1/2.

 晩夏。高評価を受け続けるカスタマーセールスクローラーチームは意見交換ランチに向かう中、エレベーターホールにて。


「そうよね、拓実。今の茜だったら、女性でも好きだもの。デート良いんじゃ無い。茜もずっとフリーだし、いってらっしゃいよ」

「えっつ、俺、言ったの、困るな。でも聞き流して、ごめん美月さん、ごめん茜さん、そう言うのじゃ無いから」

「いいえ、ホテルのコースならokですよ」

「ホテルか、高輪のホテルコロッセアムのスイーツバイキングしか知らないからな」

「それ誰と行ったのよ。なーんて聞きません。茜、こってり太って帰って来なさいよ」

「ああ、まあ、喜んで」


 鳳拓実の失言は、実際にはピアニッシモな心の声を一瀬美月が拾い上げて既成事実にしている。この誘導尋問で、鳳さんは個別バッチェラーパーティーの、さあ愉楽へと誘われる。ああだ。

 さてフロアに着きました。と思いきや、後ろの方では、美月さんと鳳さんが濃厚なキスをして、胸を揉ませている。美月さんは嫉妬で発憤するのは分かってる。アララで、私は最上階のボタンを押し、閉じるボタンを押し飛び出る。まあ、婚約期間を楽しんでと見送る。


 今の私はそう、デートは喜んでになる。ここ最近の男性鳳拓実と来たら、挙動不審だった生理的に受け付けられないの線が消えて、男性のあり得ない優しいまなじりをする。女性と懇意になる事で、女性の好きそうな笑顔が自然と仕上がってるのだろう。

 恐らく、美月さん一人でも鳳さんを仕立て上げれるだろうが、美月さんは基本せっかちなので、業務委託は正解と思う。まあ、鳳さんが揉まれに揉まれてのその路線なのだけど、意外に根を上げないのは、一角の能力者とは良い意味で大らかなのだろう。


 そして翌日には、鳳さんが、より紳士らしくホテルコロッセアムのスイーツバイキングのチケットを差し出し、その週の土曜日に行く運びになった。



 +



 ホテルコロッセアムのスイーツバイキングデート当日、土曜日。私は人生として一番輝ける設定をした。

 この日の為に、幕張を早く切り上げては、表参道のプライベートデザイナーズショップを巡り、まだ幾ばくかの残暑で出揃っていないオータムシーズンのモンスーンのレースドレスをゲットし、うん、やぼったくない。バッグだけは、津軽の地主である祖父から貰ったものを、補修しながら後生大事に使っている。化粧は血色を更に強く、ノーフレグランスで、より自然に仕上げた。私にしては後にもない完成度。仕上げ過ぎて、君誰にならない、ニュー百目木茜の素晴らしさ。


 私達の待ち合わせ場所は、ホテルコロッセアムのラウンジ。互いに千葉の近隣なのに、不要なダベリ無くすべく、をいざ現地集合で新鮮さをただ確保した。

 そして、待ち合わせの鳳拓実は、ブランドブラックスーツに、髪はトサカを立てて、モデルテイストを前面に出してくる。私の血色がほんのりと上がる。防御と攻撃が混ざり合う、20代しか出せない色香っがほんのりが合格点。ここ迄、さぞやバチェラー仲間の女性陣に仕上げられたのは、見事だ、先輩方々。勿論アフェアも猛烈に盛り上がっただろう。


 あと、鳳さんのホテルコロッセアムのスイーツバイキングのチケットはどうやらエクスクルーシブらしい。専任のエリートモデルみたいな女性ギャルソンが付いては、直接日光が当たらず、中庭を一望出来るフレンドシップテーブルへと案内された。私は素直に舞い上がろうと思う。


「こった高げえところ、まんず、照れます」

「百目木様。敢えてマウンドの地ならししなくても、私共が最大限のおもてなしをさせて貰います」

「百目木さん。このギャルソンさんの伊地知美鳥は、俺と同じ最楽寺院出で、営業のノルマに協力するのみです。そう、妹扱いだから何なりと言いつけて下さい」

「謹んでお受け致します。お二方の最高の一日をサポートさせて貰います」


 そう、確かにスイーツバイキングのホールも、素敵なスイーツが並ぶロングテーブルには軽く80mある。一仕事かと、料理と盛り付けには自信があるので、ここを女っぷりを存分に見せられる。いや、必要なのは家庭的かと逡巡した時に、既にギャルソンの伊地知さんさんが通しのスイーツを運んで来た。通しの9割が私の好みをリサーチ済みかで、後の1割はスイーツバイキングの推しのスイーツだった。この序盤の高度な駆け引きで、私は、今日は間違いないでしょう。鳳さんは、そうでしょうと顔がクシャクシャになる。


 私は、スイーツバイキングと有り、朝食はミールに、昼食の主食は無しで挑んでいる。お腹の空き具合で、欲する味覚が変わるかと思ったら、がっつり満たすベイクド系も、ギャルソンの伊地知さんチョイスされ、女性の心理も窺える完璧ぶりだ。

