そんなコトを申告したりはしなかったが………。
良かった……これで、無くしたり、奪われたりする心配が無くなったわ
私を探し出して、再び国土・国民の生贄にするコトはできないでしょうし………
何と言っても、色が違うのは大きいわよねぇ………あとは、この体型ね………
それも、浄化の為の器の役割が無くなったから………痩せられるだろうし………
取り敢えず、別の国に行きたいわねぇ………とにかく、遠い国が良いわ
それに、フード付きマントは手にいれたけど、このドレスは不味いわ
「はぁ~………着替えになるようなモノ無かったのよねぇ………残念だわ」
そう呟いたセシリアは、改めて龍帝が拘束封印されていた巨大な魔法陣が描かれた台座を観察する。
ふむ、立体魔法陣なのね………天井や梁に柱にも、魔石が埋められているわね
じゃなくって………さっさと、此処からおさらばしないと不味いかも………
ここに龍帝陛下を封印した、元凶が現れないとも限らないものねぇ………
もう既に、龍帝陛下を解放したのバレてるかもだし………
そうじゃなくても、龍帝陛下が死んだコトを確認しに来るかもだからね
ここは『三十六計逃げるに如かず』よね………
拘束封印の立体魔法陣は興味あるけど、グスグスしてられないものねぇ………
取り敢えず、脱出できる場所を探さないとね………
そう思い、周囲をキョロキョロするが、来た道は消えている上、徐々にだが、再び闇夜色に周囲が閉ざされ始めていた。
はうわぁぁぁ~………もしかしなくてもぉ……不味いですわぁぁぁ~………
こういう時、ゲームならボスキャラが消えた部屋の裏とかにあるのに………
ここは定番
ってコトで………あるかも………探すのよ、セシリア………
なんか……めっちゃ…ヤバイって……警報が頭の中でなってるのよぉぉ………
うわぁ~ん………地震の警報音みたいのが……グワングワンよぉぉぉ………
この立体魔法陣の後ろを、取り敢えず、探すしかないわね………
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