第4話記憶とほとんど相違なし?



 セシリアは、ゆっくりと周囲を見回す。

 が、全体を把握できるほどには見えなかった。


 それでも、砂漠の地下に埋もれた古代遺跡ではあるが、一部の機能が生きているようで、深淵のような何も認識できないような暗闇ではなく、仄暗くうっすらと見える。


 「ふぅ~……一応、少しは機能が生きているってコトかしらねぇ………」


 思わず無意識にそう呟きながら、あらためて自分が立つ足元の床をジィーと見詰める。


 流石に暗くて良く見えないわねぇ……

 って、しゃがめば良いだけじゃない


 セシリアは床の確認の為にしゃがみ込む。


 「……っ…ぅぅ~………」


 驚きや緊張で忘れ切っていた膝と額の痛みに、セシリアは思わず呻く。


 はぁ~……怪我を治癒するコトすら忘れていたわ

 取り敢えず、怪我だから『ヒール』……と……

 ……はぁ~……痛みが引いたわね………


 額と膝の痛みが消えたセシリアは、乙女ゲーム画面で見たコトのある床であるかを確認する。


 うん……この模様であっている……よね………

 あの乙女ゲームってば、変なところで凝っていたのよねぇ~………


 それにしても……何というが、なんか感動するわねぇ~……

 乙女ゲームの世界が、現実にあるってコトが………


 床に描かれた文様を指先でたどりながら、セシリアは呟く。


 「どうせなら、もっとしっかり観察したいですわ」


 やっと自分の身体の自由を取り戻したコトで、無意識の呟きや行動をとめられ無かった。


 んぅ~とぉ………『ライト』…………で、良かったようですわね


 周囲が明るくなり、見える範囲が広がったコトで、セシリアは前世での乙女ゲームの世界を堪能するコトにした。


 しばらく床の何とも言えない幾何学模様を指先で堪能し、気持ちが落ち着くのを待つ。


 「さて、この古代遺跡って、乙女ゲームでは機能がほとんど死んでいたのよねぇ……」


 ただ、正規のルート………蟻地獄の巣の底から流砂に飛び込む………で、来ると

 スイッチになる場所に魔力を注ぐと、遺跡の機能の大半が復活するのよねぇ………



 足元の幾何学模様の方向と、乙女ゲームで見た時の模様の配置を確認したセシリアは、ゆっくりと立ち上がり、古代遺跡の壁のある方向に向かって歩き始める。


 足元の変化を見落とさないように摺り足で歩き始めて、セシリアは靴を履いていないコトに気付く。


 やぁ~ねぇ………何時の間にか靴も脱げていたのねぇ………

 なんか、動揺し過ぎて、自分のコトなのに見落としが多いわねぇ


 王太子妃教育で、大概のコトには感情を揺らさない自信があったけど………

 考えてみたら魔道具で色々と制御されていたのよねぇ………


 いくつもの魔道具で雁字搦めになっていたからかしらねぇ………

 解放されたコトで、ふわふわしている気がするわねぇ………


 そんなコトを考えつつ、乙女ゲームで知っている知識を元に、古代遺跡の壁にまでたどり着く。

 手を伸ばせば古代遺跡の壁にまでたどり着いたセシリアは、もう一度無詠唱で『ライト』を唱えて、周囲の明るさを増す。


 えぇ~とぉ~……どの辺だったかしら?

 乙女ゲームでのキャラの身長と、今の私の身長の差は?


 そんなコトを考えつつ、壁面に描かれた物語りの中に、巧妙に隠されているスイッチを探す。


 身長的に考えて、胸上から顎下辺りの高さに描かれた幻妖神華を探さないと………

 あれって、一輪だったかしら?

 それとも、束だったかしら?


 セシリアは、前世で唯一ちょびっとやったコトのある乙女ゲームの内容を必死で思い出そうとしながら、幻と詠われる幻妖神華の壁画を探す。


 あれって、妹に頼まれてやったのよねぇ~……

 その妹の名前も思い出せないわ


 その前に、私自身の名前も家族の名前も思い出せないわねぇ

 妹が居たのは確かなんだけど………


 っと……ありましたわね……たぶんこの一輪を握っている指………


 セシリアは覚えている乙女ゲームのワンシーンを思い出しつつ、小指の爪の部分を魔力を込めながら押す。


 魔力を注ぎ込みながら押し続けること、約3分。


 カチッ………ポッ……ポッ……ポッ……… 


 微かな音と同時に、古代遺跡の中に煌々とした灯かりが点っていく。


 はぁ~……あっていたようね……となると、やっぱり乙女ゲーム……なのね

 題名も攻略対象も思い出せない乙女ゲームなのよねぇ………困ったわ


 だからって、同じような転生者がいるとは限らないし………

 ラノベ定番の敵キャラだったりしたら困るし………


 私は、お役御免で乙女ゲームの悪役令嬢?からはフェイドアウトしたいのよね

 モブ?や当て馬?も御免だわ


 しっかりと古代遺跡の灯かりを点したセシリアは、荘厳とも言える壁画群を見詰める。


 この古代遺跡には、どのぐらいの人手がかかったのかしらねぇ………

 どうやって造られたか興味が尽きないけど、今は生きる為に行動しないとね


 かなり欠けている前世の記憶を頼りにしつつ、セシリアは遺跡の中を歩き回るコトにした。


 確か、この古代遺跡には、ヒロインの能力向上の為のモノとかあったのよねぇ………

 武器に防具に着替えとなる衣服や靴とかないかしら?


 そんなコトを考えつつ、知識にある小部屋や大きな部屋を見て歩く。

 乙女ゲームの記憶通りに宝箱などがあちこちにあり、セシリアはかなりホッとする。


 取り敢えず、当面の生活費とかは何とかなりそうよねぇ………

 何よりも嬉しかったのは、マジックポーチと腕輪型のアイテムボックスね


 なんと言っても、この古代遺跡の中にある宝物とかを、ぜぇ~んぶ持っていけるもの

 本当に、良いアイテムがあって助かるわぁ………


 この異世界は、私の知っている乙女ゲームと類似はしているけど

 私にとっては、現実世界なのだもの……ヒロイン達に遠慮なんてしないわ


 さぁー……取り敢えず、根こそぎ持って行くわよ






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