 それならばと、ワインを所望すると、スパークリングと甘さの強い赤ワインを外した、選り抜きの赤ワインと白ワインをテイスティングする。鳳さんへは赤ワインをそのままに、私はこの際飲み干したいと、2ランク上の白ワインを求めた。ギャルソンの伊地知さんは夕方迄の長期戦ですよと、舌を荒れさせない様に1ランク上で止める様に促される。私は心の中で、いやね、鳳さんとsexする為にデートしているので、導火線に兎に角火を付けたいのよとクスリとする。ここ迄露骨なのも、鳳さんのテレパシーが1/2になってるので気持ちが大きくなってる。

 私は敢えて澄まし、淑女の視線を、ギャルソンの伊地知さんに送る。伊地知さんは、そちらですかと妹分ならでは素の顔になる。そして、私は運ばれて来た大正解の白ワインを、よろしいですわねと微笑む。ワインが上手いと、人生は大凡上々だ。


 私は、まあ飲むと愉快になる。逢瀬有りきの合コン以外では、アルコール控えるので、私の豪放磊落で愉快愉快。鳳さんは徹底的に引き、ちびちびと赤ワインで真っ赤になって行く。そして鳳さんは、やっと2時間で潰れる。

 私は勝った、の愉悦に浸るも。ギャルソンの伊地知さんが、お兄ちゃんを連発するものだから、私は血の気が真っ逆さまに引いた。そうだった。今年の3月の東日本大震災で、鳳さんは脳外科手術を受けて、未だ身体はの筈だった。今日迄、普通にカスタマーセールスクローラーチームの長い会議に付き合ってくれていたので、全快したと思い込んでいた。まずい、非常にまずい。


「伊地知さん。鳳さんを、お部屋に連れて行きますので、先に、フロントで一部屋開けて貰えますか」

「百目木様。それなら、鳳様のブラックスーツの外側右ポケットにカードキーが有ります。お部屋は2502のツインです」

「えっつ。伊地知さん、あなたは、」

「百目木様。私は見える系統です。さあ、私が鳳様を背負いますので、カードキーを抜いて貰えますか。ホテル従業員では就業規則に反します」

「いいえ。そこはお構いなく。柔い男位、難なく負えます」


 私は、背もたれに掛けた鳳さんのブラックスーツの外側右ポケットからカードキーを抜くと、伊地知さんの透視の通り、確かに2502だった。いやそれより、早くツインへと、ヨイショと鳳さんを手際よく背負っては、ホールを軽々と進む。伊地知さんが驚き顔で着きそう。


「百目木様、本当に、力持ちなのですね」

「そうですよ。実家が津軽で、系列に醸造所もあるので、大きな米袋の搬出位は全然大丈夫です」

「ひょっとして、凄い系ですか」

「ここは内緒ですよ。それ言っちゃうと、力任せに挑まれちゃいますから」

「良い一日を」

「ありがとうございます」


 とは言え、背中の鳳さんのしな垂れ具合では、ワンショットあるか、いやないかだ。密着した下半身のサイズは標準。ただやたら硬い。これ迄の各種合コンの飲酒後の柔さを差し引いても、今迄の中で最高の部類だ。これを私が包むとなると、今から頭の中が歓喜の中でしかない。そして不意に、届く。


 ——茜さんと、出来る、やっと。

 ——茜さん、不細工だけどグラマー。

 ——茜さん、今日が折角の、なのに。


 いやいい。不細工は、すっぴん見るとそのままだから許す。

 それよりこのテレパシー、ピアニッシモなあの声ではない。何故心の声がはっきり聞こえるのだろう。テレパシーは轢き逃げ事故で、ほぼ無くなった筈なのに。そう、受信がなくなって、今は送信のみ、これは1/2のギフテッドだ。

 そして、ここ迄密着してのゼロ距離なら、きちんと届くものなのか。身体の萌芽か、私の身体の中の導火線がすべて燃焼し、燃えたぎった。そうか、この率直な声を聞きながら、私の感度とはを全て受け止めたい。これは生涯最高のsexになる筈だ。身体でも心でも受け止めらるのは、幸福何だろうな。

 いや待てよ。普通の男性なら、それを全部声にして褒めちぎるでしょう。全く、鳳さん。これだから照れ屋さんは。いや違うかな。全ての男性が、忌憚なき最高の感性を、私にぶつける筈もない。


 そうだよ、生理的に受け付けられないの心ない言葉。そんな言葉を女性として言ってはいけないと、今やっと我が身に持ち戻る。美月さんの品性とは、鳳さんをより愛し抜いてこそのもので、それは私も怒鳴られる。

 ここ迄、回り道してきたね。その分、この後のアフェアで挽回してみせるから。

 さて、鳳さんに、どんな誘いを切り出そうか。どうしても可愛く悩む。



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Pianissimo 判家悠久 @hanke-yuukyu

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