第3話馬車の外は砂漠でした
セシリアは男達に手首と足首を握られた瞬間、無意識に身体強化を発動する。
走る馬車の後部から放り出されたコトによるフリーホール中、身体強化によって強化された視力や聴力が、魔物の歓喜を含んだ唸り声を拾う。
うわぁぁぁぁぁぁぁ~ん…おとりぃぃぃぃ~…肉壁ぇぇ…うそでしょぉぉぉ………
走り去る馬車の後ろが遠くのと同時に、近付く声と足音。
セシリアは、空中で身を無理やりひねり、なんとか足から着地する。
同時に、流砂の方へと敢えて走り向かう。
樽のような身体からは想像できない俊敏な動きに、飛びかかったサンドウルフの牙が空をガチンっと噛む。
いやですわぁ……サンドウルフのコトを忘れてましたわ
そう言えば、キツネやウサキなんかも居ましたわねぇ
じゃないですわ……今は逃げなければ………
一瞬ですが、蟻地獄のハサミが見えましたわ
その瞬間に、セシリアは行動を起こす。
すなわち、見えた流砂へと飛び込んだのだ。
それも、蟻地獄がいる漏斗状のソコへと。
私の身体強化なら、何とかなるはずですわ
それに、もし、この世界が私の知っている異世界なら……この選択が正解のはずっ
セシリアは、蟻地獄の拡げられたアゴをすり抜け、その背中を滑り降りて行く。
その視界の隅みで、セシリアを追い駆けて来たサンドウルフが蟻地獄の拡げられたアゴに捕まるのを確認し、ホッとする。
獲物をゲットすれば、蟻地獄は捕獲した獲物の体液を吸いつくし、その身体を食べ尽くすまで、次の獲物を襲わない習性があるのだ。
セシリアは、そのまま蟻地獄の背中を滑り降りて、漏斗の中心へと飛び込み、必死で砂をかいて深みへと潜り込んで行く。
呼吸を止めて、感触が変わるまで砂漠を潜行すれば、其処に渦巻く流砂へと触れる。
やっぱり、ありましたわっ………
ひんやりとした流れる砂へと身を任せれば、流砂はスルスルとセシリアを飲み込んでいく。
はぁ~……後は、身体の周りに結界魔法と風魔法で膜を張って………と
あとは、終着点まで運ばれれば良いはず
セリシアは流されるまま、流砂に身を任せながら思考の海へとダイブする。
断罪の時に頭を打ったコトで前世を思い出したのよねぇ………
年齢は思い出せないけど……前世は、社畜に近い生活していたわ
完全なブラックっていう程は酷くなかったと思うけど………
ネット小説とかアニメとかは好きだったけど………
妹や同僚がハマッていた、乙女ゲームは興味なかったのよねぇ………
婚約破棄に断罪に追放だから、たぶん、乙女ゲーム?
確か、ソレが定番の設定よねぇ……
じゃなければ、悪役令嬢モノの小説……それもありかしら?
家庭用RPGのゲームはそれなりにやってたけど
オンラインゲームは、私的にハードルが高くて………
課金なんてもっての他の節約生活してたし………
たまの外食が楽しみっていう程度の生活だったような気がする
はぁ~それにしても、食事も美味しく感じなかったのよねぇ……
まったく、酷い国だったわねぇ……本当に
ひとの身体を浄化の道具にするコトに罪悪感もない人達
愛情の無い、貴族としての契約結婚だからって、あれじゃねぇ………
今世の両親を思い出し、無意識に肩を竦める。
私という生贄が居なくなった今、あの国は衰退するでしょうねぇ
国土や国民に降りかかる、災いや穢れを受け入れて浄化する器が消えたのだから
セシリアは気付かなかったが、王侯貴族の中で広がる妬み嫉みから呪いまで、強制的に受け入れさせられていたセシリアという器を失ったコトで、既に国の中は乱れ始めていた。
が、前世を思い出したコトで、国や国民に対しての情を失っているセシリアは、今の自分の今後にしか興味は無かった。
流砂の流れに身を任せたまま、セシリアは前世でやったコトのあるゲームや、読んだコトのある小説を一生懸命に思い出していた。
アレも違う、コレも違うと思い悩んだセシリアは、フッと妹がやっていた乙女ゲームを思い出す。
いわゆる逆ハーと呼ばれる乙女ゲーム。
ただし、その乙女ゲームは、ミニゲームというには本格的に攻略しなければならないクエストがいくつも存在していた。
あの乙女ゲームって、なんというタイトルだったかしら?
攻略対象は、王太子・騎士団長嫡子・神官長の次男あとなんだっけ?
後2人ぐらい居たはずなんだけど………
そう言えば、隠し攻略キャラが………って言ってたような………
興味なかったんで、わからないわねぇ……はぁ~………
タイトルすらわからないのは困ったわねぇ……
たぶん立ち位置的には、悪役令嬢ってところであっているとは思う
けど、そこから逆転してヒロインっていうのは勘弁して欲しいわね
興味ないから、これでお役御免で自由ってコトで良いわよね
強制力ってモノに引き摺られるなんて冗談じゃないもの………
攻略キャラはわからないけど、一部のゲーム内容は覚えているのよねぇ……
インパクトあったのは、正規の攻略ルートが蟻地獄の巣に飛び込むだったわね
古代遺跡からの魔法陣による転移は、正規ルートじゃなかったのよねぇ
幾つかの遺跡から転移出来たけど、どれもハズレで………
蟻地獄の巣から流砂に流される………は、偶然知ったルートなのよねぇ
もし、私の知っているゲームなら、このルートが正規のはず
正規ルートだと、遺跡内にひしめく魔物や魔獣が居ないのよねぇ
その上で、ご褒美の宝箱がいくつもあったんだけど………
そんな都合良くはいかないかもだけど、少なくとも私は死んだコトになるはず
追い掛け回されて、あんな国の為に、また生贄されるなんて御免だもの………
そんなコトを考えている間に、セシリアは流砂の流れからペッと吐き出される。
身体を取り巻く流砂が消失した其処は、タイトルは忘れたものの、ゲームの中の内容と酷似した場所だった。
「ふぅ~……思っていた通りの場所に出たわね」
そう独り言を呟いてから、セシリアは軽く頭を振る。
取り敢えず、この古代遺跡の探索をしてみましょう
覚えているゲームの通りに、正規のルートなら安全なはずだし
「それにしても、此処って砂漠の地下なのよねぇ………」
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